悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

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第一部

3.エリア―ナの「ずるい」

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 私の一日は毎日同じことを繰り返している。
 午前は母様から食事をいただき、午後はお昼寝と読み聞かせ。
 今日も何一つ変わらない日だと思っていた。
 ドアの開閉音がして、私は誰かが部屋にやって来たのだと知る。

―――サーシャではないわね。

 サーシャは先程読み聞かせを終えて部屋を出たところだ。
 私が寝たのを確認すると、サーシャは静かに部屋から出ていく。
 1ヶ月くらい実験していたので私の予想は当たっているはずだ。
 私の部屋に入れる人は限られている。
 次女とは言えど、一応公爵家の血を引いているため、狙われることもあるらしい。
 警備は厳重だ。
 今のところ父と母とサーシャしか入ったことはない。
 現在午後二時。
 両親は当然仕事があるため来るわけもなく、サーシャが来るには早過ぎる。
 となると今来たのは―――

「ユリィ……」
―――エリアーナ……。

 姉のエリアーナしかいない。
 エリアーナは私の方へ来る。
 エリアーナが私を寝かすために来たとは思えないので、私は寝ているふりをするのをやめる。

「ユリィ……」

 何の用かと私はただ待つ。
 そして―――

「ユリィは、ずるい……っ」
―――はい?

 私はずるいと言い出した。

「ずるい……ユリィずるい! ユリィはずるい!」

 ずるいを連呼するエリアーナ。
 だが正直に言おう。
 私はエリアーナにずるいと言われるようなことをした覚えはない。
 まったくないのだ。
 そもそも私がエリアーナと接触したのはユリアーナがだ。
 それ以来は会っていない。
 なのに何故エリアーナは私に対してずるいと思っているのだろうか。

―――私はエリアーナの妹、ユリアーナとして生まれて、ほっぺを触られたことぐらいなんだけどなぁ。

 身体が赤子のこともあり、今の私にできるのはただエリアーナの話を聞くのと、手をにぎにぎ動かすくらいだ。
 それ以外は何もできない。
 静かに黙って聞いていた(正確には静かに黙って聞くことしかできたかった)私の態度がしゃくに触ったのか、エリィは声を荒げて言った。

「……っユリィはエリィの妹! でもエリィの全部とっていいなんて言ってない!」
―――エリィの全部……?

 エリィの全部とは一体なんだろうか。

「ユリィのお父さまはエリィのお父さまなの! ユリィのお母さまはエリィのお母さまなの! だから……だからエリィのお父さまとお母さまをとらないで!」
―――あぁ、そういうことか。

 そこで私はようやくわかった。
 エリアーナの「ずるい」は私がフェーリお母さんディールお父さんを独り占めしていたことによる「寂しい」から生まれた「羨ましい」であると。

―――やっとわかったよ、エリアーナ。

 相談できる相手なんて、いなかったのだろう。
 フェーリお母さんディールお父さんに言って受け止めてもらえるのかと思ったのだろう。
 そうしてつらい気持ちをずっと一人で抱えていたに違いない。
 孤独なのではないか、エリアーナ自分の居場所はどこにもないんじゃないか、と不安に襲われ、苦しみを味わう。
 まるで出口のない暗闇の中にひとりでいるようで、そしてそれは永遠に続くように感じる。
 そんな苦しみを誰にも話せない。
 それが「孤独」だ。

―――わかるよエリアーナ。私も、あなたの気持ちがわかる。理解できる。

 綺麗ごとなんかじゃない。
 実際にも「孤独」を知っているから。
 自分は愛されていないのではないか、と思った時の絶望感は忘れられるものではない。
 心にぽっかりと大きな穴が空いてしまったかのように、空虚な感情が全身を覆っていく。
 の感情の起伏が小さいのは、私が前世で「孤独」のまま死んだからだ。

―――ねぇエリアーナ。

 エリアーナが「孤独」を感じたのはだ。
 新たな生命の誕生はめでたいこととされている。
 エリアーナもそれはわかっているし、ユリアーナが生まれた時も喜んでいた。

―――両親もユリアーナ初めての妹も大好きだから、愛しているから苦しいんだよね。

 その気持ちはよくわかる。

―――エリアーナ。やっぱり貴女《あなた》は私に似てる。

 「愛」を欲し、「孤独」だった私に。


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