学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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平穏

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 聖月の悪戯に引っかかって死屍累々の様相を呈したornerinessの店内。それでも最後の力を振り絞って怒声と呪詛を浴びせかけてくる者達を背に、聖月と竜崎はさっさと二階に上がっていった。二人の意見は一致している。引っかかる方が悪い。その一択である。

 「あっはは。まさかあんなに引っかかるヤツが出るなんて」
 「ああ。ちょっと考えればわかる事なんだがな」

 未だに笑いを引き摺っている聖月。滲む涙を無造作に拭っているのを見た竜崎が眉を顰める。ほっそりした腕を掴んで止めると、すっと取り出したハンカチでそっと拭う。

 「何のかんの言いつつ、面倒見が良いと言うか。几帳面だよね」
 「どっかの誰かがズボラだからな」

 揶揄うように掛けられた声に、意味ありげな視線を返す。むう、と膨れる恋人にふっと笑みがこぼれる。その男の色気に溢れた笑みに聖月が見惚れて隙が生じたその瞬間。

 「えっと?龍ちゃん?コレは一体どういう状況?」
 「さぁ?そのよく回る頭で考えたらどうだ?」

 一瞬にして男を見上げ、聖月はヘラりと笑った。そして、壮絶なまでに凄みを帯びた笑みを目の当たりにして、視線が泳ぐ。

 「龍ちゃん、激おこぉ」
 「これで怒らずにいられるか」

 険を帯びた形相を見せる男の瞳の中に拗ねたような色を見つけて、聖月は目を瞬かせた。そして吹き出す。

 「今日が何の日かっての」

 ぶつくさ呟いて華奢な細腕を跡が付きそうなくらいに握りしめる男。分かってしまえば簡単な事。

 「あはは。だから今回の趣旨にしたのに」
 「は?」

 クスクス笑った聖月。それでも拗ねた表情を崩さない竜崎が眉をしかめる。この男はバレンタインという恋人のイベントに、他の人間にまで手作りシュークリームをふるまった事が気に入らないらしい。それが贈り物どころかとんでもない爆弾だったとしても。独占欲の強い男である。

 「ねぇ龍。そこに一個箱が置いてあるの見える?」
 「箱?」

 室内に視線を走らせると、ベッドサイドテーブルに箱が置いてあるのが分かった。一瞬ためらったが、渋々体を起こし箱を引き寄せる。これが何だ、と視線で訴えてくる男にクスクス笑うと開けてみて、と歌うように促す。ゆっくり開けた箱を覗き込んだ竜崎が目を見開く。

 「コレって」

 出てきたのはシュークリーム。一瞬固まった竜崎は胡乱な瞳を聖月に向ける。流石に苦笑した聖月はそっとその内の一つを手に取る。

 「最初に俺が食べて見せたでしょ。あれは一つだけ紛れ込ませたチョコレートクリーム。あからさまじゃないように気を付けたけど、流石に一個は食べないと乗ってくれないと思ってね」
 「だと思った。で?」
 「さて、ここでクエスチョン。チョコレートクリームは何個作ったでしょう?」

 甘やかに訪ねてくる恋人に、竜崎は表情を変えた。驚いた顔をした次の瞬間、パカリと大きく口を開けた。柔らかく微笑んだ聖月は正解、と小さく囁いてそっとその口元にシュークリームを運んだ。サクっと音を立ててかぶりついた中から出てきたのは。

 「龍だけだよ。をあげるのは」
 「ならいい」

 上手い、と目を細めた竜崎が満足そうに頷く。その感想に嬉しそうに顔を輝かせた聖月を見て悪戯っぽく顔を輝かせると、もうひと口齧りつくと、そのまま恋人の可憐な唇にも齧りついた。ん、と甘やかに鳴く恋人の口にチョコレートクリームを流し込むと、甘いものが好きな恋人が柔く笑む。

 「甘い」
 「でしょ」

 甘さ控えめなクリームより甘い声をお互いに漏らし。そのまま二人はお互いに溺れていく。

 因みに、蓮にふるまったのカスタードクリームのシュークリーム。朝から突き合わせた礼にふるまった。店並に上手いと絶賛した末に食べ過ぎて撃沈していたが。

 まぁ、チョコレートクリームじゃないし、蓮は別枠だからいいよね。そんな事を思いつつ聖月は竜崎の熱に身を委ねた。

 これが周囲には害しかもたらさないはた迷惑な二人の甘い過ごし方。


**********
 いかがだったでしょうか。ちゃんとお礼になっているといいなー、とドキドキです。
 書いていて思う、聖月君の性格の悪さ……。書いていて楽しいですが、どうしてこうなったのかと頭を抱えております。思いっきり暴走してくれるので。
 なにはともあれ。ありがとうございました。
 ハッピーバレンタイン!
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