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その後の私たち
エルフとドワーフ
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言い伝えなんて物は案外いい加減な物でねじまがって残ってることだってある。
「そういやぁ、あん時ゃ深く考えてなかったがよ」
エルデールで荷造りをしている私を手伝う為にやってきた昔なじみのドワーフが語りかける。
「あの時っていつかな。フォジュロンがドラゴン退治をするってミスリルの斧を族長から盗んじゃった時?それとも君の伯父のヴェルンドが僕らの郷に侵攻しようとした時?」
「んな古い話じゃねェ。この間のグランメションの坊ちゃんの件だ」
「ああ。あそこまで無事に戻ってくるとは思わなかったよ」
私の言葉にフォジュロンは軽蔑するように片方の眉を持ち上げる。フォジュロンは私と違い人間と共生するのに抵抗がないのだ。
「まぁ、お前ェのことを思えば一概に非難するつもりはねェがな、あの子らは無関係だろうに」
「そうだね。私のエトランジュを騙してアルダーズの闇を取り込ませたのは別の人間だね☆」
そんな投げやりな言葉を断ち切るようにフォジュロンはため息をついて、私の荷造りを手伝い始めた。こんなに長らく腰を据える気はなかったけど、人間は少ないし精霊が多いしと居心地が良くて気がついたら大分荷物が溜まっていた。
アルダーズの件が無事に終わったのだから私がここにいる必要ももうない。
最後に質素な部屋の壁にかかった絵を外したところで、ようやく終わりの目処がみえた。
一区切りつこうと言うように私はフォジュロンの話を再開させる。
「ーーで、シニフェ君とエノーム君と筋肉……プラン君がなんだって?」
「いやな、ワシらは昔っから『アルダーズは英雄が槍を突き刺す事で解放される』って教わってきただろ?それなのにガスピアージェの坊ちゃんがアルダーズを消滅させちまったんが腑に落ちねェんだよな。精霊の状況を見る限り上手く還せたには間違いねェが……」
「ああ、それは私も不思議だった」
「だった?」
「うん。いくら人間嫌いとはいえね、この件に相談もしないで巻き込んだことは私だって悪いと思ってるんだよ。だから最後にシニフェ君にはちゃんと謝ったんだ。その時に聞いた」
残っていたカップとポットへ暖めたお湯を注ぐと、白い湯気が立ち上る。
私の話を聞いていたフォジュロンがその湯気を静かに瞳だけで追っていた。
昔からフォジュロンは私の上手くない話をこうして黙って聞いてくれる。同族でもさじを投げる私の話下手に付き合ってくれていたのは子供の頃から彼とエトランジュだけだった。
「シニフェ君、エトランジュの事を知ってたんだよ。凄いよね」
「ほう?しかしエトランジュが居た時ってのはグランメションの坊ちゃんどころが今の侯爵すら…」
「うん。なんか彼が元々居た世界に『ゲーム』っていうサガがあるんだって。そこにね、フォジュロンも僕もそんでちょっとだけどエトランジュも出てくるんだってさ。おかしな子だよね。ほんと」
カップを手渡しながら私が笑うと、フォジュロンが微笑ましそうに私を眺めているのが分かった。
自分でも人間とのエピソードをこんな風に話せる日が来るとは思っていなかったけれど、彼らであれば今後大丈夫になるかもしれない。
「そんで、シニフェ君もアルダーズに聞いたらしいけど、エノーム君にアルダーズは残ってた力をほとんど渡しちゃってたらしい。元々持ってた力の大半は、僕らが聞いてた通りに英雄と槍に渡しちゃってたからそれよりは少ないけど、その残った力」
「ん?ちゅーと、あれか?」
「そう!私がエノーム君を『僕らに近い』って言った理由はそれだったわけ」
「ほー。するってぇと、ガスピアージェの坊ちゃんもある意味英雄になっとったわけか」
「そうなんだよ。でも本人は知らないだろうし、興味もなさそうだよね」
あの妙な子供達の関係性はとても興味深い。
献身的とも言えるし盲目的とも言える。特にエノーム君については利他的とさえ言っても良い。
始めはそうならなきゃ生きていけなかった哀れな人間と思ってたけども、どうやら本人が好きでそうしているらしいので、人間とは面白いと思った。
そんな事を思って私が更に笑っているとフォジュロンも笑っていた。
「坊ちゃん方も変わっとるが、ホレ、あの英雄の坊ちゃんも不思議な子だったなぁ」
「あー、フォジュロン、あれは変わってるというよりも変態って呼ばれる類いの人種だよ」
「なんじゃそりゃ」
「シニフェ君達より先に彼に出会っていたら、私はあっちと仲良くなっていたかもしれないよ☆」
「ほー、いいじゃねぇか。今からでも仲良くなりゃ。ちょうどアレしばらく放浪するんだろ?」
「エトランジュに報告しに行かなきゃいけないから、そっち行ってその後すこしブラブラするよ。…フォジュロンも来るかい?」
「いいや、ワシは今度こそ最強のミスリルの斧を作ってドラゴンに挑まにゃならんからな」
「そっか」
どちらからともなく持っていたカップを置くと、フォジュロンは開いていた窓を閉め始める。そして、少し瞬きをして不思議そうにしていた。
「ありゃ?お前ェ、この間ワシが壊した窓ちゃんと直してねェじゃねェか」
「うん。思い出。全部直しちゃつまらないからね」
私はそう言って、今使っていたカップを荷物にまぜてから全て魔法の収納空間へ、丁寧に仕舞い込んだ。
