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私の主人、騒がしい湖畔に招待される

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「ど、どうしちゃったんですか!?ねぇ、シニフェ様、返事をして下さい!!」
「……」
「そっちは湖ですよぉ!雪が降っている中で湖なんか入ったら死んじゃいます!!」

私たちが到着すると、湖のほとりでシニフェ様を全身で引き止めるプランの姿がありました。筋肉がついて体格が良くなったプランは、少なく見てもシニフェ様の1.5倍は重いはずですがその巨体を引きずって前に進まれていらっしゃいます。

「プラン!」
「エノーム!あ、フォジュロンも!!お願い、一緒にシニフェ様を止めてよぉ!」
「プラン坊ちゃん、何があったんだ」
「2人で部屋にいたら、急に光った物が窓から入って来てシニフェ様を取り囲んだんだ。そうしたら急にシニフェ様が宙に浮いて、窓から外に飛んで行こうとしたから僕、驚いて足を捕まえたんだよ」
「プランがしがみついた状態で宙に浮くなんて」
「驚くのそこぉ?ーーそれに僕の声も聞こえないみたいでずっと上の空なんだ」
「とっ、とりあえず湖から引き離すぞっ!ペルソン、おェも手伝え」

フォジュロン氏が叫んでいるのに愚図エルフは耄けた顔で私たちを眺めていました。そしてフォジュロン氏の腰辺りを指さして震える声で言いました。

「フォジュロン、君、そこに持ってるのは何?」
「今そんな事言っとる場合っ、うおぉ精霊が寄って来とる!!そうだこりゃ、おェに渡そうと思って持って来たグランメション侯爵家にあったダガーだ」
「グランさんが言ってた例のヤツだよね?フォジュロン、マズイ、精霊がそれをグランメション侯爵令息に使おうとしてる!」
「本当か!?」
「こんな時に嘘つかないよ!!」

と言うと、フォジュロンの腰からダガーを奪い取ると湖の反対側に放り投げました。
するとどこからか囁く反響した不思議な声がしてきました。

『なんて事するの』
『アルダーズの匂いがしたのに』
『あれを取って来たらアルダーズが戻ってくる?』
『アルダーズ返って来てくれる?』
『ああ、でもあれじゃ足りないね』
『うん。まだ足りないね』
『この子なら良いんじゃない』
『そうだね、この子をより代にしようよ』
『もっとアルダーズに近いものがあったらこの子にあわせよう』

子供の声に聞こえますが、老人の声にも思えるささめきが光と一緒に雪と合わせて降ってきました。
そんな生まれて初めての不可思議な光景に一瞬我を忘れていましたが、シニフェ様を寄り代にしてアルダーズを復活させようというのでしょうか。
そんな勝手な事させる訳には行きません。
私は縄を出すとそばに生えていた木に一方を巻き付け、反対側にシニフェ様の腰を結びつけました。それからプランを先ほど投げ捨てられたダガーの方に吹っ飛ばしました。

「うわぁっ!?」
「すみませんプラン、このお詫びは後ほどさせていただきますので!とりあえずあのダガーを壊していただけますか!」
「ガスピアージェの坊ちゃん、ペルソンも飛ばせ!手伝えると思う」
「承知しました!」
「ちょっと、えっ、っちょ」

これまでの恨みつらみを込めてエルフも反対側へ吹っ飛ばしますと、残されたフォジュロン氏と私でシニフェ様を掴み湖に進まれているのを阻む事になりました。
せめて意識だけでも戻っていただければ何とかなりそうですが、上の空なのは相変わらずで私たちの声も聞こえていないようです。意識を戻す……これはある意味で意識が混濁されているのと同じ状態なのではないでしょうか。
そう考えた私は家系魔法を使い、意識を浄化する事に決めました。
しかしシニフェ様の顔の前で指を鳴らすように魔法を使った瞬間、状況が更に悪くなりました。
先ほど見た光が私の指先に寄ってきたのです。

