翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

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第一部

第十六話 やっぱりお前は彼女が好きなのか

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 せっかくメテオライトと色々話をして来たというのに、朝一番で俺の耳に飛び込んできたのは帝国軍とシスル・マグノリア軍が国境を突破して、ローレッタ聖王国へ攻め込んできたという事実だった。アンスリウム公爵の軍勢がこれに抵抗をみせているらしいが、そう長くはもたないだろう。
 ハイドランジアも兵を挙げたようだが、警戒していたアイリスが素早く対応してこれを抑えている状態らしい。

「帝国が攻めてくるなんて……俺は悪い夢でも見てるんだろうか……」

 祈りを捧げるようなポーズのまま項垂れているのはロビンだ。
 訓練場に集まっている他の騎士たちも、この展開にはついていけないようで困惑している。

「レックス殿たちが陛下と話をしているんだよな? 俺たちも前線に行くんだろうか」
「いや。ここにいる隊は、近郊での守備と王族の警護に分けられるだろうな」
「何を怖気づいているの! こういう時こそ、我らローレッタ聖騎士団の力を示すべきだろう!」

 いつも通りロビンと話していると、この空気に耐えられなかったのかメレディスが混ざってきた。
 彼女は原作でも誇り高く気高い騎士だったが、それにしても実物はさらに勇ましく感じる。
 ゲームでメレディスが仲間になるのはエリアスより少し前なのだが、その時の彼女は聖騎士団の残党を連れてアイリス軍に協力してくれる友軍だという点を考えると、ここにいる全員が死ぬわけではないのだろう。
 しかしそこまで強くはないので、出来る限り無理はしないでほしいというのは無理な相談なんだろうか。

「エリアス殿。至急会議室までお越しください」

 訓練場に来た使用人に告げられ、俺は二人と別れ会議室に向かう。
 入口に立っている騎士がすぐに開けてくれたという事は、それだけ急ぎの要件なのだろうか?

「エリアス参上いたしました」
「ほぅ。そなたが噂の勇者殿か」
「思っていたよりお若いですのね」

 入ってすぐ、俺に話しかけてきたのは一組の男女だ。原作では敵として出てきたやつらでもある。しかし陛下を差し置いて話すとか、こいつら不敬なんじゃないか?
 しかし当の陛下といえば、頭を抱えるようにして座っている。原作では暗愚と称されていただけあって、今回のようなことが起こっても、まともな対応ができないのだろう。

「陛下がこの状態なのでな。私が代わりに話そう」
「失礼ですが、貴方のお名前は?」
「う~む。流石は田舎生まれの勇者。私のことを知らないのは無理もない。私はデルフィニウム侯爵パスカルだ。ここに貴様を呼んだのはほかでもない、陛下警護の任務を与える」
「俺の上官はレックス殿です。彼の許可は得ていますか?」

 この爺さんの相手は、実に不愉快である。ゲームの知識で顔も名前も知っていたが、名乗りもしないで話をする無礼な老人に腹が立ったので態と聞いたのだが、田舎生まれを馬鹿にするな。
 このパルカルと、もう一人の女――アグリモニー伯爵夫人タバサが、原作でモンタギュー殿を陥れ死に追いやった元凶なのである。大事な義父さまに、そんなことされてたまるか!
 そもそも陛下の言葉ならまだしも、これどう見てもこの爺の意見だよな。レックス殿のほうを見ると、首を横に振っているので間違いなさそうだ。

「そんなことより、グレアム殿下やフェイス様の安全を確保するべきですわ」
「聖王国の聖騎士団は優秀なのだから、トカゲ共の帝国や、シスルやハイドランジアのような田舎者どもに負ける訳がなかろう。だからこうして陛下の心労を少しでも和らげようと、民たちに評判の勇者に白羽の矢をあてたのではないか!」
「聖騎士団が優秀ですって? 寝言は寝てから仰って下さるかしら? あんな連中、そこらへんの民兵にも勝てないわよ! フェイス様は美しくて聡明でお優しくてか弱くて儚いのよ! 戦乱の真っただ中に放り込まれるかもしれない場所に、いつまでも置いておけるものですか! 戦線が王都から離れている今のうちに安全な場所へお連れするべきよ!」

 ミシェルよ。勢いよく俺が言いたかったことを発言してくれたのは有り難いが、お前は女に生まれてもフェイス様が大好きなんだな。しかし、あれだけ騎士団が罵倒されたのでレックス殿が頭を抱えている。
 というかこの爺は田舎者を馬鹿にしすぎだ。ゲームで仲間になったキャラの一人に、ド田舎から出てきた奴がいたのだが、正直言ってそいつが味方キャラ最強だった。そいつの初期兵種は民兵ミリシャ。ファンの間では余りの強さに破壊神リックと呼ばれていた。

「陛下。ひとまずは軍の全権を私がお預かりする、という事で宜しいですかな?」
「う、うむ。モンタギューに一任する」

 ミシェルとパスカルが言い合っている間にモンタギュー殿が陛下から軍の指揮権を奪い取った。
 やっぱりこの聖王は暗愚だな。ミシェルが話している内容に自分が含まれていないことに気が付かないどころか、場合によっては切り捨てられるという事実に気が付いていない。
 第一王位継承者であるグレアム王子が生き延びれば次の王は彼だ。原作通りフェイス王女だけ逃がせたとしても王家の血は絶えないので、この戦争で負けても後から聖王国の再興ができる。
 リリエンソール公爵家にも傍系とはいえ王家の血が流れているから、そっちから王を選ぶという手もあるのだが、この話は置いておこう。

 この会議室で判ったことといえば、デルフィニウム侯爵パスカルは早めにどうにかしないといけないという事だ。
 原作において彼は帝国に聖王国を売った見返りに、ロザリー公爵領など主要な領地を手に入れているのだが、それを成し遂げるには、目の上のたん瘤であるモンタギュー殿をどうにかしなくてはならなくなり、戦場で敵と共謀し罠にかけるのだ。

 しかし俺の能力では内通の証拠なんて集められないし、レックス殿やミシェルに相談したほうが良いのかもしれない。
 モンタギュー殿が主導権を握ったことで会議はいったんお開きとなり、俺は騎士団の訓練場に戻ってきた。

「何の話だったんだ?」
「陛下の護衛の話だった。まぁ、レックス殿が断ってくれたんだけど」
「えっ? そんな話断って平気なのか!?」
「陛下が直接命じたわけじゃなく、デルフィニウム侯爵が言ってきたんだよ」
「あの爺さんかぁ。リリエンソール公爵家の老人たちにはかなわないけど、なかなか嫌な性格してるよね。俺の家も昔から馬鹿にされてたし」

 あの爺の評価は同じ貴族の間でもよくないようだ。まぁ、たしかにそうだよな。俺もあいつ嫌いだし。
 とりあえず騎士団はいつも通りの訓練をすることになっているようだ。
 今や訓練後の日課であるメレディスとの手合わせをしたあと、俺は軍のお偉いさん三人の誰か一人を捕まえようと城内を歩くことにした。
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