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広がる世界
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「お披露目」も無事終了し、ローゼは晴れて貴族の一員となった。
エーデルシュタイン家も、アインホルン家も、代々受け継いでいる地盤と幅広い人脈があり、そのお陰か、身元の分からないローゼに対しても、あからさまに偏見の目を向ける者はなかった。
この日、ローゼとユリアンは、ローゼの義理の両親となった、クラウスとゾフィ夫妻をエーデルシュタイン家の屋敷に招き、歓待していた。
「『お披露目』も無事に済んで、あとは、ユリアンとローゼ殿の婚礼を待つばかりだね」
客間の長椅子に、ゆったりと座っているクラウスが言った。
「うちの『娘』の晴れ舞台ですものね。ローゼちゃん、お色直しは三回? いえ四回は欲しいかしらね……どんなドレスを用意しようか考えると眠れなくなりそうよ」
ゾフィは、楽しみで仕方ないという様子で、ローゼを見た。
「き、貴族の婚礼って、凄いのですね……」
ローゼが読んできた絵本や小説にも、王侯貴族の婚礼の場面はあったものの、実際はどのようなものになるのか、彼女には想像がつかなかった。
「『お披露目』でも、皆が着飾ったローゼに釘付けだったからな……婚礼衣装姿など見せたら、客たちの目が潰れかねないだろう」
そう言って、ユリアンは口元を綻ばせた。
「君が冗談を言うなんて、珍しいね」
「いや、冗談などではないが」
クラウスの言葉に、ユリアンが、きょとんとした。
「近いうちに婚礼衣装の打ち合わせを始めたいけど、ユリアンの意見も聞きたいから、参加してもらえるかしら」
ゾフィが言うと、ユリアンは少し残念そうな顔をした。
「それなんだが、また仕事が忙しくなる……落ち着くまで、ローゼと相談していてくれ」
「もしかして、間もなくおいでになるというグロリア帝国皇帝陛下と、国王陛下の会談の件?」
クラウスが口を挟んだ。
「そうだ。警備などに、貴族監督省からも応援を出すことになって……本来の任務とは違うが、うちの職員には、腕の立つ者も多いからな」
「それで、一時的に人手を取られてユリアンに皺寄せが来るのね。たしかに、帝国の皇帝陛下が我が国に来ている時に何かあったら、色々と厄介ですものね」
ゾフィが肩を竦めた。
「……グロリア帝国って、このフランメよりも更に東方にある国ですよね。地理で習いました」
ローゼも、家庭教師の授業を思い出して言った。
「たしか、『魔導具』の材料として重要な『魔法石』の豊富な鉱脈を有していて、帝国と折り合いが悪くなると、色々不都合が起きるとか……」
「ほう、よく勉強しているな」
ユリアンが、感心した表情を見せた。
「『魔法石』は、魔力の伝導物質として最も優れていると言われるけど、産地は限られていて、仮に帝国からの輸入が止まるようなことがあれば、不便になるだろうね」
クラウスが言うと、ユリアンは頷いた。
「そうならないように、色々と準備しなければならないということだ」
「世界は、色々なところで繋がっているのですね」
ローゼは、知識が増える度に世界の複雑さを感じた。
身の周りだけが「世界」だった、奴隷のように扱われていた頃には、考えられないことだった。
「グロリア帝国といえば、あの辺りの人たちって、ローゼちゃんみたいな黒髪が多いわね。もしかして、ローゼちゃんは、あの近辺の出身なのかしら」
そう言って、ゾフィがローゼに目をやった。
「そうなんですか……私、昔のことは何も思い出せなくて……」
「なに、ローゼ殿はユリアンへの天からの贈り物ということで、いいじゃないか」
俯くローゼに、クラウスが明るく言った。
「俺は、ローゼが何者であっても気にしないぞ」
優しく微笑むユリアンの言葉に、ローゼは救われる思いだった。
エーデルシュタイン家も、アインホルン家も、代々受け継いでいる地盤と幅広い人脈があり、そのお陰か、身元の分からないローゼに対しても、あからさまに偏見の目を向ける者はなかった。
この日、ローゼとユリアンは、ローゼの義理の両親となった、クラウスとゾフィ夫妻をエーデルシュタイン家の屋敷に招き、歓待していた。
「『お披露目』も無事に済んで、あとは、ユリアンとローゼ殿の婚礼を待つばかりだね」
客間の長椅子に、ゆったりと座っているクラウスが言った。
「うちの『娘』の晴れ舞台ですものね。ローゼちゃん、お色直しは三回? いえ四回は欲しいかしらね……どんなドレスを用意しようか考えると眠れなくなりそうよ」
ゾフィは、楽しみで仕方ないという様子で、ローゼを見た。
「き、貴族の婚礼って、凄いのですね……」
ローゼが読んできた絵本や小説にも、王侯貴族の婚礼の場面はあったものの、実際はどのようなものになるのか、彼女には想像がつかなかった。
「『お披露目』でも、皆が着飾ったローゼに釘付けだったからな……婚礼衣装姿など見せたら、客たちの目が潰れかねないだろう」
そう言って、ユリアンは口元を綻ばせた。
「君が冗談を言うなんて、珍しいね」
「いや、冗談などではないが」
クラウスの言葉に、ユリアンが、きょとんとした。
「近いうちに婚礼衣装の打ち合わせを始めたいけど、ユリアンの意見も聞きたいから、参加してもらえるかしら」
ゾフィが言うと、ユリアンは少し残念そうな顔をした。
「それなんだが、また仕事が忙しくなる……落ち着くまで、ローゼと相談していてくれ」
「もしかして、間もなくおいでになるというグロリア帝国皇帝陛下と、国王陛下の会談の件?」
クラウスが口を挟んだ。
「そうだ。警備などに、貴族監督省からも応援を出すことになって……本来の任務とは違うが、うちの職員には、腕の立つ者も多いからな」
「それで、一時的に人手を取られてユリアンに皺寄せが来るのね。たしかに、帝国の皇帝陛下が我が国に来ている時に何かあったら、色々と厄介ですものね」
ゾフィが肩を竦めた。
「……グロリア帝国って、このフランメよりも更に東方にある国ですよね。地理で習いました」
ローゼも、家庭教師の授業を思い出して言った。
「たしか、『魔導具』の材料として重要な『魔法石』の豊富な鉱脈を有していて、帝国と折り合いが悪くなると、色々不都合が起きるとか……」
「ほう、よく勉強しているな」
ユリアンが、感心した表情を見せた。
「『魔法石』は、魔力の伝導物質として最も優れていると言われるけど、産地は限られていて、仮に帝国からの輸入が止まるようなことがあれば、不便になるだろうね」
クラウスが言うと、ユリアンは頷いた。
「そうならないように、色々と準備しなければならないということだ」
「世界は、色々なところで繋がっているのですね」
ローゼは、知識が増える度に世界の複雑さを感じた。
身の周りだけが「世界」だった、奴隷のように扱われていた頃には、考えられないことだった。
「グロリア帝国といえば、あの辺りの人たちって、ローゼちゃんみたいな黒髪が多いわね。もしかして、ローゼちゃんは、あの近辺の出身なのかしら」
そう言って、ゾフィがローゼに目をやった。
「そうなんですか……私、昔のことは何も思い出せなくて……」
「なに、ローゼ殿はユリアンへの天からの贈り物ということで、いいじゃないか」
俯くローゼに、クラウスが明るく言った。
「俺は、ローゼが何者であっても気にしないぞ」
優しく微笑むユリアンの言葉に、ローゼは救われる思いだった。
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