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第一部
第十七話 リリエンソール家は恐ろしいです
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やっぱり俺の幸運は7しかなかったんだ。歩けどあるけど三人の誰一人として遭遇できない。戦の準備に追われ走り回る輸送隊の兵たちくらいしかいない。
通りかかった人に彼らの所在を聞いてみると、レックス殿は前線であるアンスリウム公爵領へと向かったそうだ。
モンタギュー殿は執務室で各所への指令書の作成などに追われ、ミシェルは誰に聞いても所在不明。
諦めて宿舎に帰ろうとすると、出かけていくミシェルを発見したので追いかける。
歩きで移動するなんて珍しいなと思いつつ追いかけていくと、俺が先日メテオライトと話をした酒場にたどり着いた。
どうやらミシェルはメテオライトとなにやら話し込んでいるようで、二人そろって酒場の裏手に移動したようだ。人に聞かれたくない話でもするのだろうか?
「ねえ、テオ。あなた本当にここを離れてしまうの?」
「うん。ここに居座り続けると、シスル軍に捕まりそうだし」
「そう……お師匠様のところに帰るのかしら?」
「うん。マーリン様の手伝いがあるからね」
物陰から会話を盗み聞く。二人の関係はよく分からないが、ミシェルの魔導の師がマーリンだったとは初耳だ。いや、こないだの竜退治の時の話を考えると、俺は今更気が付いたことになるのか?
だんだんと二人の距離が近くなり、息がかかる程になると何かを耳打ちし合っている。内緒話に切り替えるとは、俺の尾行能力もたかが知れているな。そして羨ましい。
どうにか話を聞こうと身を乗り出そうとしたところで、何者かに襟首を掴まれたと思ったら、腕を捻りあげられ地面に伏せることになった。
「あら、エリアス。こんな所にまで会いに来るなんて、そんなに私が恋しかったのかしら?」
「うん。ちょっと話があって……」
「ヘルゲ。放してあげて」
俺の尾行に気が付いていたくせに。そう思いながらも俺を取り押さえている者を横目に見ると、ミシェルも察してくれたのか解放される。
小柄な割に力の強いこの男は、ヘルゲというリリエンソール公爵家に仕える密偵だそうだ。
「ひとまずはこちらを。物証はあと数日掛かりそうです」
「そう。ご苦労様。仕事に戻ってちょうだい」
ヘルゲから何か受け取ると、ミシェルは性格の悪そうな笑みを浮かべた。これは何かを企んでいるに違いない。密偵を使って調べるようなことといえば、表沙汰に出来ないような情報も少なくはないだろう。
デルフィニウム侯爵たちの内通の件を伝えようと追いかけてきたはいいが、俺は彼女にどのようにして伝えるかを考えていなかった。いっそのこと前世の記憶のことを話してしまおうか。荒唐無稽だと一蹴されるかもしれないが、彼女の師であるマーリンがメテオライトの言葉を信じたように、ミシェルも俺の言葉を信じてくれるかもしれない。
「テオは頼みたいことがあるから、もう少し待ってちょうだい。エリアスは戻ってからお話ししましょうか。メレディスと……ほかに何人か信頼のおける騎士を交えて、ね」
「どんな話をするんだ?」
「タヌキ爺と女狐の処分について。貴方の推薦できそうな聖騎士団員は居るかしら?」
まさか俺が話す前から動いているとは恐るべし。しかしそれじゃあ、なんで原作でのモンタギュー殿はまんまと罠に嵌ってしまったんだろう?
原作との違いといえばミシェルの軍での地位がかなり上昇しているという点だが、貴族間の情報だったら持っていてもおかしくなさそうだし。
メテオライトからの情報のリーク……とかか?
