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私の主人、財布を開いた事がない

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なんだかんだとこれまで知りたかった事を端からペルソンとフォジュロン氏に質問する間に帰る日がやってきました。
今後の動きとして決まったのは、ペルソンがベグマン公爵家に行く手はずが整ったらフォジュロン氏から連絡をいただけるということだけでした。
それだけでも大きな進歩です。なにせ、今までの私たちは何も知らなかったのですから。
色々あった滞在ではありましたが、私たちは満足して一旦家に帰る事となりました。


帰る日のこと、見送りに来た2人は各々こう言いました。
「じゃあね☆久々に楽しかったよ」
「おェは…はぁ。坊ちゃん方、本当にすまねぇな。何だったら侯爵に報告してもかまわねェからよ」
「ふふ、お父様に言って大事おおごとにする訳にもいかないから、そうだな……ノワールに言っておこうか」
「ダメダメダメ!! シニフェ君、もう二度としないからノワールにだけは私がした事を言わないでおいて!」
「ノワールさんってそんなに怖い方でしょうか?細かい印象はございますが」
「ねぇ?」
「君たちは、若い頃のノワールを知らないから言えるんだ!私はノワールのおかげでエルフなのに死ぬかと思った事が2、3度あるんだよ」
「あれもそもそもはおェが悪いだろうに…。ーーおっ、列車が来たな!」
到着するのを知らせるように遠くから汽笛の鳴る音がすると、すぐさまホームの横に列車が到着しました。そうしますと、フォジュロン氏は停止した列車の扉を開き、手慣れた手つきで私たちの荷物を中に積んで下さいました。

「それじゃあワシらの方で準備ができたらプラン坊ちゃんに連絡しますからな!」
「待ってるよ~」
「気をつけてね☆」
別れの挨拶をして私たちは列車に乗り込みました。
まったく寂しさもないあっさりとした別れなのはすぐ顔を合わせる事になるのを知っているからか、この1週間で碌な目に会わなかったからなのか、私たち3人の中で1人もその事については触れません。
入り口で手を振り、彼ら2人が見えなくなったところで、来たときと同じように特別車両へ向かうことになりました。


部屋に入りますとすぐにシニフェ様は倒れ込むようにソファに横になり、クッションに顔をうもれさせます。
「っはぁ~~~!つかれた!」
「ですねぇ~」
「このような旅は二度と御免ですね」
私とプランも向かいに置かれたソファに体重を全て預けて座り込みました。沈み込む感触が心地好く、このまま眠ってしまいそうです。
うつらうつらとしてしまっていると、シニフェ様が顔をあげられました。

「遅くなったけど、今回の件は本当にごめん」
「いえいえ、まぁ誰が悪いという物でもなくタイミングってところですし!」
「そうでしょうか?明らかにあの困ったエルフが諸悪の根源と思いますが」
「誰が悪いかって言えば、僕もそうだと思ってます!だからシニフェ様が悪いのではないので被害者として振る舞っていらっしゃれば良いんです」
そう言ってプランはニパっと、快活な笑みをみせると自分の鞄の中から紙の筒を取り出しました。
「終わってしまったことよりも、これからのお話をしませんか。僕多分、すぐに寝ちゃうと思うし、シニフェ様もエノームも多分疲れてるでしょう?だから伝えたい事だけ先に伝えておきたいんです」
と、その筒をソファの前にあったローテーブルの上で広げました。
その紙をシニフェ様と私が覗き込みますと、そこにはベグマン公爵家の貸借対照表や出入り商会との取引状況、また領地の損益計算書が書かれていました。

「ベグマン公爵家との取引金額を一緒に考えたくて」
「すごいな!こんなのどうやって調べたんだ?」
「シニフェ様と言えども、入手方法はお教え出来ませんがちょっとした伝とだけ言っておきます~」
シニフェ様からの疑問をそう躱すと、プランは貸借対照表の中のある数字を指差しました。
「ここ、現金預金も有価証券もほとんどの資産がまあ酷いもんなのね。純資産はマイナスだし負債もすごいんだけどね。本当によくこんなんで家を保っていられるなってむしろ感心しちゃうレベルですよ」

さすが得意分野なだけあります。
プランの立石に水を流すような説明を聞いているシニフェ様も、感心するように相づちを打たれています。

「そんなに酷いのか。ゲームだと金額の話はなかったけど、プランの見立てとしてはいくらなら取引に応じると思う?」
「そうですねぇ~、まぁ大体500万リーブルあれば当面の負債は賄えそうですから少し色をつけてあげて600万リーブルですかねぇ」
「ろっ…600万リーブル……ですか」
さらっと言いますが、一般家庭の年収は軽く超える金額です。現物を見ていないので何とも申し上げられませんが、鏡1枚に600万リーブルとは異常な価格と言わざる得ません。
あの鏡がシニフェ様に害を与えると知らなかった頃であれば、決して納得できない金額でした。

「どうしたエノーム?600万リーブルって高いのか?」
小首を傾げてそう仰るシニフェ様はグランメション家の御令息なのでお小遣い程度の認識しかないかもしれません。そういえば、この方はご自分で買い物をされたことはあるのでしょうか。
私たちと行動する際は私かプランが支払いますし、お一人で行動されることはないですし…。
落ち着きましたらお一人で買い物に行っていただくようにするのも良いかもしれません。

「そうですね~、この金額は普通のご家庭なら一家5人くらいが平気で1年間生活できちゃいますねぇ。平気どころか裕福な一般家庭と言われるレベルですねぇ」
「そっ、そうなのか!そんな大金ならこれからどうやって集めるか考えないといけないな」
「さっすがシニフェ様!ここで侯爵家やウチの商会のお金を使うって考えにならないところが素晴らしいです」
「そうですね。600万リーブルは大金ではありますが、シニフェ様でしたらお小遣いでもなんとか出来てしまう額ですしね」
「あるにはあるが、それに手を付けちゃうと色々面倒くさそうだしな」
「まぁそうでしょうねぇ~。銀行の引出し履歴とベグマン家の借金の支払いで関連づけられでもしたら事ですからねぇ」
「商人や借金関係の者は周辺の金銭の動きを観察していることも考えられますから、ここは結びつかない方法を考えた方が良さそうですね」
「そうそう、僕もそう思ってるんだよねぇ。僕達で稼ぐ方法を考えないと」


そう言ってプランは私を見つめました。
ああ、つまり、稼ぎ方を考えるのは私ということなのでしょう。
列車が目的地に着くまで考えつけば良いのですが……
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