『浄化できるの?』
『浄化してくれるの?』

わらわらと寄ってくる光はまるで虫が蠢いているように見え、ぞっとしたところで父上からの言葉を思い出しました。
『間違っても家系魔術でなんとか出来ると思ってはいけない』
父上、そんな遠回しな表現ではなく『使うな』と言って下さるべきでしたよ。
指先から這い上がってくる光に飲み込まれていく私を見たフォジュロン氏が叫んでいます。私も叫びたいですが、恥ずかしい事に驚きで声が出ません。
ああもう、次から次へなんなのでしょうか。
そもそもあの戯け者エルフがおかしな行動をするからこんな事になったのです。

終わってから罰を受ける前提でシニフェ様にもプラン達と同じように後ろへ飛ばすことが出来れば良かったのですが、光がそれを阻んでいるのでしょう。何度掛けても弾かれるのです。

「そうです!」
「なんだ坊ちゃん、良いアイデアでもあんのか?」
「どうやらこの湖の中に引っ張り込みたいようですので、中に引きずり込めないようにさせていただきます」
「ん?どういう事だ」
「つまり凍らせてしまおうと思います」

私の発言を聞いたフォジュロン氏は一瞬真顔をみせると、すぐにニィっと満面の笑みを浮かべました。

「そいつぁあ良い!出来そうか!」
「やります!」
そう叫んで渾身の力を込めて水面の温度を下げるようにしました。
すると端の方からジワジワと氷が出来始めましたが、湖が大きいため中々氷が広がりません。私の魔力がつきる方が速そうです。さらに悪い事に、魔力を使う方に力を寄せてしまったことで、引っ張る事もできなくなりそうです。

「あ!賢い!そっちの方が私も手伝えるよ」

との声が聞こえた瞬間、湖の全面が凍りました。
振り返るとドヤ顔エルフがプランと並んで立っていました。

「プラン、ダガーの方は大丈夫ですか?」
「ええー、私の事は無視?」
「当然だろが!」
「大丈夫。ペルソンさんがなんか魔法を掛けたら精霊達からは認識出来なくなったみたい~」
ほら、とプランが上を指差すと先ほどの声がしていました。

『どっかいっちゃった?』
『なくなっちゃった』
『それじゃあ今日はもうおしまいだね』
『また今度だね』
と聞こえた途端、シニフェ様を引っ張る力も消えて行きました。

ようやく一息つく事が出来た私たちは眠られたようなシニフェ様を囲んでその場にへたり込んでしまいました。
「実はベグマン公爵の鏡の件はあまり心配していなかったのですが、今日の事で決してシニフェ様に近づけないと心に決めました」
「僕も~。鏡って何よ?位に思ってたけどこんなの反則だよ。シニフェ様使ってアルダーズ・ヘルダーを呼び起こそうとするなんてさぁ。それに今日のダガーよりも鏡の方が威力が大きいってペルソンが言ってるからもし今日持って来てたらヤバかったね」
「鏡は私が直接ベグマン公爵家に取りに行くようにするよ」
「えっ、それはちょっと不安だから、フォジュロンにお願いしたいかなぁ」
「筋肉君まで!?酷いなぁ」
「おェが変な事せんで、さっさと説明しとったら良かったんだ。あ、今はちゃんと”人避け”切ってるだろうな?」
「それは勿論、3人をウチに連れて来てすぐに切ったよ」
「ガスピアージェの坊ちゃん、アレだ、コイツは愉快犯で変な事をするが、根はただのおっちょこちょいなんだ。水に流せとは言わねェが、コイツしかアルダーズ関連の物を封じ込められんのよ」
困ったように眉をハの字垂らしながら、フォジュロンはペルソンを親指で指差した。

「それを決めるのは私ではなくシニフェ様ですので」
目が覚められるまでは保留にさせていただきましょう。
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