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第二部
142.恋愛リサーチ
しおりを挟む「おふたりって―――好きな人、います?」
神妙に尋ねると、カレンは「んー」と考え始め、シャノンはあわあわとし始めた。
うん、可愛い。
「特に深い意味はないのですが、何故、この話題を?」
「だって、女子会なんでしょう?」
もちろん口実である。
よく忘れてしまうのだが、この世界はカレンを主人公とした逆ハーレムだ。
私如きの脇役に未来を変える力などなく、すべてはカレンにかかっているといっても過言ではない。
誰ルートになるかはカレン次第。
ルートによっては私の未来が危ないかもしれない。
「好きな人、いないんですか?」
女子会を口実に、誰ルートになりそうかある程度絞り込みたいというのが、私の思惑だ。
「⋯⋯⋯⋯す」
「?」
「好きな人は、います」
「! いるんですか!?」
確定系か?
確定系なのか!?
もしそうならすごくありがたい。
「あ、えっと、この学校の人ではないです。他校の方で⋯⋯」
「他校の?」
「はい。ルミエール学院はご存じですか?」
ルミエール学院。
別名、白と黒の要塞。
国内最高峰の武術を学ぶ学校である。
「私の実家がルミエールの近くにあるんですけど、去年、人攫いにあったとき、ルミエールの生徒に助けてもらいまして」
「人攫い!?」
「はい。よくあるんです、私の地域は」
人攫いがよくあるって、治安悪すぎじゃない?
「助けてもらったとき、すごく、かっこよくて、優しくて⋯⋯。一目惚れです」
「名前は? 名前はなんて言うんです?」
「あっ、名前は分からなくて⋯⋯。聞きそびれちゃったんです」
けど、とカレンは続けた。
「『宵の君』と呼ばれていることは分かりました」
宵の君、か。
二つ名的なものだろうか。
「そこまで分かるなら、本名も調べられたのでは?」
「私にそこまでの力はありません。それに、ルミエールは年に数回しか外に出ることを許されない学校です。簡単には会えませんし、生徒の情報なんて手に入れられません」
―――牢獄みたいな学校じゃん。
実際、あそこは牢獄のようなところだろう。
白と黒の要塞と呼ばれる、大きな壁が校舎をぐるっと一周覆っており、冬期休暇になるか退学届けを出さないと、ルミエールの生徒は外に出られないのだとか。
恐ろしいところである。
私は絶対に入りたくない。
「でも、希望もあります。エトワールはルミエールと毎年冬に、学校対抗の模擬戦を行うんです。互いの学校の代表選手同士の熾烈な戦いだと聞いています。今年はルミエールでの開催で、もしかしたら宵の君と会えるかもしれない、と淡い期待をしているんです」
学校対抗の模擬戦とか、初めて知った。
―――それもルミエール学院と⋯⋯なるほどね。
エトワールは魔法を学ぶ最高峰の学校。
ルミエールは武術を学ぶ最高峰の学校。
魔法VS武術の戦いとなる。
「これで私の話は終わりです。次はシャノンですね」
「えっ!? わ、私⋯⋯?」
「ずっと気になってたんです! シャノンとカルムの関係!!」
「あぁ。たしかに」
それは私も気になっていた。
一匹狼のカルムが唯一心をひらいている人。
それがシャノンだ。
「カ、カルムとは、全然っ、なにも、ないですっ。ただの、幼馴染で⋯⋯⋯⋯わ、私のヒーロー、です」
「ヒーロー?」
「はい。ヒーローです!」
そう言ってシャノンははにかんだ。
「私、カルムには、いっぱいいっぱい、助けてもらってて。私がピンチの時に、いつも、助けてくれるんです。すごくかっこいい、私の、自慢の幼馴染です」
カルムのことを話すシャノンは、とても嬉しそうだった。
「シャノンはカルムさんのことが好きなんですね?」
「はい! ⋯⋯⋯⋯え?」
「シャノンの恋、応援しますよ!」
「え、ええええぇっ! ち、違いますっ!」
「違うんですか?」
「違いますっ!! 私は⋯⋯仮に、カルムのことが好きだったとしても、カルムはそうじゃないです。普通に、家族のような関係なので⋯⋯」
ピピーンときた。
シャノンはカルムのことが好きだけど、カルムはそうじゃないから、この恋は諦めている⋯⋯そういうことに違いない!
