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終末
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しおりを挟む「残念だったな、聖月。抱かれたいの一位じゃなくて」
「うん、高宮。その台詞は俺としてはどうでもいいけど龍を大人しくさせるのが面倒だから止めて欲しいな」
「おう。俺も口にした瞬間にマズったと思った」
発表が終わり、パーティーに移行した後。新しく選出された生徒会メンバーに引き継ぎを行った高宮は、やっと仕事から解放されたと晴れ晴れとした笑顔で聖月たちに絡んできた。背後に控える嵯峨野も、本来ならば高宮の子息としてと苦言を呈さなければならない所だが、本人も死にそうになりながら仕事をしていたからかなんとも言えない顔でスルーすることにしたらしい。
解放感で頭が馬鹿になっているのか、と冷気を纏う竜崎。独占欲の強い男の前で言う事じゃなかった、と高宮は冷や汗をかいているようだ。
「まぁ、一応変装してるしね」
「女装などの段階で顔立ちの綺麗さはバレているので何とも言い難いですが」
睨み合う蛙と蛇は放っておいて嵯峨野と聖月は朗らかに会話する。近くにあったドリンクを手渡すと、嵯峨野がにこやかに礼を言う。
「朱雀に至ってはしっかりランキングに入ってたみたいじゃん。朝顔と龍もだけど」
「私たちは今年で卒業だというのに。卒業させないで一生あの書類仕事させる気なのでしょうかね」
「一応無邪気な好意だと思いますけど」
ニヤニヤと笑った聖月が揶揄うと、心底嫌そうな嵯峨野が頭を振る。何が何でも卒業します、と変な方向に決意を固める彼に微妙そうな顔でフォローを入れたのは蓮。パーティーが始まった時に偶然聖月と遭遇し、そのまま話をしていたのだ。
「それをいうなら、どうせ聖月もランキングに入った所で意味ないよね。風紀に入ってるし」
「それもそうだけど、どちらにせよランキングに入っていたら辞退する事になってたさ」
「生徒会が嫌いってだけじゃ辞退出来ないでしょ?」
首を傾げる蓮。気づかわし気な視線を寄こしてくる嵯峨野に笑いかけると、聖月は何事でもないように言い放った。
「俺、この一年が終わったら第一に転校する事が決まってるから」
「は?!」
寝耳に水、と絶句する蓮に苦笑すると、蓮には説明するつもりだったしいいか、と聖月は目を細めた。
真宮崩壊の一件の後、聖月たちは高宮の屋敷に身を寄せていた。学園は大丈夫なのかと竜崎に尋ねると、一週間は明けても大丈夫なようにしてきたと返答が。本人はケロリとしているが、その周囲が恨みがましい視線を向けている以上、余程の無理を通した事が見て取れる。聖月はそっと視線を外した。
一夜明けて、疲れを落とした後に全員は集まっていた。そこには深央と古宮の姿もあった。
「で、集まったのは他でもない、今回の件の裏話があるからだ」
「だろうね。完全に蚊帳の外のようでいて俺が渦中にいないなんてありえないし」
皆の顔を見る限り、何の話かは予想がついているらしい。一人だけついていけていない聖月は苦笑してチラリと隣に座る竜崎をみると、それで?と尋ねた。
「真宮の存在は誰もが煙たがってたけど、それだけで皆を動かせるわけないよね?親しい高宮と……うん、まぁ、同級のよしみとして古宮は強力してくれたとしても、どうやって春宮と大宮まで動かしたのかが問題。その上深央まで」
壁に背を預けて立っている男を一瞥する。黙って笑みを浮かべる彼に、聖月はため息をついた。
「確かに、お兄さんにはずっと助けてもらった。でも、無条件の味方じゃなかった。椿がいたころには椿優先だったし、それ以来も散々追いかけまわされたのは確かだし。敵ではなかったけど、味方でもなかったはず。でしょ?」
「ああ。俺にとってはお前は味方と言うより共犯者。ちかよってせいぜい戦友だな」
「しかも、記憶違いじゃなければ、俺を差し出す事が協力の条件とかわけわかんない事言ってたよね?どういう意味?」
「おっと。お前にしては察しが悪いじゃねぇの?」
飄々としてたよりにならない深央に、人の悪い笑顔を浮かべる高宮。嫌々目の前に座る彼に視線を戻す。
「真宮で真っ黒な奴はブラックリストに登録されてしょっ引かれたって事は、俺は処分対象から外されている。責任を取れって事じゃないんでしょ?」
「ああ。因みに、そこに居る真月も一応リストにのるだけの事をしていたが、情状酌量の余地がある事と、こちらの都合で唯一の例外になった」
別にしょっ引かれても良かったが、と顔に書いている男を横目に高宮はニヤリと笑った。益々訳が分からない、と聖月は眉根を寄せた。
「どういう事?」
「知っての通り、今までの真宮は傲慢で横暴。その権力をそぐことを望んでいる者が多かったのは事実だ。だが、その一方で真宮が今までこの国にもたらしてきたものもまた、大きい。つまり、実際問題として真宮にいなくなられては困るんだ」
「その権力と人脈、名声、そして存在するだけで恐怖にも安堵にもつながる存在感。それらを失うのは惜しいって事ね」
真宮失脚のニュースは確かに世間を騒がせ、歓喜の声を上げた者もいた。しかし、それ以上に困惑と悲哀、不安の声を上げた者たちがいたのだ。それだけ真宮家はこの国に根付き、発展を支え、不届き者の抑止力となっていたという事。今でさえ腐敗したものの、それを理解している者達が、これからどうなるのかと不安視していたのだ。
「ああ。それに、真宮の失脚に乗じて馬鹿をやらかす者も出てくるだろう。そう言った意味では、強大な力を持って君臨し続けた真宮はいい抑止力だった」
「でも、今回の件で真宮は空中分解寸前。……て、まさか?!」
「そのまさか。言ったろ、お前を差し出すって。」
ぎょっとした顔をする聖月に、高宮は晴れ晴れとした笑顔で突き付ける。今回散々振り回され、こき使われた鬱憤を晴らしているようだ。俺たちの味わった苦労をお前にも、といったところだろう。
「五大名家が突き付けてきた条件は、お前に真宮の復興を任せるって事だ」
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