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第二部
133.姉の婚約者
しおりを挟む「次の試合、ユリアーナ様はどちらを応援するおつもりで?」
「? どちら⋯⋯?」
私が知ってるのはエリィ姉さんが出ることだけだ。
他にも知り合いが出場するのか⋯⋯?
「知らないのですか? エリアーナの対戦相手、あなたの婚約者ですよ」
「え? ええっ!?」
アルトゥール様がエリィ姉さんと戦うってこと!?
そんなの聞いてない!
すると、わっと会場が盛り上がった。
エリィ姉さんとアルトゥール様が入ってきたのだ。
―――うわぁ⋯⋯本当にふたりが戦うのかぁ⋯⋯やだなぁ、応援しにくいよ⋯⋯。
エリィ姉さんにもアルトゥール様にも勝ってほしい。
とっても複雑な気持ちだ。
「私、この魔法戦見たくないです⋯⋯」
「姉と婚約者の勇姿を見ないのですか?」
「見ますよ! 見ますけど⋯⋯あああぁ」
思わず頭を抱える。
決められないよ、こんなの⋯⋯。
「相変わらず変な人ですね、あなたは」
「⋯⋯そういうブライト様はどうするのですか? エリィ姉さんを応援するのですか?」
「エリアーナもアルも応援するに決まっているでしょう。どちらか一方を応援しなければいけない、なんてルールはありませんからね」
「! たしかに⋯⋯」
ブライト様に言われて気づくだなんて、ちょっと悔しい。
試合開始の合図が出て、エリィ姉さんとアルトゥール様は互いに魔法を発動させた。
「【火焔】」
「【結界】」
どうやら今回のペアは魔法で戦う人と魔法剣などの武器で戦う人に分かれているらしい。
二人の相方がそれぞれ武器を使って交戦している。
よって、自然とエリィ姉さんとアルトゥール様の魔法対決となっていた。
―――エリィ姉さん、前よりも魔法、うまくなってる⋯⋯。
エリィ姉さんはあまり魔法が得意じゃない。
武術は人並み程度の力量だし、お母様やフィルのように〈精霊〉が見えるわけでもない。
そのことを嘲笑った人もいた(もちろん全員合法で処罰した)。
だけどエリィ姉さんは努力して、今では誰も「魔法が下手」だなんて言わなくなった。
エリィ姉さんはすごい人だ。
―――でもすごいのはアルトゥール様もだよ。
アルトゥール様は植物が好きで、魔力を含んだ水を使って育てるなどの研究をしている。
初めて会ったときはそのことを隠すかのような振る舞いをしていたが⋯⋯今はもう、好きだって言えるようになったみたいだ。
―――アルトゥール様の攻撃は植物の種を【促成】して操るものか⋯⋯。それをエリィ姉さんは【火焔】で対処する。攻守を交互に行ってるから、まだ優勢、劣勢は分からないな。
二人の間に圧倒的な力の差はない。
どちらが勝ってもおかしくない状況だ。
すると、珍しくブライト様が話しかけてきた。
「ユリアーナ様」
「なんですか? 私、魔法戦を見るのに集中したいのですが」
ちょっと冷たい言い方になってしまっただろうか。
少し反省。
「エリアーナとふたりきりで過ごすにはどうしたらいいと思いますか?」
―――は? 何言ってんだこいつ? いつもふたりでイチャラブしてるだろ? もしやこれは相談という名の新手の煽りか? 自分のほうがエリィ姉さんと一緒にいるアピールをしてんのか? あぁ?
