学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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 夏と海と言ったらバーベキューだろう!と宣った生徒会会計によって、初日の夜は浜辺でバーベキューとなった。
 予想していたのかは定かではないが、優秀な使用人はバーベキューの準備をしていたらしい。ささっと肉や野菜等のバーベキューのセットが出てきた。せっかくだから、とセレブ大集合のメンツでバーベキューの準備をすることになった。

 「え。この台、何処に置くの?というか、何する台な訳?」
 「流石会長様。常に完成した状態で提供されるうえ、バーベキューなんて庶民の行事はしないんだろうな」
 「ちょっと蓮君!聞こえているよ!」
 「会長、それこっち早く持ってきて!火が入れられない!」
 「会計。流石にその薪の量は異常」
 「二人とも、漫才している場合ですか」

 興味津々で手伝っては悲鳴を上げられる高宮。そんな会長の姿に妙な感動を覚えつつ若干引き気味な蓮と、むっとした表情で窘める那波。会計は人一倍はしゃいでいるが見事に空回りし、それに書記が突っ込んでいく。そんな漫才コンビを嵯峨野がぶった切っていく。

 中々カオスな状況である。

 さて、その中で人一倍カオスな状況を引っ掻き回すのが好きな聖月はというと。ちょっとお手洗いーと言って戦線離脱していた。

 「ふふふ。随分と楽しそうだねぇ」

 いつもクールを気取っているkronosのメンツの、年相応にはしゃぐ姿に目を細めながら、別荘の二階を徘徊していた。全員が外に居るのは確かだが、念のため誰にも見られていない事を確認し、スルリと部屋に忍び込む。

 「さぁてと」

 聖月は鼻歌を歌いながら高宮の荷物を漁り始めた。先程の荷ほどきで目当ての物がどこにあるかは見当を付けておいた。

 「あった」

 そうして取り出したのはスマホ。高宮はスマホ嫌いで有名で、しばしば連絡が取れないと嵯峨野に説教を食らうほどである。それ故に、しれっと部屋に放置していると当たりを付けたのだが、間違っていなかったらしい。その場に座り込むと、ポケットから愛用のコンパクトなパソコンを取り出しコードを繋ぐ。

 「暗証番号はスルーしてっと」

 あっさりとロックを解除するとスマホの中を弄り出す。目当てはメッセージアプリ。

 「通知オフ」

 やりすぎると流石に罪悪感が、と聖月は零す。本当はスマホを隠した方が話が早いのだが、それをすると家の人間とコンタクトが取れず、名家出身の彼に申し訳なくなる。ルールで人様に迷惑をかけないという事もある。目的は一時的にNukusのメンツと連絡を取れないようにすること。だとすれば面倒だが、通知を切ってしまえば目的は達成する。

 「朝顔は隙がないし面倒」

 そうぼやきながらもシレっと取り出したるは嵯峨野のスマホ。生真面目に持ち歩く彼からこっそり拝借しておいたのだ。手癖が悪いのは昔からである。

 「こっちも設定完了っと」

 そのままの勢いで会計と書記のスマホの設定も変更する。手早く目的を果たした聖月はそっと部屋を出る。これ以上時間をかけると、心配――一部には疑問――を凭れてしまう。

 「でも、きっちり仕事をする俺、天才」

 満足そうに呟いた聖月は、すぐにその言葉に自嘲の笑みを浮かべた。

 「天才、か。天才じゃなければ良かったんだけどねぇ」

 クツクツと嘲笑を自分に向けて聖月は別荘を後にした。その直後だった。Nukusのメンツから"真水聖月"の情報が高宮達のスマホに送られてきたのは。



 「遅い聖月!始まっちゃうぞ!」
 「ごめんごめん。道に迷った!」
 「この単純な構造の別荘で道に迷うとは。もう少しいい訳に手をかけてくれない?」

 いつもは変な方向に頭が働く癖に、と蓮から苦情が入る。ニッコリ笑顔でソレを躱す聖月。大体この感じの時は話をする気がない時だ、と既に理解している蓮は追求を諦める。

 「頑固者」
 「お褒めに与り光栄」

 そんな軽口をたたいていると、忍び笑いが聞こえてきた。見ると、ちゃっかり肉が刺された鉄串を手にした高宮が笑いをかみ殺していた。その背後で火の前に陣取った嵯峨野と、じゃれ合い過ぎて説教を食らったらしい会計と書記が正座をしているのが見える。察するに、そっちの説教に夢中になっている嵯峨野から良く焼けた肉の串を気付かれないように強奪してきたのだろう。一足先にかじりついた高宮がニヤリと笑っている。

 「随分といい性格しているようだな、清水君?」
 「あはは。会長様には届きませんよ?」
 「おや?品行方正で通っている俺がいい性格しているなんて、どうして知っているのかな?」
 「ご冗談。あの癖の強い学校で品行方正、優秀な生徒の鏡なんて肩書を得られるのは曲者の証でしょ」

 あまりにもひどい言い草である。相手が誰だか分かって行っているのか、と蓮が青ざめるが聖月は気にしない。これまでの付き合いから、この程度の噛みつきなど高宮は気にしない。案の定、高宮は楽しそうに笑っただけだった。

