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第一部
41.読書のためには回避しないとね
しおりを挟む「どうしてそんなに強い常闇の鴉が売られることになったの?」
「失敗したのさ、命令に」
「…………」
おそらくその命令は―――
「噂によると、エヴァ様にどっかの公爵家の幼女の暗殺を命じられたらしいんだが、失敗したらしい。しかも、エヴァ様の奴隷契約を書き換えられたんだと」
―――やっぱり。
私の暗殺がその命令だ。
「エヴァ様は失敗を一度も許さないし、すぐに信用を取り壊すから殺されるのは当たり前だ。それに刃向かったから、売りに出すんだと。あいつはいい暗殺者《アサシン》だから高値で売れる。厄介払いができて、金ももらえるなら一石二鳥だって話だ」
―――クソ王子並みに怖いな、エヴァ。
いや、クソ王子を超えたかもしれない。
―――それにしても……なんでエヴァは私の暗殺を命じたんだ?
エヴァと私に接点はない。
エヴァの取引相手に頼まれたとか?
金のためならなんでもやるって感じの奴には見えなかったけどなぁ。
それに、私を殺す理由とかある?
接点ないのに?
はっ、もしかしてクソ王子が暗殺を企んでいたり……いや、考えすぎか。
いくら私を嫌ってるとは言えど、殺す決断をするほどとは思えない。
クソ王子にも人の心はあると思うのだ。
なかったらクソの中のクソということになる。
まあ、そうかもしれないけど。
「エヴァ様とクロウ様の関係は弱かったのね」
「いや、そうでもない。母親が違えど、兄弟なことに間違いはないからな」
「異母兄弟ってこと?」
私は少年から聞いていたので知っていたが、あえて知らないふりをした。
「そうだ。エヴァ様は正妻の、クロウ様は愛人の息子だ。だからエヴァ様はクロウ様を従えているんだ」
―――ふうん……なるほど。
エヴァが主人なのは年齢以外にも理由があったのか。
正妻と愛人。
これも異世界あるあるの一つだ。
「クロウ様は戦闘能力に、エヴァ様は魔力操作と頭脳に優れていてな。あの二人に楯突く奴なんかいなかったよ」
「すごいのね、エヴァ様とクロウ様は」
「そうだ」
二人いれば最強無敵ってところかな。
なのにどうして―――
「なのに、クロウ様がエヴァ様の暗殺を企てていたとは……。不思議でならない」
そう、そこだ。
裏切る理由がわからないのだ。
「理由はわかってないの?」
「さあな。だが、方針の違いによるものだって予想はあるな」
―――方針……。
初めて少年にあった時のことを思い出す。
思い当たる言葉はいくつかあった。
『人体実験も兼ねて、孤児はみんな育てられる。死んだやつなんて数えきれないほどいる。お貴族様にはわからないだろうが、下町のやつらの命は信じられないくらい軽い』
『俺は見て見ぬ振りをするお前ら貴族が大嫌いだ。だから殺す』
痛いほどわかる、劣悪な環境と命の軽さ。
おそらくは、平民が自由に生きられるようになるのが少年の夢のようなものだ。
エヴァは少年の逆を行くのだろう。
「てわけで、クロウ様は目玉なわけだ。わかったか?」
「……ええ、わかったわ」
「それでもあんたはクロウ様を買いたいと」
「変わらないわ、それだけは」
エヴァに使われて、捨てられて。
そんな人生、認めない。
だって―――困るもの! 私が!!
闇堕ち主要人物はいなくもないけど、普通に戻るまでにかなり時間がかかるし、世界に影響が出ることもある。
つまり少年の未来は私の読書時間に影響が出るのだ。
―――読書のためには回避しないとね。
私はそのために動く。
「いくらあれば買えるかしら?」
「そうだな……」
男は悩むと、挑戦的な目で私を見た。
「―――1億コインだ」
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