「信頼できるということなら、あのタヌキにあまりいい印象を持っていないという点でロビンだな」
「ロビンね。確かに彼の家ならタヌキ・キツネ両家と交流も縁もないし、私も彼のことならそこそこ知ってるから問題なさそうね」
「しかし大丈夫なのか?」
「問題ないわ。うちの一族にちょっと情報をくれてやれば、機を窺って勝手に援護してくれるでしょうし。あいつらの領地って結構いいもの採れるのよ」
リリエンソール家の長老たちが出てくるかもしれないとか、恐ろしいなと思いつつも、こういった際は非常に頼りになるであろうことは判っている。
俺の無い頭を捻るよりも、うんと効率よく確実に仕留める策を編み出してくれそうだ。
「それじゃあ僕はもう行くね。東のほうが帝国側に落とされたら帰れなくなっちゃうし」
「あなた一人くらい、私がワープで送って差し上げますわ。なのでもう少々滞在してくれません?」
「何かやって欲しいことでもあるのかい?」
「吟遊詩人の貴方にしかできないことを幾つか」
「そういうことなら、あと一週間ほど滞在期間を伸ばすよ。僕は杖が仕えないから助かるし」
どうやら迷いの森に帰るところを引き留めていたらしい。メテオライトは少し大きな荷物を抱え立ち去ろうとしたのだが、すかさずミシェルが引き留めた。
吟遊詩人に頼みたいことなんて、何か噂を広めてもらうくらいしか思いつかないんだけど、いったい何を頼むつもりなんだ?
「私はもう少しテオと話してから戻ります。話し合いは私の執務室で行うから、二人を呼んでおいてくださいませ」
「メレディスとロビンだけでいいのか?」
「あまり大人数だと計画が露呈してしまいますわ」
「それもそうだな」
いったいどんな噂を流すつもりなんだろうか。ミシェルの笑みが恐ろしい。メテオライトも新しい玩具を見つけた子供のような表情だ。
しかし侯爵と伯爵夫人の二人の罪状をどうやって焙り出すのだろう。公爵家の権力で叩きのめすというより、正攻法で社会的に叩き潰すみたいだし。
「それとエリアス。もし私より先に執務室に着いた場合は机の上に筆記用具があるから、そこに命のしずくの結果を書いておいてくださいませ」
「ああ、うん。わかったよ。とりあえず先に、凄かったとだけ伝えておく」
「……結果を聞くのが楽しみですわ」
ミシェルたちと別れた後、城に戻りメレディスとロビンを探してミシェルの執務室に向かう。
彼女はまだ戻ってきていなかったが、あらかじめ話を通してあったのか、先日の助手が部屋に通してくれた。そして筆記用具を差し出される。なるほど、この人も結果が気になっていたのか。
メレディスたちが興味津々に先日の実験の内容を聞いてきたので、助手の人と説明しているうちにミシェルが帰ってきた。
「さぁ、作戦会議と行きましょうか?」
通りかかった人に彼らの所在を聞いてみると、レックス殿は前線であるアンスリウム公爵領へと向かったそうだ。
モンタギュー殿は執務室で各所への指令書の作成などに追われ、ミシェルは誰に聞いても所在不明。
諦めて宿舎に帰ろうとすると、出かけていくミシェルを発見したので追いかける。
歩きで移動するなんて珍しいなと思いつつ追いかけていくと、俺が先日メテオライトと話をした酒場にたどり着いた。
どうやらミシェルはメテオライトとなにやら話し込んでいるようで、二人そろって酒場の裏手に移動したようだ。人に聞かれたくない話でもするのだろうか?
「ねえ、テオ。あなた本当にここを離れてしまうの?」
「うん。ここに居座り続けると、シスル軍に捕まりそうだし」
「そう……お師匠様のところに帰るのかしら?」
「うん。マーリン様の手伝いがあるからね」
物陰から会話を盗み聞く。二人の関係はよく分からないが、ミシェルの魔導の師がマーリンだったとは初耳だ。いや、こないだの竜退治の時の話を考えると、俺は今更気が付いたことになるのか?