 「会長!いつの間に……ああもう、後で貴方も説教です!清水君、桜庭君、風見君もいらっしゃい。そろそろいいころ合いですよ」
 「おい、何で俺まで説教。しかも後輩ズには優しい」
 「手癖の悪さは高宮家ご子息としての品位に欠けます」
 「おう」

 冷ややかに切り捨てられて顔が引きつる高宮。気安い関係にさしもの蓮も吹き出す。

 「今行きます!」
 「蓮くーん。僕の分も貰ってきてぇ」
 「何でだよ」

 シレっと甘える聖月を睨みつける蓮。しかし、ニコニコ顔で動く気配が全くない聖月に諦めたようだ。お前も後で説教だ、と吐き捨てて嵯峨野の元に走っていく蓮。

 「あらら」
 「説教仲間か」

 やってしまった、と聖月が遠い目をする。肉にかじりつく高宮は実に楽しそうだ。お互い、口うるさいのに苦労するなと他人事の様に言っているが、蓮より嵯峨野の説教が数倍は厳しい事を理解しているのだろうか。全く答えていない高宮に聖月は視線を投げた。

 「なんだ?」
 「いや、ずっと聞いてみたいことがあったんですけど」
 「お、質問タイムか。いいぜ、お互い一つずつ質問していく方式ならのった」
 「あらまあ、強かですこと」

 さり気なく聖月に質問して回答させる状況を作り出す高宮。面倒な男だ、と聖月が苦笑する。息をするようにこう言った交渉をする時点で、その頭の良さと彼のいる状況が分かる。

 「そんな頭のいい、高宮家の御曹司、しかも後継者がどうして第九学園に?」
 「質問してきたって事は、こっちの質問に答えるって事に同意したと取るからな」

 ダメ押ししつつ、高宮はうーんと天を見上げた。嵯峨野と会話している蓮を見つつ、聖月は質問に答えずに済む方法を考えている。

 「確かに、高宮の人間が第九に入るのは珍しいだろうな」

 この国に君臨する、至高の座にある名家は五つ。"宮"のつく名字を持つ彼らは、学園と同様それぞれに特徴がある。さもありなん、元々学園を作ったのは彼ら五大名家なのだから。

 そして、高宮家は実力主義を掲げる。それに対応するのは第二学園。此処もまた、身分に囚われずに優秀な者を輩出する学園である。ヤクザの総本山たる古宮家が、闇を代名詞とする第九学園に根付くように、本来ならば高宮は第二学園にいるべき存在だし、不良というレッテルを張られているも同然。ビジネスの世界ではマイナスだろう。

 「一つは、若気の至り。まぁ、知っての通り俺はkronosに所属して不良の真似事して遊んでたからな。その縁ってのもある」

 実力主義だからこそのプレッシャー。力を示さなければ切り捨てられる環境であれば、ストレスを発散する場が欲しくなるのも分からなくない。

 「二つ目は、高宮だからな。確かに第二が俺たちの膝元だが、結局のところ、実力を示せればどこだろうと関係ないってスタンス。寧ろ、全く影響のない場所でそれなりの功績を示せば拍がつく」

 此処は高宮らしいというべきところだろう。聖月は頷く。

 「三つ目は、興味があったからだ。偶然か必然か、俺が遊び回っていた時期に、優秀な者が多く存在していた。竜崎を始めとしたNukusとかな。あそこまで優秀だと、手放すのが惜しい。チームは違えど、仲間意識の様なものもあった。それもあって、第九に入ったし、協力する事にしたのさ」

 「協力」
 「そう。失踪した、皇帝――聖を探すことに、な」

 ちらり、と意味深に横目で見られる。あらまぁ、思ったより早く本題に入っちゃうこと、と聖月は思い挑戦的な笑みを浮かべた。

 さて、どうしたものかと思案したその時。にょきっと高宮と聖月の間にてんこ盛りの野菜たちが現れた。

 「はい、お待たせ?」
 「えっと、蓮君?これは?」
 「え、頼まれたもの?」

 バーベキューには、野菜は勿論、新鮮な魚介、高級な肉、焼きそばなど美味しそうなものが多々あった。しかし、笑顔の蓮が差し出している皿には、どう見ても野菜しか乗っていない。恐る恐る蓮を見ると、その額に青筋が浮かんでいるのが見えた。

 「持ってきてあげたんだから文句ないよね?会長様も、副会長様に頼まれて皿を持ってきましたのでどうぞ?」

 二人揃って野菜オンリーの皿を受け取る。

 「蓮はしっかり魚も肉も持ってるのに?!」
 「だまらっしゃい!嫌だったら自分でどうにかしろ!」

 特大の雷が落ちて首を竦める。見ると、いつの間にか復活した会計と書記が勢いよくそれらを消費している。高宮と聖月は顔を見合わせると、慌てて立ち上がり彼らの方へ走り出した。

 先程の問答は非常に大事。しかし、美味しい物の前には優先順位がガタ落ちだった。一時休戦。
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