仕舞った家財道具をもう一度出す事があるかはわからないけれど。
「そういやぁ、あん時ゃ深く考えてなかったがよ」
エルデールで荷造りをしている私を手伝う為にやってきた昔なじみのドワーフが語りかける。
「あの時っていつかな。フォジュロンがドラゴン退治をするってミスリルの斧を族長から盗んじゃった時?それとも君の伯父のヴェルンドが僕らの郷に侵攻しようとした時?」
「んな古い話じゃねェ。この間のグランメションの坊ちゃんの件だ」
「ああ。あそこまで無事に戻ってくるとは思わなかったよ」
私の言葉にフォジュロンは軽蔑するように片方の眉を持ち上げる。フォジュロンは私と違い人間と共生するのに抵抗がないのだ。
「まぁ、お前ェのことを思えば一概に非難するつもりはねェがな、あの子らは無関係だろうに」
「そうだね。私のエトランジュを騙してアルダーズの闇を取り込ませたのは別の人間だね☆」
そんな投げやりな言葉を断ち切るようにフォジュロンはため息をついて、私の荷造りを手伝い始めた。こんなに長らく腰を据える気はなかったけど、人間は少ないし精霊が多いしと居心地が良くて気がついたら大分荷物が溜まっていた。
アルダーズの件が無事に終わったのだから私がここにいる必要ももうない。
最後に質素な部屋の壁にかかった絵を外したところで、ようやく終わりの目処がみえた。
一区切りつこうと言うように私はフォジュロンの話を再開させる。
「ーーで、シニフェ君とエノーム君と筋肉……プラン君がなんだって?」
「いやな、ワシらは昔っから『アルダーズは英雄が槍を突き刺す事で解放される』って教わってきただろ?それなのにガスピアージェの坊ちゃんがアルダーズを消滅させちまったんが腑に落ちねェんだよな。精霊の状況を見る限り上手く還せたには間違いねェが……」
「ああ、それは私も不思議だった」
「だった?」
「うん。いくら人間嫌いとはいえね、この件に相談もしないで巻き込んだことは私だって悪いと思ってるんだよ。だから最後にシニフェ君にはちゃんと謝ったんだ。その時に聞いた」
残っていたカップとポットへ暖めたお湯を注ぐと、白い湯気が立ち上る。
私の話を聞いていたフォジュロンがその湯気を静かに瞳だけで追っていた。
昔からフォジュロンは私の上手くない話をこうして黙って聞いてくれる。同族でもさじを投げる私の話下手に付き合ってくれていたのは子供の頃から彼とエトランジュだけだった。
「シニフェ君、エトランジュの事を知ってたんだよ。凄いよね」
「ほう?しかしエトランジュが居た時ってのはグランメションの坊ちゃんどころが今の侯爵すら…」
「うん。なんか彼が元々居た世界に『ゲーム』っていうサガがあるんだって。そこにね、フォジュロンも僕もそんでちょっとだけどエトランジュも出てくるんだってさ。おかしな子だよね。ほんと」
カップを手渡しながら私が笑うと、フォジュロンが微笑ましそうに私を眺めているのが分かった。
自分でも人間とのエピソードをこんな風に話せる日が来るとは思っていなかったけれど、彼らであれば今後大丈夫になるかもしれない。
「そんで、シニフェ君もアルダーズに聞いたらしいけど、エノーム君にアルダーズは残ってた力をほとんど渡しちゃってたらしい。元々持ってた力の大半は、僕らが聞いてた通りに英雄と槍に渡しちゃってたからそれよりは少ないけど、その残った力」
「ん?ちゅーと、あれか?」
「そう!私がエノーム君を『僕らに近い』って言った理由はそれだったわけ」
「ほー。するってぇと、ガスピアージェの坊ちゃんもある意味英雄になっとったわけか」
「そうなんだよ。でも本人は知らないだろうし、興味もなさそうだよね」
あの妙な子供達の関係性はとても興味深い。
献身的とも言えるし盲目的とも言える。特にエノーム君については利他的とさえ言っても良い。
始めはそうならなきゃ生きていけなかった哀れな人間と思ってたけども、どうやら本人が好きでそうしているらしいので、人間とは面白いと思った。
そんな事を思って私が更に笑っているとフォジュロンも笑っていた。
「坊ちゃん方も変わっとるが、ホレ、あの英雄の坊ちゃんも不思議な子だったなぁ」
「あー、フォジュロン、あれは変わってるというよりも変態って呼ばれる類いの人種だよ」
「なんじゃそりゃ」
「シニフェ君達より先に彼に出会っていたら、私はあっちと仲良くなっていたかもしれないよ☆」
「ほー、いいじゃねぇか。今からでも仲良くなりゃ。ちょうどアレしばらく放浪するんだろ?」
「エトランジュに報告しに行かなきゃいけないから、そっち行ってその後すこしブラブラするよ。…フォジュロンも来るかい?」
「いいや、ワシは今度こそ最強のミスリルの斧を作ってドラゴンに挑まにゃならんからな」
「そっか」
どちらからともなく持っていたカップを置くと、フォジュロンは開いていた窓を閉め始める。そして、少し瞬きをして不思議そうにしていた。
「ありゃ?お前ェ、この間ワシが壊した窓ちゃんと直してねェじゃねェか」
「うん。思い出。全部直しちゃつまらないからね」
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仕舞った家財道具をもう一度出す事があるかはわからないけれど。
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