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私の主人、世界と命で天秤にかけられる
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アルダーズの言う約束、それこそが彼を消滅させる条件でした。
フォジュロン氏とペルソンが言うには、アルダーズのおとぎ話はほとんど実話だそうです。
村人の敵であった強欲な王を葬り去ったアルダーズはラ・トゥールの岩山で、自分の心臓を赤い槍で突くように英雄に頼んだというのです。
精神が壊れて行く中、アルダーズは最後の良心としてその場に唯一生き残っていた使者にエルデールに居る精霊を託し、ドワーフの作った槍に自分の力のほとんどを渡したそうです。
「待って!アルダーズは今シニフェの体なのよね?消滅させた場合、シニフェは、私の息子はどうなるの?」
侯爵夫人は涙を隠す事もなく悲鳴に近い声で叫びました。
「そこはノブレス・オブリージュってことで我慢していただくしかないです」
「領民達を守る事は我々の責務とはいえ息子を好き好んで犠牲にする親がどこに居る!」
「人間ひとりと、世界のバランス、どちらが大事かなんて考えるまでもないよ」
「フォジュロン!貴方も同じ意見なの!?」
「姫様すまねぇ…。ワシら一族はアルダーズの約束を果たすように子供の頃から言われとる。グランメションの坊ちゃんににゃ悪いが、……ペルソンの言う通りだ」
「何を言う?!お前達はグランメション侯爵家を敵に回すのか!?」
ああ、やはりこのペルソンというエルフと出会ったときの直感は間違っていなかった。
人間とエルフ達は考え方が違うと思えばその通りなのですが、人間をなんだと思っているのでしょう。
怒鳴り合う侯爵達に加勢するように、私とプランはペルソンとフォジュロンに武器を向けました。
「ガスピアージェの息子さんに筋肉君、君たちもそっちなんだ」
「当然でしょう」
「冷静に考えてみなよ、ひとりと世界だ。人柱になるのならそれも英雄だよ。グランメションから英雄がでるなんて名誉じゃないか」
「ーーまさかとは思いますが、ペルソンさんあなたは初めから今回の事を計画して」
いやしかし、今回鏡をもらう事になった経緯は私が考えつきました。
元々ペルソンは神殿と関わるのは嫌がっていましたし……
ちくしょう。
ペルソンがこっちを見て笑っています。
私たちが向ける武器は怖くもないということですか。
「上手い具合に君が動いてくれたよ。まぁポーションと引き換えって言うのは予想外だったけど☆ ベグマン公爵ったら、金カネかねってうるさくて参ってたんだ。僕らは金を稼ぐと言う事はあまり向いていないし、ベグマン公爵とやり取りもしたくなかったんだよね。ありがとう。お陰で無事に鏡が手に入ってシニフェ君に渡す事が出来たよ」
「だからお前ェはそうやって煽るんじゃねぇ。侯爵も侯爵夫人も、坊ちゃん方も、すまねぇ。ここでアルダーズを還してやらんと、もうこの世はどうしようもなくなっちまうんだ。詫びにもならんが、ワシらもこれが終わったら腹を切るつもりでいる」
「そうですか、それは重畳です。最後をそのように迎えられるというご決意、恐悦至極に存じます。あなた方の今後のご多幸をお祈り致します」
侯爵方は純血のエルフが命をかけるという発言に事態の大きさを察したらしく、口を噤まれました。しかし、私からすればあなた方が事の終わりに命で謝罪したとしても嬉しくもありません。
武器を下げずにいた私とプランを見ているペルソンは「やるの?」と好奇心を含んだ眼で爛々としており、こちらの動きを興味深そうに観察しています。
私を含めた人間がどう動くのかを知りたい、そう言わんばかりです。
ここでコイツを愉しませてやるのは癪に触りますが、方法を考えなくてはなりません。
今の状況に侯爵夫人は今にも卒倒しそうです。そのお隣にいらっしゃる侯爵はーーせめて最後は己の手でこのエルフを潰すことを決めた腹づもりでしょう。
そんなことになれば、ご自分のことで問題が起きたとシニフェ様は悲しまれるに違いありません。
「ペルソンさん、一つ気になっていたのですが」
「なぁに?私が君たちの味方か、敵かってこと?それならどちらでもないよ。会ったばかりだけど、友人、知人としては君たちの事は興味を持っているよ。でもーー」
「それはすばらしい!光栄で涙も出ません。由緒あるエルフ様に質問ですが、アルダーズが入ってしまったシニフェ様の本来の魂はどこにいらっしゃるのでしょうか?」
私の一言にフォジュロン氏はハッとした顔を見せました。
「それはそうだ!肉体にふたつの精神があるっちゅう事だよな!アルダーズの魂だけを消滅させりゃ良い」
少し光明が見えたとフォジュロン氏がペルソンを見上げると、彼は首を横に振りました。
「シニフェ君の魂はまだ残ってるはずだよ。でも肉体が死ねば二人とも死ぬよ。居場所がないんだもの」
「先ほど仰っていた槍で死ぬのはアルダーズであって、普通の人に対しても即時的な効果があるのでしょうか?」
「でもエノーム、槍だよ?心臓をさされたら普通死んじゃうじゃない」
「ええ、普通は致命傷ですが即死ですかね?数秒あれば、それこそペルソンさん貴方の一族の時間魔法で肉体の時を一時的に止めてもらえませんかね。そうしていただければ、その間に私が治療出来るのではないでしょうか?」
