悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

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第二部

141.彼シャツ(的なやつ)

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 臨時の休校期間となったため、学校再開までの予定は何も入っていなかった。
 図書館から借りた本をベッドでゴロゴロしながら読んでいると、コンコンコンとドアが鳴った。
 よっこいしょ、と起き上がり、ドアを開けると、そこにはカレン・ミラーとシャノンがいた。
 意外な組み合わせである。

「どうかしましたか?」
「っ⋯⋯えっと、ですね」
「はい」
「じょ、女子会をっ、しませんかっ⋯⋯!」

 やや緊張気味に言うカレン。
 そのカレンの後ろに隠れるシャノン。
 どういう状況だ?

「女子会、ですか?」
「っはい。えっと、私たち、同じ屋根の下で暮らしているのに、全然、話さないなと思いまして」

 それは私も思っていたことだ。
 特別仲良くなりたいというわけではないが、こんなにも話すことがないのだと、少し驚いていた。
 けど、本好きわたし人見知りシャノンと、今年の特待生1年は内向的な人が多い。
 というか、基本、ノエル先輩を除いて、静かめな子が多い。
 フォルツァ先輩にカルム、ライラ先輩は特に大人しくて静かだ。
 そんな中での急な女子会の誘い。
 主人公《ヒロイン》はすごいなぁ。

「ノエル先輩とライラ先輩も参加するんですか?」
「いえ。今回は1年女子3人だけで行おうかと」

 ノエル先輩はともかく、ライラ先輩は女子会向きの人ではない。
 一度も喋ったところを見たことがない人が、女子会で楽しめるのかと考えると⋯⋯ちょっと難しいと思った。

「嫌、ですか⋯⋯?」

 その聞き方じゃあ、断る選択肢はないよな。

「⋯⋯中へどうぞ」
「! ありがとうございます!」

 ぱっと明るくなるカレン。
 シャノンも嬉しそうに見える。

―――【創造】【空間指定】【転移】

 適当に机と椅子を創り、お茶とお茶菓子を出す。

「どうぞ」
「ありがとうございます」
「あっ、ありが、とう、ございます⋯⋯」

 ⋯⋯なーんかビビられてるような気がする。
 私、まだ何もやってないと思うんだけどな。
 しかし、シャノンはいつもこんな感じだ。
 初めて会ったときもそうだ。

―――にしてもなんで⋯⋯
「どうしてふたりとも制服なのですか?」

 私は白いワンピースを着ているが、ふたりはエトワールの制服だった。
 寮内でも制服でなければいけない、なんて規則はないのだし、今は休校期間だから私服なのが普通なのではないだろうか。
 それに、私だけ私服とか、なんか、浮いてる。

「それは⋯⋯」
「ごめん、なさい」
「あぁいえ。気になっただけですので、別に謝らなくても」

 もしかして、と考える。

「失礼ながら、おふたりは制服以外、服を持っていないのですか?」
「っ⋯⋯。そう、ですね。はい。どちらかというと、寝間着に近いです」
「わ、私も⋯⋯」

 ふたりはおそらく、貴族ではない。
 カレンは平民だと確認が取れているし、シャノンは貴族だと仮定すると、言葉のたどたどしさが気になる。
 ふたりの立ち居振る舞いは、貴族としての教育を受けた人間ではない。

「⋯⋯私のをお貸ししましょうか?」
「「え?」」
―――あ、やば。

 つい、さらっと言ってしまった。
 服を貸すとか、非常識かな。
 相手を馬鹿にしてると思われるだろうか。

「あ、えっと。自慢とか、嫌味ではなくてですね⋯⋯その⋯⋯」

 勘違い、されたくない。

「わ―――私、背が小さいんです!」
「「⋯⋯はい?」」
「だ、だから、持ってる服が大きくて、着れないものもあってですね⋯⋯もしよければ、着てほしいな、って」

 もちろん嘘である。
 服はいつもユリが管理していて、小さくなった服はまだ着れるように調整したり、リメイクしたりしているらしい。
 けれど、中にはもあって、これなら、私よりも身長の高いカレンとシャノンでも着れる。

「⋯⋯いいの、ですか?」
「! もちろんです! 着れる人に着てもらったほうが、服も喜ぶと思います!」
「あ、あの、私、お金はそんなに⋯⋯」
「お金なんて取りませんよ! 無料です! 私は、見返りが欲しくて服を貸そうとしているわけじゃありません!」