だんだんと二人の距離が近くなり、息がかかる程になると何かを耳打ちし合っている。内緒話に切り替えるとは、俺の尾行能力もたかが知れているな。そして羨ましい。
どうにか話を聞こうと身を乗り出そうとしたところで、何者かに襟首を掴まれたと思ったら、腕を捻りあげられ地面に伏せることになった。
「あら、エリアス。こんな所にまで会いに来るなんて、そんなに私が恋しかったのかしら?」
「うん。ちょっと話があって……」
「ヘルゲ。放してあげて」
俺の尾行に気が付いていたくせに。そう思いながらも俺を取り押さえている者を横目に見ると、ミシェルも察してくれたのか解放される。
小柄な割に力の強いこの男は、ヘルゲというリリエンソール公爵家に仕える密偵だそうだ。
「ひとまずはこちらを。物証はあと数日掛かりそうです」
「そう。ご苦労様。仕事に戻ってちょうだい」
ヘルゲから何か受け取ると、ミシェルは性格の悪そうな笑みを浮かべた。これは何かを企んでいるに違いない。密偵を使って調べるようなことといえば、表沙汰に出来ないような情報も少なくはないだろう。
デルフィニウム侯爵たちの内通の件を伝えようと追いかけてきたはいいが、俺は彼女にどのようにして伝えるかを考えていなかった。いっそのこと前世の記憶のことを話してしまおうか。荒唐無稽だと一蹴されるかもしれないが、彼女の師であるマーリンがメテオライトの言葉を信じたように、ミシェルも俺の言葉を信じてくれるかもしれない。
「テオは頼みたいことがあるから、もう少し待ってちょうだい。エリアスは戻ってからお話ししましょうか。メレディスと……ほかに何人か信頼のおける騎士を交えて、ね」
「どんな話をするんだ?」
「タヌキ爺と女狐の処分について。貴方の推薦できそうな聖騎士団員は居るかしら?」
まさか俺が話す前から動いているとは恐るべし。しかしそれじゃあ、なんで原作でのモンタギュー殿はまんまと罠に嵌ってしまったんだろう?
原作との違いといえばミシェルの軍での地位がかなり上昇しているという点だが、貴族間の情報だったら持っていてもおかしくなさそうだし。
メテオライトからの情報のリーク……とかか?
「信頼できるということなら、あのタヌキにあまりいい印象を持っていないという点でロビンだな」
「ロビンね。確かに彼の家ならタヌキ・キツネ両家と交流も縁もないし、私も彼のことならそこそこ知ってるから問題なさそうね」
「しかし大丈夫なのか?」
「問題ないわ。うちの一族にちょっと情報をくれてやれば、機を窺って勝手に援護してくれるでしょうし。あいつらの領地って結構いいもの採れるのよ」
リリエンソール家の長老たちが出てくるかもしれないとか、恐ろしいなと思いつつも、こういった際は非常に頼りになるであろうことは判っている。
俺の無い頭を捻るよりも、うんと効率よく確実に仕留める策を編み出してくれそうだ。
「それじゃあ僕はもう行くね。東のほうが帝国側に落とされたら帰れなくなっちゃうし」
「あなた一人くらい、私がワープで送って差し上げますわ。なのでもう少々滞在してくれません?」
「何かやって欲しいことでもあるのかい?」
「吟遊詩人の貴方にしかできないことを幾つか」
「そういうことなら、あと一週間ほど滞在期間を伸ばすよ。僕は杖が仕えないから助かるし」
どうやら迷いの森に帰るところを引き留めていたらしい。メテオライトは少し大きな荷物を抱え立ち去ろうとしたのだが、すかさずミシェルが引き留めた。
吟遊詩人に頼みたいことなんて、何か噂を広めてもらうくらいしか思いつかないんだけど、いったい何を頼むつもりなんだ?
「私はもう少しテオと話してから戻ります。話し合いは私の執務室で行うから、二人を呼んでおいてくださいませ」
「メレディスとロビンだけでいいのか?」
「あまり大人数だと計画が露呈してしまいますわ」
「それもそうだな」
いったいどんな噂を流すつもりなんだろうか。ミシェルの笑みが恐ろしい。メテオライトも新しい玩具を見つけた子供のような表情だ。
しかし侯爵と伯爵夫人の二人の罪状をどうやって焙り出すのだろう。公爵家の権力で叩きのめすというより、正攻法で社会的に叩き潰すみたいだし。
「それとエリアス。もし私より先に執務室に着いた場合は机の上に筆記用具があるから、そこに命のしずくの結果を書いておいてくださいませ」
「ああ、うん。わかったよ。とりあえず先に、凄かったとだけ伝えておく」
「……結果を聞くのが楽しみですわ」
ミシェルたちと別れた後、城に戻りメレディスとロビンを探してミシェルの執務室に向かう。
彼女はまだ戻ってきていなかったが、あらかじめ話を通してあったのか、先日の助手が部屋に通してくれた。そして筆記用具を差し出される。なるほど、この人も結果が気になっていたのか。
メレディスたちが興味津々に先日の実験の内容を聞いてきたので、助手の人と説明しているうちにミシェルが帰ってきた。
「さぁ、作戦会議と行きましょうか?」
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