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第一部
第十八話 作戦の決行日になりました
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作戦会議から一週間が経ち、メテオライトが迷いの森に帰る日が来た。彼を送り出すのは今夜を予定している。
ミシェルが彼に頼んだものというのは、デルフィニウム侯爵の汚職とアグリモニー伯爵夫人の異性問題を抽象的な表現で広めることだった。他にも貴族に関する話題という事で幾つか目くらましの噂を立てる。
侯爵の汚職は領地の税収や食料を帝国と繋がっているマグノリア王国の貴族に流していたことなど他多数。代わりにローレッタ聖王国の滅亡後に領地を貰う約束と、帝国勢力内での便宜を図ってもらうようだ。
伯爵夫人の異性問題は彼女が囲っている若い男の一人がハイドランジア王国の間者というものだ。しかも先日欠席だった伯爵の病は夫人が毒を盛っていたのが原因。間者はそろそろヘルゲが押さえている頃だ。
噂の直接的な表現を避けたのはメテオライトが彼らに目を付けられないようにするためだ。作戦決行前の下準備というか、ミシェルも直接伝えればいいものをわざわざ噂という形で彼女の一族に伝えるためだった。彼女曰く、一族の妖怪共に頼みごとをしたくない――だそうだ。向こうが勝手に手伝ったという形に持っていきたいらしい。
目くらましに立てる噂には、ロビンの実家であるブルーベル男爵領で少量のみ製造されている幻の麦酒が絶品らしいだとか、リリエンソール家秘伝の美容法があるだとかそういったものが主だ。二人の悪評だけが悪目立ちしないように、適当な貴族の悪評も混ぜておく。
そこになぜか俺の武勇伝までが追加されている。森での竜退治に大いに脚色を加えたものが何故か一緒に語られることになった。
「それにこれは貴方の為でもありますのよ?」
「俺のため?」
「そう。エリアスは私の恋人ということになっているのですもの、叔父様たちが貴方に嫌がらせとかを出来ないように手柄を持たせるのよ」
「それで仕掛けてこなくなるのか?」
「ええ。お父様以外の一族連中は地位とか権力とかが大好きで、邪魔者を陰で始末するのが得意です。だけど王家の助けとなる者にまで手を下す愚か者は居ないわ」
「あの情報を集めたのは君の手柄だろう? 良いのかい?」
「だから言ったでしょ? 私は貴方の恋人ということになっているんだから、未来の夫を立てるみたいな形に持っていくのよ。要するにあなたの手柄にね」
どうやら恋人(仮)の立場になっている俺を、彼女が上手いことまつり上げてくれるらしい。
リリエンソール家の老人たちは性格は悪いけど忠誠心は強いようで、王家の利益になるならと見逃してもらえる可能性に賭けるらしい。しかし邪魔者がどうとかおっかないな。
それにしても未来の夫とか良い響きだなぁ……そういう設定なだけで、実際は知人かよくて友人だけど。
「えっと、やっぱり俺があの文章を読み上げてあの二人を問いただすのか?」
「私が読み上げてもいいですけど……そんなに難しかったかしら?」
「俺が田舎育ちってことも考慮に入れてくれないかな?」
今日の決行まで彼女が厳重に保管していた作戦会議の時に見せられた羊皮紙を思い出す。
そこには田舎育ちの俺には馴染みがない難解な言い回しが多く、正直いってスムーズに読み上げる自信がない。
むしろ相手に見せつけるように突き付けるのだから、内容を暗記しろと言われているようなものだ。
「そうでしたわね。では私が読み上げますので、エリアスは帯剣して隣に立っていてくださいな。できれば聖剣を」
「そうだな。聖剣の力を使うことになるかもしれないし、君が怪我をしないよういつでも飛び出せるようにしておくよ」