 言っちゃ悪いが、これでも私、お金はたくさんあるのだ。
 リンドール公爵家から出るお金と、一級魔術師で得た給料で、私の財布(魔法で異空間に保管してある)には王都の高級住宅地に豪邸を建てられるほどの金額がある。
 つまり、かなりの金持ちなのだ。

―――国から追われることになっても、他国で生きていける自信はあるね。サバイバルは無理だけど。

 野垂れ死ぬ未来しか見えない。

「【空間指定】【転移】」
「「!」」

 天井から服が降ってくる。
 服の雨だ。

「どうぞ、好きなのを選んでください」
「すごい⋯⋯」
「こんなにいっぱい⋯⋯」

 悩んだ末、カレンはピンクの猫耳パーカーに空色のズボン、シャノンは若草色のスウェットワンピースを選んだ。

―――かわよ。

 主人公ヒロインの可愛さは永久保証済みなので言わずもがな、シャノンもちょっと照れてる感じが可愛らしい。
 しかも着てるのは私の服。
 言ってしまえば彼シャツ的なやつである。

「私、こんなに素敵な服、着たことなくて⋯⋯すごく、嬉しいです。ありがとうございます、ユリアーナ様」
「わ、私もですっ。ありがとう、ございます、ユリアーナ様⋯⋯っ」

 なんて可愛らしいんだろう。
 私はただ、服を貸しただけなのに⋯⋯こんなに感謝されるとは思わなかった。
 可愛い子が2人、私にありがとうと言っている⋯⋯信じられない光景だ。
 この可愛いふたりを独占してる私、やばくね?
 全世界の男に恨まれてもおかしくない。

「⋯⋯星詠みの夜のドレスはどうするつもりですか?」
「星詠みの夜、ですか? ⋯⋯あっ、そっか。舞踏会なんですよね」
「えっ、舞踏会!?」

 そう。
 星詠みの夜は夏休み前に行われるエトワールの行事のひとつで、舞踏会だ。
 女子生徒は全員ドレスでの参加が決まっている。

「グレース先生によると、学校側から貸し出してもらえるそうですが⋯⋯」
「ですが⋯⋯?」
「あまり、期待はするなと」
―――あぁ。なるほど。

 当然だが、ドレスは高い。
 それはもう、平民の1年分の年収とも言われている。
 特待生は基本的に学費などを免除してもらえるが、さすがにドレスは使い回しとなる。
 多分、エトワールに特待生全員分のドレスを買うお金は
 あるけれど、もし、一般生徒のドレスよりも質のいいものだったら?

―――いじめられる原因になっちゃうよねぇ。

 特待生は基本、平民だ。
 エトワールでは権力の使用の禁止―――すなわち、爵位の序列や有無で、誰かに何かを強要させることは禁止となっているが、みんながみんな、守るわけではない。
 だからあえて特待生のドレスは質を落とすのだろう。

―――でも、こんなに可愛い素材ふたりを活かさないなんて、私ヤダ!!

 わざと可愛さのレベルを落とすってことでしょ?
 理解できない。
 もしふたりがドレスを理由にいじめられたのなら、私が一級魔術師という権力でそいつらを氷漬けにしてやる。
 というか、いじめられる前にふたりを守る。

「ふたりがよければ、私に星詠みの夜のドレスを任せてくれませんか?」
「「えっ!?」」
「安心してください。その服同様、お金は取りません」
「っ⋯⋯なんで、そこまでしてくれるのですか?」
「趣味です」
「「趣味??」」

 いや、趣味はちょっと意味が違うか。

「欲、みたいなものです。エゴに近い欲です。私、可愛いものが好きで、特に服はそうで、見るのも着るのも好きなんです」

 可愛いものを可愛いと思い、愛でることが好きだ。

「素敵なドレスを着て、舞踏会を楽しめたら⋯⋯それってすっごく、幸せなんじゃないかなって。私の好きなものを、幸せを、ふたりにも知ってほしいんです」

 可愛い子を着飾るってすごく楽しいんだよね!
 ちなみに私とユリは相互でやっている。

「どう、でしょうか?」

 カレンとシャノンはお互い見つめる。
 そして―――

「「私たちでよろしければ」」
「!!」
―――よっしゃあ!

 心の中で思わずガッツポーズする。

「で、でも、もらってばかりは、申し訳ないです」
「なにか、私たちにできることはありませんか?」

 うーん、そうだなぁ⋯⋯。

―――あ。そうだ。
「じゃあ、ふたりに聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「こ、答えられる範囲、なら⋯⋯」
「聞きたいこと、とはなんでしょうか?」

 私は深呼吸をして、小さな声で尋ねた。

「おふたりって―――好きな人、います?」


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