フォジュロン氏とペルソンが言うには、アルダーズのおとぎ話はほとんど実話だそうです。
村人の敵であった強欲な王を葬り去ったアルダーズはラ・トゥールの岩山で、自分の心臓を赤い槍で突くように英雄に頼んだというのです。
精神が壊れて行く中、アルダーズは最後の良心としてその場に唯一生き残っていた使者にエルデールに居る精霊を託し、ドワーフの作った槍に自分の力のほとんどを渡したそうです。
「待って!アルダーズは今シニフェの体なのよね?消滅させた場合、シニフェは、私の息子はどうなるの?」
侯爵夫人は涙を隠す事もなく悲鳴に近い声で叫びました。
「そこはノブレス・オブリージュってことで我慢していただくしかないです」
「領民達を守る事は我々の責務とはいえ息子を好き好んで犠牲にする親がどこに居る!」
「人間ひとりと、世界のバランス、どちらが大事かなんて考えるまでもないよ」
「フォジュロン!貴方も同じ意見なの!?」
「姫様すまねぇ…。ワシら一族はアルダーズの約束を果たすように子供の頃から言われとる。グランメションの坊ちゃんににゃ悪いが、……ペルソンの言う通りだ」
「何を言う?!お前達はグランメション侯爵家を敵に回すのか!?」
ああ、やはりこのペルソンというエルフと出会ったときの直感は間違っていなかった。
人間とエルフ達は考え方が違うと思えばその通りなのですが、人間をなんだと思っているのでしょう。
怒鳴り合う侯爵達に加勢するように、私とプランはペルソンとフォジュロンに武器を向けました。
「ガスピアージェの息子さんに筋肉君、君たちもそっちなんだ」
「当然でしょう」
「冷静に考えてみなよ、ひとりと世界だ。人柱になるのならそれも英雄だよ。グランメションから英雄がでるなんて名誉じゃないか」
「ーーまさかとは思いますが、ペルソンさんあなたは初めから今回の事を計画して」
いやしかし、今回鏡をもらう事になった経緯は私が考えつきました。
元々ペルソンは神殿と関わるのは嫌がっていましたし……
ちくしょう。
ペルソンがこっちを見て笑っています。
私たちが向ける武器は怖くもないということですか。
「上手い具合に君が動いてくれたよ。まぁポーションと引き換えって言うのは予想外だったけど☆ ベグマン公爵ったら、金カネかねってうるさくて参ってたんだ。僕らは金を稼ぐと言う事はあまり向いていないし、ベグマン公爵とやり取りもしたくなかったんだよね。ありがとう。お陰で無事に鏡が手に入ってシニフェ君に渡す事が出来たよ」
「だからお前ェはそうやって煽るんじゃねぇ。侯爵も侯爵夫人も、坊ちゃん方も、すまねぇ。ここでアルダーズを還してやらんと、もうこの世はどうしようもなくなっちまうんだ。詫びにもならんが、ワシらもこれが終わったら腹を切るつもりでいる」
「そうですか、それは重畳です。最後をそのように迎えられるというご決意、恐悦至極に存じます。あなた方の今後のご多幸をお祈り致します」
侯爵方は純血のエルフが命をかけるという発言に事態の大きさを察したらしく、口を噤まれました。しかし、私からすればあなた方が事の終わりに命で謝罪したとしても嬉しくもありません。
武器を下げずにいた私とプランを見ているペルソンは「やるの?」と好奇心を含んだ眼で爛々としており、こちらの動きを興味深そうに観察しています。
私を含めた人間がどう動くのかを知りたい、そう言わんばかりです。
ここでコイツを愉しませてやるのは癪に触りますが、方法を考えなくてはなりません。
今の状況に侯爵夫人は今にも卒倒しそうです。そのお隣にいらっしゃる侯爵はーーせめて最後は己の手でこのエルフを潰すことを決めた腹づもりでしょう。
そんなことになれば、ご自分のことで問題が起きたとシニフェ様は悲しまれるに違いありません。
「ペルソンさん、一つ気になっていたのですが」
「なぁに?私が君たちの味方か、敵かってこと?それならどちらでもないよ。会ったばかりだけど、友人、知人としては君たちの事は興味を持っているよ。でもーー」
「それはすばらしい!光栄で涙も出ません。由緒あるエルフ様に質問ですが、アルダーズが入ってしまったシニフェ様の本来の魂はどこにいらっしゃるのでしょうか?」
私の一言にフォジュロン氏はハッとした顔を見せました。
「それはそうだ!肉体にふたつの精神があるっちゅう事だよな!アルダーズの魂だけを消滅させりゃ良い」
少し光明が見えたとフォジュロン氏がペルソンを見上げると、彼は首を横に振りました。
「シニフェ君の魂はまだ残ってるはずだよ。でも肉体が死ねば二人とも死ぬよ。居場所がないんだもの」
「先ほど仰っていた槍で死ぬのはアルダーズであって、普通の人に対しても即時的な効果があるのでしょうか?」
「でもエノーム、槍だよ?心臓をさされたら普通死んじゃうじゃない」
「ええ、普通は致命傷ですが即死ですかね?数秒あれば、それこそペルソンさん貴方の一族の時間魔法で肉体の時を一時的に止めてもらえませんかね。そうしていただければ、その間に私が治療出来るのではないでしょうか?」
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