―――絶対そんなことないだろうにね。
賭けてもいい。
カルムはシャノンのことをひとりの女の子として好いている。
なのにそのシャノンには想いが伝わっていないとは⋯⋯可哀想である。
―――両片想いってやつか。
実際に見たのは初めてだ。
「わ、私の話も終わりですっ。ユリアーナ様は、ど、どうなんですかっ!?」
「へっ? 私?」
「そうですよ! アルトゥール様と〈天蓋の魔術師〉様から深い寵愛を受けておりますが、どちらが意中の相手なのですか?」
「⋯⋯なんで皆さん、アルトゥール様とウィリアム様と三角関係だと思うのです?」
ノエル先輩もだが、勘違いしてる人多くない?
全くそんな雰囲気ないのに。
「だって、アルトゥール様と〈天蓋の魔術師〉様のユリアーナ様に向ける視線は、普通じゃありません! お二方とも、ほんのりと熱を帯びた、愛おしそうな瞳をしていらっしゃいます!」
「うんうん」
シャノンまで⋯⋯そんな目、してなかったでしょ。
妄想が過ぎるのでは?
―――いや、だがまぁ、アルトゥール様はあり得る、か⋯⋯。
ウィリアム様に関しては、カレンの言っていることが正しいとして、多分、恋愛的な感情というよりは心の支えにしているんだろうな。
『リアナは、私の一番大切な人に似ているんだ』
昔、ウィリアム様が教えてくれた。
ウィリアム様には、今はもう亡き、大切な恩人がいるのだという。
当時荒れていた(らしい。不良時代もあったとかいう)ウィリアム様が更生したきっかけとなる人なのだとか。
時々、姿や言葉がその人と重なり、懐かしさと寂しさを覚えるらしい。
『⋯⋯もう十数年前の話になるのに、ふとした時に探してしまうんだ。世界のどこにもいないのにね』
その人の代わり、というわけではないが、実際、ウィリアム様は私と会うと少し泣きそうになるらしい。
まるでその人と会えたみたいな感覚に陥るからだと言う。
「⋯⋯ウィリアム様にはウィリアム様の事情があるんです。決して恋愛感情ではないことは確認済です」
「そうですか。では、アルトゥール様は⋯⋯?」
「アルトゥール様は⋯⋯―――えっと、その、多分、ご想像通りかと」
告られてます、と言うのは恥ずかしい。
うまく察してくれただろうか。
ちらりと見ると、カレンはキラキラとした目をしていて、シャノンは恥ずかしそうにあわあわとしていた。
―――うん。伝わってるね。
ふたりの反応が私にも伝染るのでやめてろしいのだが、言えば治るものでもないので、私はお茶に口をつける。
「⋯⋯あ」
「どうしました⋯⋯?」
「いえ、その、呼び方なのですが、ユリアーナでいいですよ?」
「え! で、でも⋯⋯」
「私は構いませんよ。むしろ、同じ学年、同じ屋根の下で暮らしているのに敬称付けは、不自然なのでは?」
一般の女子寮だったら敬称付けが普通だろうが、ここは特別寮。
名前くらい、同学年なんだし呼び捨てでもいいと思う。
「私もカレン、シャノン、と呼び捨てしたいです」
「! で、では、ユリアーナ、と」
「敬語も不要です。私の方が歳下ですし」
「じゃああのっ、ユ、ユリアーナ、もっ、敬語は使っちゃダメ、ですっ!」
「⋯⋯分かった。敬語も使わないし、呼び捨てするよ? 学校にいるときは敬語になるだろうけど、それでもいい?」
「はいっ」
「もちろんです、ユリアーナ」
カレンは敬語が抜けないか⋯⋯。
まあでも、ひとまずはこれでいい。
友達みたいな友達は、同じ本好き仲間のイブしかいないしね。
仲良くしておいて損はない。
「これからよろしく。カレン。シャノン」
「はい。よろしくお願いします。ユリアーナ。シャノン」
「よっ、よろしく、お願いしますっ。カレン、ユリアーナ」
こうして特待生1年女子の絆ができたのだった。
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