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駆引
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しおりを挟む「やりやがったな、あの野郎」
「やっぱり"聖"のつく名前だったか。どさくさに紛れて名前を変えて翻弄するとか。アイツらしい」
念のため、と学園側に確認を取った竜崎。血相を変えたすさまじい勢いに教員たちがぎょっとする中、問い詰めたのだ。"しみずみづき"という名の生徒の正式な漢字表記を。そして学園側からお墨付きをもらったその足で風紀室に帰ってきた竜崎はその結果を怜毅と颯斗に伝えたのだ。
青筋を立てている竜崎と、呆れ半分といった体で額に手を当てている怜毅。その為のフラグか、と二人して唸っていた。しかし、唸っている場合じゃない、と晴真と高宮に向けてすさまじい勢いでメッセージを打ち始める。そんななか、一人首を傾げている者がいた。颯斗だ。
「真水と書いて、真水……?これ、何処かで……」
一人思考の海に沈んでいた。
「着ぅーいたー!」
学園から電車で揺られる事しばし。蓮と聖月は別荘最寄の駅にいた。電車内でぐっすり寝言っていた蓮は目をしばしばさせて、まだ少し眠そうである。一方の聖月は凄いはしゃぎよう。キラキラした眼で周囲を見渡している。
「なんとなく潮の匂いが……!」
「するわけないだろう。ここから海はまだあるんだから」
冷静な蓮のツッコミに唇を尖らせる。そんな二人に近づく影があった。
「聖月様と蓮様ですか?」
暑い中、ぴっしりとスーツを着た妙齢の男性。首を傾げる蓮の横で、聖月がキラキラした眼を男性に向ける。
「もしかして、迎えに来てくださった方ですか?うわ、これぞ執事?!」
「はい。桜庭家にお仕えしている者の一人で、別荘の管理を仰せつかっている者でもあります。那波様の仰せで参りました。長の旅路、お疲れ様でした」
そこはかとなく苦笑しているような気配がするが、そこは一流の使用人。にこやかな笑顔で二人に挨拶してくる。そう言えば、駅までくれば迎えに来るって言っていたな、と蓮は思いだし、ありがとうございますと礼を述べる。さり気なく失礼な聖月の頭を小突きながら。
「あて」
「お荷物をお預かりします」
「お願いします」
サラリと荷物の受け渡しをし、あれよあれよという間に車に乗る。スマートな所は、やっぱり蓮も金持ちの一人って事かなぁと聖月は思う。本人曰く、世間一般よりは多少裕福な程度の庶民らしいが。
「こちらが桜庭家の所有する別荘となります。ようこそおいでくださいました」
「おぉぉ。ザ、別荘!」
「先にお礼を言おうか聖月?」
最寄り駅からさほど遠くない場所に別荘はあった。シンプルな白を基調とした建物。その後ろには青い海が見え、そのコントラストが実に美しい。大きさは普通の一軒家程度。驚くほど大きい訳ではないが、別荘としては十分な程。雰囲気自体もあっさりとしたシンプルなもので、普段の生活で疲弊した心身を癒す為の建物といった感じだ。
停車するや否や、車から飛び出した聖月。おっとりと笑う使用人が歓迎の言葉をくれるのに対し、蓮は恐縮気味だ。既に別荘に心を囚われている聖月を捕まえ、お礼をしろと頭をひっつかむ。
「わざわざ迎えに来て貰っておきながらすみません。素敵な別荘ですね」
「ありがとうございました!」
「いえいえ。お気に召していただけたようで光栄です」
「聖月君!蓮君!」
和やかに会話していると、別荘から那波が出てきた。車の音を聞きつけたのだろう。一足先に来て色々と支度していてくれたらしい。前回あった時から少し時間が空いている事もあり、再会を喜ぶ。改めて礼を述べる蓮。育ちがいいのがよく分かる。それに対する那波も苦笑半分、ワクワク半分といったところのようだ。
「急な話で申し訳ないんだけど、改めてありがとう」
「ううん。聖月君にはお世話になったし、僕としても会長様や他の生徒会の方と過ごせるなんて夢のようだから」
恥じらうように頬を染めて目を伏せる那波。可愛い、と抱き着く聖月。そんな彼を見つめる蓮は若干半眼気味。
「全く。聖月もこれくらい素直でいい子だと助かるんだけど」
「え、純粋無垢を体現したような僕に対して酷ぉい」
