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私の主人、忘れられる

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「侯爵と公爵がやり取りをしていただくのは避けるとなると、シニフェ様が仰った第三者として取引を持ちかける必要がありますね」
それた会話を戻すようにそう発言すると、プランも頷きました。
「そこで堂々巡りになっちゃうんだけどさ、グラン商会ウチとベグマン公爵家は接点がないから、唐突に話をする訳にはいかないし、『第三者をどうするか』ってとこだよね」

プランの言葉に、その場の全員が悩み始めました。
さてどうすべきでしょうか。
そもそもの問題として、ベグマン公爵が鏡を持っているという事実は隠されてはいないですが、公然の事実ではないのです。カテゴリーとすれば目的をもって調べればどうにか分かるという類のものになるでしょう。
ですので、私やプランが学校でこの件についてベグマン公爵令嬢に話をすれば、彼女から警戒心を持たれても不思議はないでしょう。
『何故知ったのか』『何故そんな事を知りたいのか』
と聞かれれば、シニフェ様が特殊な力でご存知です、と言うのも苦しい気が…

「あ!」
「どうしたエノーム、名案が浮かんだか」
「名案かは分かりませんが、先ほどペルソンさんはエルフの中でも純血と言っていましたよね」
「そうだよ☆別に血なんて成分で考えれば皆一緒なのに故郷では結構敬われてるよ☆」
「人間はエルフという存在だけでも神聖視しています。その上でエルフの中でも敬われるような存在なのでしたら、最早尊い存在として神殿と関係はないのでしょうか?」

私の発言にペルソンはあからさまに嫌そうな顔を見せました。
「関係はまぁそこそこあるけどさぁ、神殿でなにするの?あそこ堅苦しくって嫌いなんだよね~」
「神殿ならアルダーズの鏡をベグマン公爵家が持っている事を知っていてもおかしくはないのではないでしょうか?」
「たしかに!ほれ、おェ、あれ150年くれェ前に神殿から言われてアルダーズの本を手に入れた事があったろ?あん時ですら、もはや神殿でも押さえられる人間がいないっちゅーて」
「ああ思い出した。あの本、大騒ぎになってたよね。そっか、神殿ですら対応出来なくなってるんだから一介の家庭じゃ管理も難しくなっている可能性がありそうだね☆」
「そこです。時を経てそのような事があったので、『エルフである自分が管理をすべきだと考え、神殿から話で聞いている場所をたずねている』とでも言えばおかしくはないでしょう」
「それならおかしくないかも☆」
「ただ、そうしてしまいますとグラン伯爵がペルソンさんに鏡を売るという形が成り立たなくなってしまいますが……」

勢いで思いつきの案を話してしまったせいで、グラン伯爵のビジネスチャンスを潰してしまった気がします。さすがにプランも怒るでしょうか?
少々顔を見るのが怖いですね……と思いましたが特に怒ってもいないようですし、悲しそうでもないですね。

「問題ないよ~。ペルソンとお父様は取引相手だけど、この鏡を売るって言うのは建前だから」
「建前?」
「あ、しまった。シニフェ様がいたの忘れました」
「忘れるって・・・それになんで俺がいたらダメなんだ?俺にだけ隠し事をするのか?」
プランの言葉に肩を落とされました。
その姿を見たプランは慌てて理由を説明し始めました。

「違いますよ!うー、聞いても怒らないで下さいね」
「約束するよ」
「お父様と好事家さんーーまぁペルソンなんですけど、彼とは僕も今回初めて会ったのでこんな人とは知らなかったんですよね。その2人はここで取れる物を優先的に売ってもらうために侯爵の許可をいただいているんです。僕も詳しくは知らないんですけど……」
と言ってプランはペルソンをちらりと見ました。
するとペルソンはその視線をそのまま隣のフォジュロン氏に向けてしまうので、会話の続きは流れるようにフォジュロン氏が受け持つことになりました。

「ワシが説明しよう。ここじゃ精霊石が取れるが、精霊石は貴重だ。何にでも使えるし、持っている国の国力そのものをあげちまう。だからそんな大層なもんが取れるって分かったら、国からも規制されちまうし、他国もここを狙ってくる。代々侯爵家はそれが悩みだった。そこで、5代前から侯爵家との契約をしてワシらドワーフが”人間には辿り着けない場所”で掘ったっちゅうことにして売っておったんだが、これもいつバレるか分からんかった」
「そこで出て来たのがうちのお父様です」
「グラン伯爵が売ったら、すぐにバレちゃうんじゃないの?」
「そのまんまやりゃあな。そこでグラン伯爵は一度エルデールで採った精霊石を、こっそり隣国のドワーフワシらが営む商会に運び込む手はずを整えた。そうして、そこで扱う精霊石を国内に輸入するという事にしたんだ。隣国じゃ、昔からの盟約でドワーフワシらが鉱石を掘ったりするのや鍛冶をするのに使用するもんは、全部無税だし、人間は介入しないことになっておるから追求してくる人間はおらん」
「取引量の制限があるから一気には持ち込めなくはなるけどね☆ それで私が魔術で一時的に石の性質を退行させて、一部をただの石にして、国内に入ってから戻すって作業をしてるんだ。その作業の対価として、アルダーズの関連品とか情報をグラン伯爵に提供してもらっているわけ☆」

ここまで話を聞いたところでシニフェ様が思い出したと指を立たせました。
「はぁ~、皆色々抜け道を探すもんなんだな。そういえば、お母様のとこのお爺様に会うといつも『新しい剣は欲しくないか?剣でなくとも良いぞ、銃なんてどうだ』って言われるけど、あれはドワーフ製だったのか」
「そうだな。隣国のドワーフは特権をもらう代わりに王家に武器を大量に卸とるからな。そんでもって、その商会に関しては、坊ちゃんのお母様がオーナーという形をとってもらっとるから誰も手出しはせん。今でこそ侯爵夫人だが、ご結婚前に始めた事業だから、だーれも不思議がる事もなかった」
「ーーそんで何でプランはこれを聞いてでなんで俺が怒ると思ったの?」

シニフェ様から問いかけられたプランは言い辛そうに顔を俯かせ、私の袖を引っ張りました。
私から説明しろということでしょうかね。

「シニフェ様、プランはこれが『悪い事』であると思っていたので、『悪役にならない』と決めているシニフェ様が聞いたら止めろと仰ると思ったのではないでしょうか?」
「なるほど。まぁ、悪い事ではあるだろうけど、誰も不幸になってないんだろ?」
「そこは保証するよ☆」
「ワシらもその点は制限をしとるからな。そもそもグラン伯爵は武器には使用しておらんしなぁ」
「なら別にいいんじゃない?」

という答えを聞いたプランは多いにほっとした表情をしていました。
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