あくモブ短編置き場

詩月結蒼

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唯一信頼できる人

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「エヴァ、エヴァ」

 夜の森で私は彼の名前を呼ぶ。
 エヴァは私の声に気づくと、ゆっくりと目を開けた。

「もう10分経ったわよ。仮眠、交代して」
「⋯⋯ありがとうございますオフィーリア」

 夜空のような綺麗な髪が揺れ、闇を孕んだ瞳が私を見つめる。
 少し眠たげなその姿は、私しか見ることのできない貴重なものだ。

「随分気持ちよさそうに寝ていたわね」
「⋯⋯すみません」
「別に、怒ってないわ。あなたが寝ている姿なんて、滅多に見られないし」

 エヴァは裏社会で生まれ、育った人間だ。
 10分、20分寝るだけで体力が回復するような体になっているらしい。
 昔、そう教えてもらった。
 いったいどんなことをしたらそんな体になるのだろう。

「―――オフィーリア」

 エヴァが声を潜めた。
 視線の先には殺害命令が出ている人間が3人。
 彼らを殺すことが私とエヴァに課せられた仕事だ。

「展開」

 私は呪いと魔法を組み合わせた【夢幻牢獄】を展開する。
 対象者に幸せな夢を見せ、そして一番残酷な悪夢を見せる……それが【夢幻牢獄】だ。
 私の二つ名の由来だ。

「エヴァ」

 敵の首が一瞬にして飛ぶ。
 ぼと、ぼと⋯⋯と切断面から血が出て、地面が赤く染まっていく。
 エヴァのもとへ降り、敵が死んでいることを確認する。

「任務完了?」
「いいえ。まだいます」

 エヴァは血振りし、次の敵襲に備える。
 殺した敵には仲間がいたらしい。
 わらわらと私たちに狙いを定め、やってくる。

「オフィーリア。【夢幻牢獄】の拡大をお願いします」

 言われた通りに【夢幻牢獄】の範囲を拡大させる。
 その間にエヴァは次々に敵を殺していく。
 エヴァの力があればこの程度の敵は問題ないのだが、思ったより数が多かった。
 念のため、ということで【夢幻牢獄】を頼んだのだろう。
 2分足らずでエヴァは敵を一掃した。
 返り血一つつくことはなかった。

「お疲れ様」
「……腕がなまったかもしれません」
「そう? そんなふうには見えなかったけど」

 腕がなまったというよりは、仮眠から起きてすぐ動いたからではないだろうか。
 起床直後は誰だって体の動きは鈍い。

「こんどこそ任務完了?」
「ええ。帰りましょうか」

 別で待機している者に後始末の指示を出し、私とエヴァはその場を去る。
 戻ったらレグルス様に報告しないと。

「オフィーリア」
「なあに?」
「このあと、何か予定はありますか?」
「いいえ。なにも」

 そう言うと、エヴァはある提案をした。

「私が先に仮眠を取ってしまったでしょう? 帰ったら寝て構いません」
「確かに仮眠は取ってないけど、別に大丈夫よ。昨日寝たし」

 そこまで言って、私はふと思った。
 これは、チャンスなのではないかと。

「……エヴァは隣にいてくれる?」
「私は構いませんが……」
「じゃあ、隣にいてね。いつ敵が襲ってくるか、わからないもの。安心して私が眠れるように、そばにいてね」

 エヴァは忙しい。
 いつも会えるわけじゃないし、今日はたまたま一緒に仕事をすることになっただけだ。
 だから、こうやってふたりきりになれるチャンスをうかがっているのだ。
 エヴァとの時間は数少ない、私の大切な時間だから。

「あと、ぎゅってしてね」
「……」
「なによ。昔は寝る前にしてくれたじゃない。なんなら、頭を撫でてもいいわよ?」
「いつの話をしているのですか」
「昔の話よ。忘れちゃったの?」

 私がノイア・ノアールに入ってすぐの頃、エヴァは私のお世話係だった。
 毎日がつらくて、苦しくて、私はずっと泣いていた。
 そんな時、エヴァが私を抱き締めて、頭を撫でてくれたのだ。

『大丈夫ですよ。貴女は私が守りますから』

 どれだけ心強かっただろう。
 エヴァがいなければ、私はとっくに死んでいただろう。

「あれは、貴女がノイア・ノアールの力になると思っていたからで……」
「たまには心のケアも必要だと思うのだけれど、してくれないの?」
「……はぁ」

 エヴァはため息を吐くと、「少しの間だけですからね」と言った。
 こう見えてエヴァは押しに弱いのだ。

「ありがとうエヴァ。大好き」
「ちゃんと仕事してくださいね」
「はーい」

 彼は、私の唯一信頼できる人。
 とっても強くて、だけど優しくて押しには弱い、私の、大切な人だ。



――――――――――――
著者から/
 エヴァのことを優しい人言うのはオフィーリアだけです。終焉の死神エヴァと呼ばれている無表情男の感情をあっちこっちに振り回す天才です。エヴァを悩ます人物は基本的に自由奔放で予想外な行動に出ることの多い人です。オフィーリアほどではありませんが、フェーリとユリアーナもそのひとりです。
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