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# 10 新たな住まい
しおりを挟む非常階段のところで見張っていたモリたちを呼び寄せる。
村議婦人の手を離し、歩茶のベッドのストッパーを外し、廊下に出た。
先ほどまでいた部屋の中で物音が聞こえる。
モリたちが応戦している。
やはりあの化け物が下から上がってきたのか?
「こっちよ!」
歩茶が寝ていた部屋から少し離れた場所から雨が手を振った。
そこは窓のない手術室だった。
中央には大きな手術台が鎮座し、部屋の端には食べ物や飲み物が整然と保管されている。
「たぶん、不測の事態に備えて、ここで籠城できるように準備していたんだと思うわ」
たしかに。
雨の予想はおそらく正解。
部屋の中で戦っていたモリたちが撤退してきた。
未強化の野良サル2体と斬リッ株1体が戻ってこない。
やられたのか……。
手術室の扉を閉め施錠する。
その間に念のため、ゴリ親方をオブジェクト化しておく。
──ゴッ!
鈍い音とともに、金属製の扉が内側にへこむ。ゴッ、ゴッ、ゴッ──と連続して衝撃が響くが、扉はなんとか耐えている。
衝撃音は数時間にも及び、その間に扉が破られた場合の作戦を練ったが、良い案は浮かばなかった。
やがて音はピタリと止んだ。
だが、すぐに開ける勇気が出ず、しばらくしてから扉を開けた。
誰もいなかった。廊下の突き当たりの窓からは、朝の光が差し込んでいる。
あの人間型の化け物は?
ツタ忍に調べてもらったが、病院内に人型も含め、化け物はいなくなっているとのことだった。
「おじい、ちゃん」
「歩茶、もう歩いて大丈夫なの?」
「うん」
後ろで歩茶が寝台から立ち上がるのを見て、胸をなでおろした。顔色も良くなっている。少し足元がふらついているように見えたので、ゴリ親方におぶってもらうことにした。
例の病室へ足を運んだ。
昨夜、あまりにも急だったので、奥方の遺体を運べなかったのが悔やまれる。
遺体がない。
ただ、残っている血痕からここでは貪り食われたわけではなさそうだった。
病院の3階にあった使えそうな医療器具や薬は鞄につめて持ち出すことにした。
駐車場に戻ると車は2台とも無事だった。
ここで問題が持ち上がる。
ゴリ親方をどうするか。
「ゴリぃぃ~~」
悲しげな声が響く。気づいているのだ。
ここに置き去りにするのは不憫だが、ゴリ親方の歩く速度に合わせて帰るには時間がかかりすぎる。
野良サルなどはなるべく強化して、数を減らせば軽トラに乗るがゴリ親方は明らかに重量オーバー。
「スキル【積みゲー】で新たに〝ストレージ〟が解放されました」
スマホでモリモリを起動し、所持金を確認しようとしたところ、画面が真っ暗になり、「Downloading」「Please wait」と白い文字が点滅した後、通知が届いた。
〈ストレージ〉──持ち物を保管できる場所。モリモリのキャラもここに保管できる。
へー、説明書きを読んで納得した。
今まさに必要な能力だ。
「じゃあ、また後で」
「ゴリッ! ゴリッ!」
嬉しそうな声が返ってきた。
そりゃそうだ。
こんなところに置き去りにされるのは心配だったに違いない。
ストレージというのは、いわば別の次元に空間のようなものがあるらしく、ゴリ親方を1体と先ほど薬品や医療器具を詰め込んだ鞄を入れたところ、「57%」と出た。なのでゴリ親方を2体、ストレージの中に保管するのはできないことがわかった。
ちなみにストレージという画面を出して、ゴリ親方を呼び出すまでの時間は、1秒にも満たない。オブジェクト化が数分も要することから、実戦ではこちらの方が役立ちそう。
「これは⁉」
軽トラと高級車の二台に分かれて乗り込み、自宅へと戻った。
切り分けた切通しの岩が目印の入り口付近には、モリたちの姿は1体もなかった。
──荒らされている。
敷地内は踏み荒らされ、奥の建物は崩れ、誰もいない。
村議も姿を消していた。
建物のそばに車を止め、村議が瓦礫の下に埋まっていないか捜索した。パワーなら、現在オブジェクト化できるどのモリよりも強いゴリ親方を三体オブジェクト化し、瓦礫の撤去を任せた。
やはりいない。
跡形もなく食われてしまったのか……。
不吉なことを想像してしまうが、今はそれどころではない。
モリを9体も置いていったのに全滅した。
あの熊型の化け物が大量に湧いたのか、それともホームセンターを襲っていた大樹とトカゲ型の化け物の仕業か。だが、想像しうる想定の中でいちばん怖いのは人型の化け物の襲来。
銃もバリスタも効かない。
おまけに3階から落としても、再び這い上がってきた。
今のところ、あの人型の化け物が現れたら、逃げるしかない。
まあ、今は先にやるべきことがある。
まず、住む家がない。
この場所を放棄するか……。
いや、せっかく手に入れた自分の土地。
この世界が狂ってしまった今でも、土地だけは確かに自分のものだ。簡単に手放すつもりはない。
アイテムの中に〈ログハウスキット〉というものがあった。
材料だけを手に入れて自分で組み上げるセルフビルドタイプが500万円。場所を指定すればポンと完成するフルビルドタイプが1500万円でオブジェクト化できるらしい。
小一時間悩んだ末、2棟のログハウスをオブジェクト化することに決めた。
時間がないため、1棟はフルビルドタイプ、もう1棟はセルフビルドタイプをゴリ親方たちに建ててもらうことにした。
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