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翠蓮様の回想

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タイタン王国での社交界は正直つまらなかった

他国の貴族との繋がりを持つ為に、権力を持つ家の嫁婿となる為にと皆々着飾って

表は取り繕っているものの欲を剥き出しにして名家の御子息を捕まえる様子は、見ているだけでも酷く疲れるものだった


「いやはやスイレン様はお美しい、皇太子として相応しい品格、知恵、何もかもを持ち合わせている素晴らしいお方だ」

「何卒我がーーー家の名を覚えて頂きたく…」

「もうそろそろスイレン様も婚約者を持つべきかと思いまして、どうでしょう、我が娘は出来が良くーーー」


僕はカイナン王国…廻凪国の皇太子な事もあり、様々な国の方々から声をかけられ何とかよく見られようとあれこれおだててくるのを宥めつつ受け流していたのだが


「…少し、夜風を浴びてきます。失礼致します」


汚い欲を向けられるのは酷く疲れる

少し人から逃げたかったのもあり、庭園に休みに行った時も

令嬢達が美しい花園にもいて…

「あの花はお紅茶とよく合うのですよ、私の特にお気に入りのーーーと言うお店のーーーー」

「まぁ、ーーーのお紅茶ですかぁ?私のお父様が援助している所ですのよ、ーーーと言うスイーツ店とも提携していて」

「ーーーーのケーキ、とても美味しいですわよね。そこのシェフを一人専属で雇ったのよ」


水面下で姑息な嫌味を飛ばし合う、庭園と全く似合わない女性達に見つからないよう気を使って更に疲れてしまった


「……はぁ、お父様も婚約者の目処を立てろだなんて…僕には…………」

耐え切れず零れた愚痴を止めることもせず

隅に生えていた木にもたれ掛かり休んでいた時



「………あ、このお花、折れちゃってる…」

「…ん?」


ふと聞こえた声の方を向くと、花壇に向かってしゃがみこんでいる人がいた

白い髪が月夜に照らされ、遠くからでも睫毛が濡れて輝いているのが見えた

何処かの御子息だろう…挨拶するべきなのだろうが、今は疲れてしまってしたくなかったのだが


「ごめんね、俺にはなんも出来ないや」


そう言って悲しそうに折れた花を撫でる彼に

目を逸らす事が出来なかった
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