あくモブ短編置き場

詩月結蒼

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ユリアーナ、レティシアとお茶会(?)で語る。

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「リルとユヅルのあの星詠みの夜、最高によかったです! 本当にありがとうございますレティシア様!」

 フォーレイン邸に来て早々、私はレティシア様からいただいた本のお礼を言った。

「市井にあるのはあまり手に入れることができないので、すごく嬉しかったです! あの、あの、2巻ってありますか? あるならもう、すぐにでも買って読みたいです!」
「……少し落ち着いてくれませんか? 一気に話されても困ります」
「あっ……ごめんなさい」

 つい、本の話になると興奮してしまう。
 淑女らしく振る舞いなさい、と何度言われたことか。

―――こういうところなんだろうなぁ。

 私はひとつのことに集中すると、周りが見えなくなり暴走することがある(らしい)。
 深呼吸をし、レティシア様から勧められたお茶を飲み、一息つく。

「落ち着いてくださったのであれば何よりです。話を一度整理してもよろしいかしら? ユリアーナ様は今、わたくしが契約で送った本の話をしていたのよね?」
「はい。『星の神子リル』です」

『星の神子リル』は現在市井で人気を集めている本だ。
 神話に出てくる神様からの寵愛を受けた特別な子―――神子と呼ばれる人物と、その守護者たちの話を書いている。
 実際には神話に神子や守護者は存在しない。
 代わりにいるのは神様や神獣、〈精霊〉や〈竜〉などだ。

―――神様の名前ってよく例えや古い本に出てくるから、必修なんだよね。

 いずれ通うことになるであろう学校で、どの学科やコースを選択しても学ばなければならないらしい。
 神様の名前はとても多いので、物語として楽しみながら覚えることができる『星の神子リル』は教材的な本となっている。
 前世にあった歴史の漫画みたいなものだ。

―――面白いしわかりやすいし……『星の神子リル』は最高だね。

 今までに何冊も本を読んできたが、『星の神子リル』はどの本にも負けず劣らず素晴らしい作品だ。
 文句なしの1位である。

「……それで、何故わたくしはリンドール邸に招かれたのですか?」
「え?」
「前に契約をした時のお茶会からたったの1週間しか経っていませんよ? なにか、大事なお話があるのではないのですか?」
「いえ、特には」
「……」

 レティシア様は怪訝そうな目で私を見た。

「では、なんのようです?」
「本の話をしたくて」
「……」
「ほら、周りに『星の神子リル』を知ってる人っていないじゃないですか。レティシア様ならおすすめしてくださった本人なので、お話しできるかな~って」

 まず、そもそも私の周りのお貴族様に本好きな人がいない。
 それに加えて『星の神子リル』は市井で人気の本なので、一部の貴族は「平民の好むものを読むなんて」と嫌厭している。

―――誰が読もうが、面白いことに変わりはないのにね。

 創作物を適正に評価されないのは悲しい。
 ちゃんと価値のあるものは相応の評価されるべきだと思う。

「……ユリアーナ様。あなた、お茶会とは何か、ご存じ?」
「えっ……」

 これはちゃんと答えられないとよろしくない質問だろうか。

―――レティシア様がわざわざ訊くってことはかなり大事なことだよね? それに、レティシア様は意地悪な人じゃないから、きっと私も答えを知っているはず。うーん……。

 一般的な答えなら訊くとは思えない。
 だとしたら、私とレティシア様の間のみに当てはまることだろうか。

「―――密会、ですか?」
「なにがどうしたらそうなるのです」

 レティシア様は「はぁ」とため息をつく。

「密会じゃないんですか?」
「そんなわけないでしょう。少なくとも、今のわたくしたちが行うことはまずないです」
「え? でも、前のお茶会は密会なのでは?」
「……ユリアーナ様。密会の意味はご存じで?」
「こっそり会ってなにかやりとりをすることですよね?」
「……まあ、そうですね」

 何か間違っていただろうか。

「あのですね、ユリアーナ様。たしかに前回のお茶会では秘密裏に契約を結びました。が、基本的に貴族の間で使われる密会は、主に男女が密かに会い、蜜月を過ごすことです。あまり使わない方がよろしいですよ」
「ミツゲツ、ってなんですか?」
「…………」

 黙り込むレティシア様。
 私、なにか変なこと言っちゃったのかな?
 でも、ミツゲツってなんだ?
 見たことも聞いたこともない言葉だ。
 レティシア様はしばし考えると、「夫婦、または恋愛関係にある男女がふたりきりになること……です」と言った。

「レティシア様って、物知りですね」

 そう言うと、レティシアはなんとも言えない目をした。

「……純真無垢なのですね」
「? 今、なんて?」
「ひとりごとですのでお気になさらず」
―――変なレティシア様。

 今日は疲れているのかもしれない。

「話を戻してもいいかしら?」
「えっと、なんの話をしていましたっけ?」
「『星の神子リル』について語るためにわたくしを呼び出したことについてです」
「ああ、そうでした! レティシア様は誰推しですか?」
「……本の話をするお茶会なんて、聞いたことがないのですが」
「なんでもいいじゃないですか」
「良くはないですよ。……ふたりきりの時だけにしてくださいね、ユリアーナ様」
「! はいっ!」

 その後はとても有意義な時間を過ごせた。

「わたくしはアリア一択です。自分の意思を曲げず、毅然に振る舞うアリアの姿に憧れます」
「あ~、わかります。とってもかっこいいですよね。特に、リルを庇った時のあのセリフ! もう、最高でした……っ」
「2巻はもっと素晴らしいです。カランとの演舞の見開きイラストがとても素敵で……」

 楽しい時間はあっという間だ。
 気づけばもう、レティシア様が帰る時間となっていた。

「もっとお話ししたかったです……」
「今度2巻をお送りします。それを読み終わったら教えてください。そうしたらまた、お話ししましょう」
「! いいのですか?」
「……案外楽しかったです。毎週のように行うのは遠慮させていただきますが、何ヶ月かに1回なら構いませんよ」
「~~っ! また語りましょう!」
「ええ、また」

 レティシア様をお見送りすると、私は自室へ戻り、『星の神子リル』を再読する。
 語り合ってから読むと、また違った見方ができるのだ。

―――好きな本について話すの……すごく、楽しかったな。

 前世ではあまりできなかったから、今、できることに幸せを感じる。

―――レティシア様とは契約による協力関係だけど……。

 私の中で新たに『好きな本について話せる人』という枠ができた。
 とても嬉しい。

―――次のお茶会、楽しみだな~。

 未来でも同じような関係なのだろうか。
『星の神子リル』以外の本も語り合っているのだろうか。
 今の私にはわからないけれど、きっと良い未来が待っているのだろう。

―――綺麗な星空……。

 どれも遠い宇宙の向こうにあるはずのものなのに、ちゃんと見える。
 星って不思議だ。

―――いつか掴めるかな?

 空に向かって手を伸ばす。
 外は春の花の匂いと共に、涼しい風が吹いていた。



――――――――――――
解説/
・リル…星の神子。金平糖が好き。
・ユヅル…星の神子の守護者。優しい。
・カラン…花の神子。リルの友達。
・アリア…夜の神子。レティシアの推し。

著者から/
 1万PV超え記念(カクヨム)の時に書いたお話です。第1部の人物紹介ページの最後の方にもカクヨムの方のページを載せています。
 あくモブが完結したら書きたいものは3つです。星の神子リルの話、ユリアーナの一級魔術師試験の話、ルアのルミエール学院での話です。一級魔術師試験の話は本編と同時並行で書けるかも~と考えています。早くても来年になりそうです。


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