ここで俺が持つ聖剣テミスの性能を説明しよう。
女神アストレアが翠緑の勇者に与えた断罪者の剣である聖剣テミスは、絶対悪に対してしかその能力を発揮しないため対人戦闘では鈍らになることが多い。その代わりに所有者が所属する国の法や秩序を乱したものは断罪できる。
極端な話をすると状況証拠を適当に突き付けて聖剣でバッサリいって、切れれば有罪、無傷なら無罪という判別もできなくはない。まあ、打撲くらいはするだろうけど。
「午後からの会議で王都にいる貴族が集まるわ。レックスおじ様も一時的に帰還するそうだから間に合えばいいのだけれど」
「でも、おかげでメレディスが会議室に入れるようになった」
「ええ。いま王都にいるロザリー公爵家の者はあの子だけだからね」
今日ばかりは王都にいる騎士団も訓練どころではなく各所に配置されている。
俺とメレディス、ロビンの三人はミシェルの下に出向するかたちで魔導兵団に出入りしているので、これには含まれない。
「それにしても……まさかシスルで希少なワープを買い占めているなんて思いもしなかったわ」
「ワープを……? なんでまた」
「国境があっさり突破されたのは、ワープで侵入されたのが原因よ。これじゃあ、いくら国境で警戒していても無駄になるわ」
「でもワープでそんな大人数を送り出すなんて無理だよな? いくら買い占めても使用回数にも限度があるし」
「……知っているものはあまり居ないけど、文字通り命がけでやれば小隊程度なら一度に送り込めるわ。やる人間なんてそうそう居ないでしょうけど、おおかた犯罪者に罪を軽くしてやるとか唆してやらせたんじゃない?」
なぜこの短期間で国境が突破されたのかと思っていたが、ワープにそんな使い方があったなんて思いもしなかった。
ゲームでは友軍の救助に強キャラを一人送り込んだり、城内の宝箱を開けるのに敵に先を越されそうだから味方を送り込んだりするのに使っていた便利な杖程度の認識だったが、まさかこんなにも怖ろしい使い方をしてくるとは。しかし彼女のいう通り、犯罪者にやらせているというのなら扱えるものが減れば実行はできなくなるし、そもそもワープは武器と違って修理不可能なアイテムだ。使用回数も十回と制限がある。
「問題は向こうに幾つワープが渡っているかなのよね。座標さえしっかり分かっていればこの城内にも入り込むことはできるから、あのアバズレ女が情報を洩らしていなければいいのだけど」
「アグリモニー伯爵夫人は魔導の心得は?」
「魔導は心得があるけど杖は無いはずよ。兵種で言えば魔導騎士のはずだし、ワープは杖の練度がそこそこ高くないと使えないから仕組みもわからないはず」
前世の知識で、夫人に杖が扱えないことは知っていたが念のために聞く。この世界は俺の知っている月虹のレギンレイヴとは少し異なる世界になっているので確認のためだ。
僧侶系以外で杖が仕えるのは、魔導士の上級職である賢者と巫術師の上級職である巫女だから、夫人が原作通り魔導騎士であるなら杖は使えない。侯爵のほうは聖騎士だったので杖に関しては論外だ。
「さて、そろそろ会議に向かう準備をしましょうか。そちらの箱もお持ちいただけるかしら?」
「あぁ。それにしても随分重いな」
「羊皮紙に記してあることの証拠ですわよ。調査書類と物品がいろいろ入っておりますので、お父様にお渡しして」
「いつの間にこんな……」
「一族連中がこぞって渡してきたわ。あいつらに都合のいい相手との見合い話とセットで」
なるほど、手土産を持って頼みごとをしてくるのか。これはミシェルも断りにくいだろうけど、間違いなく一蹴しているんだろうな。
しかしこの状況で見合いを勧めてくるとか、リリエンソール家の老人たちは逞しいというか随分と肝が据わっている。もしかしなくてもマグノリアとかシスルの貴族との縁談が混ざっているんじゃないか?