とまぁ興奮は抑えて、冷静に考えようではないか。
ブライト様が本気で煽るなら、言葉ではなく態度で煽るはずだ。
目の前でエリィ姉さんを独り占めして私を焦らすという最悪の煽りをするはずである。
「もう十分一緒に過ごしているではありませんか」
「⋯⋯最近エリアーナは忙しいようで、授業と休み時間以外で一緒に過ごせないのですよ」
「そう言えば、たくさんのご令嬢からお茶会の誘いが来ていて少し困っている、と前に聞いたような気がします」
「私のエリアーナは人気者ですからね。お近づきになりたいと思う輩は多くいるでしょう」
「そうですね。私のエリィ姉さんですもの。優しくて優秀で可愛らしい公爵令嬢ともなれば、自然とそうなるでしょうね」
「「⋯⋯」」
いつものマウント発言は一旦置いておくこととしよう。
―――ふたりきりで過ごす方法、ねぇ。
「⋯⋯エリィ姉さんとふたりきりになって、何をするつもりなんですか?」
「お茶を飲みながら、話をするだけですよ」
「⋯⋯⋯⋯それだけなんですか?」
「それだけです」
怪しい。
話すだけなんて、信じられない。
でも―――
―――エリィ姉さん、ブライト様のこと好きだからなぁ……。
私は決して、エリィ姉さんの恋を邪魔したいわけではないのだ。
ただ単純にブライト様のことがあんまり好きじゃないだけなのだ。
「……週に一度は放課後一緒に過ごす、などといった約束を交わせばいいのでは?」
「そんなことでうまくいくと思いますか?」
―――そんなことってなんだよ、そんなことって。
こういうほうが意外と一緒にいられると思うんだよな。
「エリィ姉さんって、相当なことがない限り、約束は守る人なんです。だから知らない令嬢とのお茶会も、参加するんです。お受けできないときは先約がいるときぐらいですし」
「たしかに約束を破るという印象はありませんね。実際事実ですし」
「はい。だから、ブライト様も先約すればいいのですよ。さすがに毎日は無理でしょうが、一日、二日ぐらいならエリィ姉さんも了承してくださると思います。もし『今日はちょっと……』と言われたら、ブライト様とお話しすること以上に大事な予定が入ってしまったのだと捉えればいいかと」
私とレティシア様とのお茶会とか、あとは、多分ないだろうけど先生や生徒会から呼び出されたら、ぐらいだろう。
エリィ姉さんは優等生だから、きっと大丈夫。
「……ユリアーナ様。もうひとつ、相談したいことが」
「え、まだあるんですか?」
そして何故私に相談するのだ。
「エリア―ナを愛称で呼んでも、いいと思いますか?」
―――くっそどうでもいいことを婚約者の妹に聞くなよ。
エリィ姉さんに直接聞けばいいじゃん。
「どのタイミングで愛称呼びにしようか、かれこれ数年ぐらい悩んでいまして」
「阿呆じゃないですか? そんなの好きなタイミングで切り替えればいいじゃないですか。……あ、でも、エリィ姉さんのことエリィって呼ぶのはやめてください」
「何故ですか?」
「エリィと呼ぶのは家族だけなんです」
「私も未来の家族になるのですが」
「まだ家族じゃないです」
「そうですか。―――では、リアナと呼んだほうがいいでしょうか?」
「!? リアナはもっとだめです!」
「どうしてですか?」
「それは……」
ウィリアム様だけが使う私の愛称だから、なんて言えない。
「あっ、えっとですね、リアナだと私の愛称にもなるからです! エリィ姉さんのことだって聞いてすぐに分かるような愛称じゃないと、よくないと思います!」
「じゃあどうすればいいのです?」
「それは……エリー、とか?」
「何が違うのです?」
ちょっとだけ発音違うもん!
でも、たしかにエリーとエリィはあんまり変わらない……。
「じゃ、じゃあリアとか?」
「さっきご自身が言ったこと忘れました? リアだとあなたの愛称にもなるでしょう」
結局、エリィ姉さんの愛称はエリィだけでいいという結論となった。
ブライト様がエリィ姉さんを愛称で呼び始めるのは、もう少し先のことだ。
――――――――――――
補足/
エリア―ナとアルトゥールの試合は、エリア―ナが勝ちました。エリア―ナのペアの人が途中から加勢して、2対1になったからです。エリア―ナとアルトゥールだとアルトゥールのほうが強いですが、相性が悪かったようです。
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