「誰の事だ誰の!」
変わらぬ二人の漫才。那波や使用人も含め、明るい笑い声が響いていた。
玄関で時間を食ってしまった、と那波が中に入る事を提案し、皆で中に入った後。それぞれに割り当てられた部屋に荷物を運びこんだ。今回参加しているのは、聖月、蓮、那波のほかは会長の高宮、副会長の嵯峨野、会計、書記の四人。補佐と庶務は都合がつかなかったらしい。因みに全員kronosに所属するメンバーである。初めから総長、副総長、特攻隊長、情報担当である。
「こんないい所に別荘。しかも、部屋数は多いし。七人全員個別の部屋があるって凄いねぇ」
「丁度6部屋だったんだ。これ以上増えてたら2人部屋になってたからどうしようかと思ったけど」
窓から見える海。窓に張り付いて動かない聖月は感嘆を漏らす。案内と手伝いを買って出た那波がクスクス笑う。蓮も自分の部屋が気になるらしくそわそわしている。
「とりあえず聖月と一緒の部屋じゃなくて良かったよ」
「え、蓮君酷い!」
「三日間ずっと一緒にいるとか精神が持たない」
「聖月君ってそんな人だったんだ」
容赦ない言葉に、聖月がしくしくと泣き始める。あからさまなウソ泣きも相まって那波は既に引き気味だ。そんなこんなをしつつ、蓮の部屋にも荷物を運びこむ。やれやれ、と一仕事を終えた三人が体を伸ばす。タイミングよく一階のリビングからお茶が入った、と呼び声がかかる。
「俺たち三人の部屋が三階。二階には部屋が四つ。四人で使うって事?」
「そう。そっちの方が良いかなと思って」
「人数も丁度いいしな」
話をしながら階段を下りる。興味津々で二階を除く聖月。それに気付いた那波が丁寧に、誰がどこの部屋かを教えてくれる。
「面倒見いいなぁ」
「え、そう?」
「蓮君と大違い!」
「それ以上言ったら、もう面倒見ないからな」
「ごめんなさい」
感心したような蓮に、茶々を入れる聖月。一刀両断されてあっさりと降伏する。クスクス笑っている那波を加え軽口をたたく。話に夢中になっていた蓮と那波は気付かなかった。軽口の最中、聖月の目が鋭く二階の部屋を確認していたことに。
「久しぶりだな、桜庭君。今回はお招きいただき、感謝する。清水君も、久しぶり」
「め、め、め、滅相もない!よ、よ、よ、ようこそいらっしゃいました!」
「那波くーん。ちょっと慌てすぎ。落ち着いて」
「その言葉に同意しますが、清水君は逆に随分と落ち着いていますね」
三人でお茶を楽しんでいると、高宮と嵯峨野が到着した。会計と庶務はもう少しかかるらしい。それぞれ実家から車で来るとの事。流石側近、何時もべったりなんだなぁ、と思いつつ挨拶を交わす。既に容量オーバーな那波に代わって聖月が受け答えをする。
パンク寸前の那波に、高宮と嵯峨野が肩を竦める。日常的に、周囲の人間から同じような態度を取られる為か、随分となれている。初対面の蓮が緊張した面持ちで自己紹介をしている。とりあえず双方にパイプのある聖月が間に入るのは必然といったところか。
「まぁ、別に生徒会ファンって訳でもないので。あ、中、案内しますよー」
「まるでお前の別荘だな」
「残念ながら、ここの別荘を借りてくれた那波君が機能不全に陥っているもので」
きゅーと蒸気を発して動かなくなった那波を、嵯峨野と蓮が介抱している。意味ありげに見つめてくる高宮には、全力の笑顔を献上しておくことにした聖月。彼らの荷物を持って中に入る。
前もって聞いていた部屋割りの通りに二人を通し、荷ほどきを手伝う。
「流石に、荷物多いですね」
「ああ。実家の手伝いで出来る物を持ち込んでいるからな」
「あら。お忙しい所に無理を言ってしまったようで?」
「気にするな。色々と調べたいこともあって、こちらも参加したいと思っていたからな」
げんなりした風情の高宮。若干の罪悪感に、流石の聖月の視線が泳ぐ。その聖月に再び意味ありげな視線を向けるが、聖月は意味深な笑みを返す事で対抗する。しばし睨み合っていたが、したから聞こえた声に休戦する。
「聖月!会計様と書記様が到着した!手伝って!」
「はいはーい、今行きますよ」
部屋を出た所で合流した嵯峨野を含め、三人は下の階に向かった。
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