重い箱を持ち上げてミシェルと共に廊下に出ると、ちょうどいいタイミングでメレディスが迎えに来ていた。
「そろそろ会議だけど準備はいいの?」
「ばっちり」
「ええ。メレディスも危ないと思ったらエリアスを盾にするといいわ」
「そういうことなら頼りにさせてもらうわ」
長い廊下を進み会議室の前に立つと重厚な扉が開かれる。室内には聖王と多くの貴族がそろっていた。
目的の人物たちも、これから何が起こるかも知らずに余裕の表情だ。
ミシェルに目配せし箱をどのタイミングでモンタギュー殿に渡すかを問いかけたのだが、どうやら今ではないらしい。
各貴族たちが座席の背後に護衛を侍らせていることにならい、俺もミシェルの背後に立つ。ここに勇者の席はないからだ。
ここを乗り越えたらおそらく次はグレアム王子やフェイス王女の亡命になるだろう。
そのためにもここは、聖王家に仇なす獣どもの排除に全力を尽くそうではないか。
ミシェルが彼に頼んだものというのは、デルフィニウム侯爵の汚職とアグリモニー伯爵夫人の異性問題を抽象的な表現で広めることだった。他にも貴族に関する話題という事で幾つか目くらましの噂を立てる。
侯爵の汚職は領地の税収や食料を帝国と繋がっているマグノリア王国の貴族に流していたことなど他多数。代わりにローレッタ聖王国の滅亡後に領地を貰う約束と、帝国勢力内での便宜を図ってもらうようだ。
伯爵夫人の異性問題は彼女が囲っている若い男の一人がハイドランジア王国の間者というものだ。しかも先日欠席だった伯爵の病は夫人が毒を盛っていたのが原因。間者はそろそろヘルゲが押さえている頃だ。
噂の直接的な表現を避けたのはメテオライトが彼らに目を付けられないようにするためだ。作戦決行前の下準備というか、ミシェルも直接伝えればいいものをわざわざ噂という形で彼女の一族に伝えるためだった。彼女曰く、一族の妖怪共に頼みごとをしたくない――だそうだ。向こうが勝手に手伝ったという形に持っていきたいらしい。
目くらましに立てる噂には、ロビンの実家であるブルーベル男爵領で少量のみ製造されている幻の麦酒が絶品らしいだとか、リリエンソール家秘伝の美容法があるだとかそういったものが主だ。二人の悪評だけが悪目立ちしないように、適当な貴族の悪評も混ぜておく。
そこになぜか俺の武勇伝までが追加されている。森での竜退治に大いに脚色を加えたものが何故か一緒に語られることになった。
「それにこれは貴方の為でもありますのよ?」
「俺のため?」
「そう。エリアスは私の恋人ということになっているのですもの、叔父様たちが貴方に嫌がらせとかを出来ないように手柄を持たせるのよ」
「それで仕掛けてこなくなるのか?」
「ええ。お父様以外の一族連中は地位とか権力とかが大好きで、邪魔者を陰で始末するのが得意です。だけど王家の助けとなる者にまで手を下す愚か者は居ないわ」
「あの情報を集めたのは君の手柄だろう? 良いのかい?」
「だから言ったでしょ? 私は貴方の恋人ということになっているんだから、未来の夫を立てるみたいな形に持っていくのよ。要するにあなたの手柄にね」
どうやら恋人(仮)の立場になっている俺を、彼女が上手いことまつり上げてくれるらしい。
リリエンソール家の老人たちは性格は悪いけど忠誠心は強いようで、王家の利益になるならと見逃してもらえる可能性に賭けるらしい。しかし邪魔者がどうとかおっかないな。
それにしても未来の夫とか良い響きだなぁ……そういう設定なだけで、実際は知人かよくて友人だけど。
「えっと、やっぱり俺があの文章を読み上げてあの二人を問いただすのか?」
「私が読み上げてもいいですけど……そんなに難しかったかしら?」
「俺が田舎育ちってことも考慮に入れてくれないかな?」
今日の決行まで彼女が厳重に保管していた作戦会議の時に見せられた羊皮紙を思い出す。
そこには田舎育ちの俺には馴染みがない難解な言い回しが多く、正直いってスムーズに読み上げる自信がない。
むしろ相手に見せつけるように突き付けるのだから、内容を暗記しろと言われているようなものだ。
「そうでしたわね。では私が読み上げますので、エリアスは帯剣して隣に立っていてくださいな。できれば聖剣を」
「そうだな。聖剣の力を使うことになるかもしれないし、君が怪我をしないよういつでも飛び出せるようにしておくよ」
ここで俺が持つ聖剣テミスの性能を説明しよう。
女神アストレアが翠緑の勇者に与えた断罪者の剣である聖剣テミスは、絶対悪に対してしかその能力を発揮しないため対人戦闘では鈍らになることが多い。その代わりに所有者が所属する国の法や秩序を乱したものは断罪できる。
