学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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終末

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 「ちょっと。俺が今までこの家から逃げる為にどれだけ苦労したと?!しかも、いい思い出なんてない!」

 悲鳴を上げる聖月。しかも俺は真水分家であって本来なら後継者になり得ないんだけど、と叫ぶ。竜崎も真剣な顔で同意する。

 「ああ。だが、それが今回お前を助ける為に差し出した対価。上手く行ったからよかったものの、失敗したら大変な事になってた。ハイリスクハイリターン。誰もが何かを犠牲にしたのだから、お前も何かを差し出さなければならないって事だ」

 血の気の引いた顔をしている聖月。既に手一杯の状況で、予想以上の対価を突き付けられ卒倒寸前だ。

 「我々五大名家側としても、真宮が完全消滅する事はパワーバランス的にも旨くない。世間様を落ち着かせるのも大変。だがしかし、よくよく考えたら内部に後継者筆頭候補でクリーンな奴が居て?その能力は俺たちのお墨付きで?腐敗を払拭するために事件を起こしたけどきちんと後始末して真宮は生まれ変わりますよ、とアピールしたら誰もが万歳な状態じゃん?あら、問題解決」
 「なんかこの流れ、最近何度も見たな」
 「やり返さないとやっていられなかったのでしょう」
 「まって!ツッコミどころが多すぎてどうすればいいのか分かんないんだけど?!」

 カラカラと笑って茶々を入れる古宮に、紅茶を配ってあるく嵯峨野。振り回された被害者として随分仲が良くなったようで。気安く会話をする脇で、聖月は必死の形相をしている。

 「第一!俺は一応内部の人間だけど、逃げ回ってた所為で内部に通じてないほぼほぼ外部の人間だし、人脈とかないし!第二に!いきなり現れたガキに何が出来るって?!むしろ大丈夫なのかと不安になるでしょ!そもそも!あそこまで腐り切ったものを直しようがないでしょ!?」
 「だぁから、掃除して、完膚なきまで叩き潰したんだろうが」

 無茶な、と噛みつく聖月だが、高宮はにっこり笑うだけ。俺たちはその無茶を通してきたんだけど、と視線で言われると痛い。すっと真剣な顔をした高宮が良く考えてもみろ、と聖月を説得にかかる。

 「今の真宮はいわば、焼け野原の何もない状態だぜ?そこに街を作るとしたら、自由に設計できんじゃねぇの。復興にはこれ以上とないだぜ?」

 元々何かがあるところに新たな物を作る事は難しい。だが、更地なら好きに設計しても問題無い、と高宮は言っているのだ。そりゃそうだけど、と渋面の聖月に嵯峨野が補足する。

 「なお、聖月君には真宮家に養子に入ってもらい、真宮を正式に名乗ってもらいます。その際、他四家が共同で声明を出し後ろ盾となる事を表明、真宮復興まで尽力すると公表する予定です。なので二番目と三番目の問題は解決という事で」
 「無理やりすぎる……」

 要するに、今までの真宮はウザかったけど居ないと居ないで困るから、さっさと復興して事態収拾しろよ。利用されてやったんだからそれくらいやれ。と恐ろしく高い対価を求められているのだ。聖月が頭を抱えるのも無理はない。そして内部への影響力ですが、と嵯峨野はチラリと視線を流す。その先に居るのは。

 「いや、流石にそれはちょっと」

 深央を視線で示され、聖月は混乱を棚に上げて嵯峨野を睨む。真宮に苦しめられてきた彼をまだ利用する気か、と威嚇する。これまでと打って変わって本気で拒絶する気配を滲ませる聖月に、嵯峨野が喉を鳴らす。しかし、そこに待ったをかけたのは深央本人だった。

 「つまり、俺を補佐官として使い内部に影響力を持たせる。それもあって俺は見逃されたし、元々そのつもりだったしな」
 「深央?!」

 あっさりと口にする深央に対し信じられない、という顔で深央を見つめる聖月。そこに竜崎が割って入る。

 「真宮当主に聖月が突くこと。その件は深央からも交換条件として出されていた」
 「俺は、椿を失った。後継者争いで、だ。ここで真宮がなくなったら、椿は何の為に死んだ?」

 暗い声で零す深央は、どろりとした暗い瞳をしていた。はっと息をのむ聖月に、皮肉気に嗤って見せる。

 「ずっと気を窺っていた。お前を逃がし、情報を集め、証拠を保存し、アイツらを地獄に送る方法を探していた。それが実現した今、次はお前を当主の座につける」

 そうすれば、と深央は叫ぶように、泣き喚くように告げる。

 「椿は、この戦いの為に死んだって思える。アイツの死は無駄じゃなかったと!」

 人生を狂わされた者同士の悲嘆。聖月にはそれが痛いほどわかった。

 「お前は言ったな。せめて生死くらいは己の手に、と。だから、俺もそれに乗る。俺の生死は俺の手に。そして、生死すら奪われた妹の死の意味くらいは俺の手で作りたかった。それだけだ」

 そのために、俺はここまでした。そして、今回の件でお前に対価として真宮復興を要請する。

 これまでの恩も返してもらうぞ、と凄まれ聖月は唇を噛みしめた。聖月の心は揺れていた。理性が彼らの言は正しいと叫び、心がそんな事知った事かと泣く。板挟みになって言葉を失う聖月の背を蹴り飛ばしたのは、他ならぬ竜崎だった。

 「なぁに難しく考えてんだよ」
 「対価だ何だ、とは言ってるが事は終わっちまったんだ。シレっと無視して逃げる事だって出来んだぜ?!」
 「おい?!」

 何を言う気だ、と目を剥く高宮だったが、落ち着けよと竜崎に手で制され余計な事を言ったらタダではおかないと視線で返す。

 「どうせ逃げ続けるつもりだったなら同じことだ。だが、折角逃げ続けなきゃなんない状況を打破したってのにまた逆戻りか?」

 目を見開く聖月。ニヤリと笑った男は、そっとその耳元に囁く。

 「それに、楽しそうじゃねぇの?さっさと真宮を復興させて高宮共にあの時復興なんて考えなければ、なんて地団駄を踏ませられたら最高じゃねぇか」

 またトップとって高みから高笑いしてやろうぜ、と悪戯を企む子供の様に竜崎が笑うから。誰もが無理だと思った事を成し遂げてしまった彼が居たから。きょとんとしていた聖月も思わず吹き出し、そりゃあいい、と悪戯に乗る事を決意した。

 「でっかい花火打ち上げて、全員の度肝を抜くか。確かに、何時もの悪戯と変わんない。違うのはお目付け役の龍が悪戯に参加することくらい?」
 「せっかく馬鹿アホ間抜けの三拍子そろった悪戯好きクソガキって定評あるんだ。派手にやってやれ」
 「それも楽しいかも」
 「おい、お前ら何考えてやがる?」

 いきなり聖月が顔を輝かせるから、しかもその顔をした時は大概ろくなことが起きないから。高宮達の顔が盛大に引きつるが、既に遅かった。どこか吹っ切れた様子の聖月はびしっと高宮に指を突き付けて高らかに宣言した。

 「今にみてろ高宮!この聖月が成敗してくれる!」
 「意味分かんねぇよ!」

 そしてすべてに決着がついたのだ。
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