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全ての始まり

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此処はイッセ王国

嘗ては小さな国だったが

数百年前、とある王の英智により分裂し争っていた複数の小国を統一し長引く戦争を終わらせた名誉を持つ国である

その話は長年の時が経った今も語り継がれ、王家への国民の憧れと畏怖を集め続けていた


そんな名高い王家…アンバー家の末弟である俺、ナギ・アンバーも

王族の一人として大切に、両親と三人の兄貴にこれでもかと愛されて育ち

いずれ王となる第一王子リギア、そして彼を支える第二王子ダズ、第三王子ケリーの後に続き国の為に力を尽くす事が定められている

筈だったのだが



「ナギ、お前には隣国であるカイナン帝国の皇太子である翠蓮様へ嫁いで貰う」

「はへ?」


父親の一声により、俺は何も知らない国への嫁入りが確定したのであった








「いやお父様、急に何を仰っているんですか」

「ナギ、これはお前の為でもあるんだ。本来であればダズやケリーと同じようにリギアの補佐を務めさせるつもりだったのだが」

「ならそうしてください!!!俺は出来損ないとは言えリギア兄様達のお手伝いをする為に今まで頑張ってきたんですよ!?!?」

目の前の固い机をダンッ!!!と拳で叩き、すぐジンジン痛み出す手の甲に悶える

お父様が慌てて氷嚢を持って来させようとするのを止めて、今一度言われた事を振り返る


俺は急遽、何も関わりの無い国カイナン帝国とやらの翠蓮皇太子へ『嫁ぐ』


やっぱり何仰ってるんだお父様、漸く任されるようになった兄様のお手伝いが出来なくなるとか以前に
もっと可笑しい事を仰られている


「それ、そ、それに!!!嫁入りって言いました???俺は男です!!!そのスイレン?様とやらも男ですよね!?」

「うむ、男だな」

「お父様、念の為に確認しておきますが男は世継ぎを産めません」

「知っとるわそんな事」

「では、ぇ、もしやスイレン様とやらは男色家、でしょうか。俺は彼の性を発散する為だけに身体を捧げろと??」

「そんな訳無いわ!!!!可愛い可愛い我が末息子にそんな売春させる父親があるか!!!」

「今させようとしてるじゃないですかお父様!!!」


宣言した初めは日頃とは違って厳かな顔と声色をしていたお父様だったが
俺がギャーギャー抵抗するといつも通りの弱った顔になってしまった


「仕方ないだろう……待て、可愛いナギよ。知識は無くとも国名すら知らないな?さてはまた帝国史の勉強をサボったか!!!」

「ぅ、だって帝国史の講師つまんないんですもん」

「まぁたお前は講師を困らせて…講師ではなくリギアやケリーにでも頼むか?」

「それだけは止めてください」


帝国史は嫌いだ、何せ何代もの似たような王の名前をつらつらと覚え続けなければならないしその歴史もこれといってパッとしないものばかり

あまりにもやる気が出なかったから、時折庭におサボりしていたのが仇となってしまった


「全く、後で帝国史の基本が載っている本を部屋に送るから読んでおくんだ。儂だって辛いんだぞ」

「うぇっ……はぁい、読んどきます」

「その態度はどうせ読まんじゃろ、明日講師にテストさせるからな?成績が悪ければおやつ抜きじゃ」

「そんなぁ~……」

「ちゃんと学んでから、婚約の理由を教えてやろう…これでも儂だって頑張って断るつもりだったんじゃぞ」

「でも決まっちゃってるじゃないですかぁ」


念の為言っておくが、目の前で不貞腐れた顔をしているのは我が父であり国王である

国王ともあろう方であるからには跡継ぎである息子達を厳しく躾け、国を支える一人として立派に育て上げるのも役目であって


穏やかで懐の広い性格な長男リギアは文武両道に何でもこなし、国民から認められた次期国王に

短期で喧嘩っ早いが生まれ持った次男ダズはフィジカルとカリスマ性で既に騎士団長に

専ら頭脳派で、天才的頭脳を持ち専属講師達を驚かせた三男ケリーは既にお父様の宰相に


個性ある兄三人を、甘やかしたい気持ちを精一杯抑え込んでここまで育て上げたお父様とお母様は


最後に産んだ兄達とは少し年の離れた弟である俺、ナギを
兄達の頃に爆発させられなかった(兄弟達曰く、十分子煩悩だったらしいが)その愛情をこれでもかと注ぎ込んで甘やかし倒した



そのせいで、リギア兄様の様な懐の広さも無い甘ったれで
ダズ兄様の様な筋骨隆々でもなく
ケリー兄様の様な集中力と博識な頭も持たず

中途半端なままに育ってしまったのであった

お陰様でお父様の手伝いをしようとしてもケリー兄様に仕事は全て取られ

鍛えようにも持続力のなさのせいで三日坊主

兄たちに比べ劣りに劣った俺の実力では精々縁のある良家の娘と婚約し
兄達の補佐を仕事にするのが関の山だった



この隣国への嫁入りとやらは
国から消えても害の無い俺にしか出来ない

言ってしまえばこの国に要らないもんな俺って
愛されて育ったとはいえ、この事実を思い出すと喉になにかつっかえたような、体がずっしり重くなるような感覚がする


「……分かりました、読んでおきますから」

「うむ、ちゃんと読み終えられたらご褒美にディナーはお前の好物を取り揃えよう」

「そういう所ですよお父様」


満足そうに頷いたお父様に一礼し、部屋を出る


パタンと静かに扉を閉じ、さて部屋に戻ろうと振り向いた



「ナギ、お父様のお話は終わったかい」

「うわぁ!!!!り、リギア兄様…ビックリさせないで下さい」

リギア兄様が、音もなく真後ろに立っていた



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