極端な話をすると状況証拠を適当に突き付けて聖剣でバッサリいって、切れれば有罪、無傷なら無罪という判別もできなくはない。まあ、打撲くらいはするだろうけど。
「午後からの会議で王都にいる貴族が集まるわ。レックスおじ様も一時的に帰還するそうだから間に合えばいいのだけれど」
「でも、おかげでメレディスが会議室に入れるようになった」
「ええ。いま王都にいるロザリー公爵家の者はあの子だけだからね」
今日ばかりは王都にいる騎士団も訓練どころではなく各所に配置されている。
俺とメレディス、ロビンの三人はミシェルの下に出向するかたちで魔導兵団に出入りしているので、これには含まれない。
「それにしても……まさかシスルで希少なワープを買い占めているなんて思いもしなかったわ」
「ワープを……? なんでまた」
「国境があっさり突破されたのは、ワープで侵入されたのが原因よ。これじゃあ、いくら国境で警戒していても無駄になるわ」
「でもワープでそんな大人数を送り出すなんて無理だよな? いくら買い占めても使用回数にも限度があるし」
「……知っているものはあまり居ないけど、文字通り命がけでやれば小隊程度なら一度に送り込めるわ。やる人間なんてそうそう居ないでしょうけど、おおかた犯罪者に罪を軽くしてやるとか唆してやらせたんじゃない?」
なぜこの短期間で国境が突破されたのかと思っていたが、ワープにそんな使い方があったなんて思いもしなかった。
ゲームでは友軍の救助に強キャラを一人送り込んだり、城内の宝箱を開けるのに敵に先を越されそうだから味方を送り込んだりするのに使っていた便利な杖程度の認識だったが、まさかこんなにも怖ろしい使い方をしてくるとは。しかし彼女のいう通り、犯罪者にやらせているというのなら扱えるものが減れば実行はできなくなるし、そもそもワープは武器と違って修理不可能なアイテムだ。使用回数も十回と制限がある。
「問題は向こうに幾つワープが渡っているかなのよね。座標さえしっかり分かっていればこの城内にも入り込むことはできるから、あのアバズレ女が情報を洩らしていなければいいのだけど」
「アグリモニー伯爵夫人は魔導の心得は?」
「魔導は心得があるけど杖は無いはずよ。兵種で言えば魔導騎士のはずだし、ワープは杖の練度がそこそこ高くないと使えないから仕組みもわからないはず」
前世の知識で、夫人に杖が扱えないことは知っていたが念のために聞く。この世界は俺の知っている月虹のレギンレイヴとは少し異なる世界になっているので確認のためだ。
僧侶系以外で杖が仕えるのは、魔導士の上級職である賢者と巫術師の上級職である巫女だから、夫人が原作通り魔導騎士であるなら杖は使えない。侯爵のほうは聖騎士だったので杖に関しては論外だ。
「さて、そろそろ会議に向かう準備をしましょうか。そちらの箱もお持ちいただけるかしら?」
「あぁ。それにしても随分重いな」
「羊皮紙に記してあることの証拠ですわよ。調査書類と物品がいろいろ入っておりますので、お父様にお渡しして」
「いつの間にこんな……」
「一族連中がこぞって渡してきたわ。あいつらに都合のいい相手との見合い話とセットで」
なるほど、手土産を持って頼みごとをしてくるのか。これはミシェルも断りにくいだろうけど、間違いなく一蹴しているんだろうな。
しかしこの状況で見合いを勧めてくるとか、リリエンソール家の老人たちは逞しいというか随分と肝が据わっている。もしかしなくてもマグノリアとかシスルの貴族との縁談が混ざっているんじゃないか?
重い箱を持ち上げてミシェルと共に廊下に出ると、ちょうどいいタイミングでメレディスが迎えに来ていた。
「そろそろ会議だけど準備はいいの?」
「ばっちり」
「ええ。メレディスも危ないと思ったらエリアスを盾にするといいわ」
「そういうことなら頼りにさせてもらうわ」
長い廊下を進み会議室の前に立つと重厚な扉が開かれる。室内には聖王と多くの貴族がそろっていた。
目的の人物たちも、これから何が起こるかも知らずに余裕の表情だ。
ミシェルに目配せし箱をどのタイミングでモンタギュー殿に渡すかを問いかけたのだが、どうやら今ではないらしい。
各貴族たちが座席の背後に護衛を侍らせていることにならい、俺もミシェルの背後に立つ。ここに勇者の席はないからだ。
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