翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

文字の大きさ
27 / 140
第一部

第二十七話 アイリスの王子

しおりを挟む
 レギンレイヴシリーズの第一作目である【月虹のレギンレイヴ】の主人公――ルイス王子は歴代主人公たちの中でも群を抜いて人気が高い。
 イケメン過ぎず、かといって不細工というわけでもない平均的な容貌。正義感が強く、弱いものを見捨てることができない甘さもあるが、年齢的にも多少青臭いところがあるのは仕方がないだろう。確かエンディングの時点でやっと成人するはずだから、現在は十五歳くらいか。
 なお、シリーズのファンを長くやっているものたちからは『初代さま』と呼ばれている。俺も前世では初代さま呼びだったうちの一人だ。

「グレアム殿下、アントン殿下、フェイス殿下。よくぞご無事でいてくださいました」

 ルイス王子は礼儀正しく王族の三人へと挨拶をする。流れるように跪くあたりは王子というより騎士の部分が強いな。
 アイリスは騎士の国と呼ばれるだけあってか、主君への礼は欠かせないのだろう。原作でも時折話題に上がったアイリス国王の教育方針で、ルイス王子は王族としての立ち振る舞いと聖王家に仕える騎士としての矜持をその身に宿している。
 ああしかし、ほんと初代さまマジ初代さま。確かエンディングだと後世の人はルイス王子のことを騎士王と称するんだったか。

「ルイスよ。元気そうで何よりだ。トラヴィスは息災か?」
「はい。最初は父が自ら前線に立つと言い出すほどでございました」
「はははっ、相変わらず勇ましいな」

 そんな感じで王子たちが少し話をしたのちに、俺たちも含めて要塞の中に案内された。
 俺たち一行はそこそこの人数が居たので半数以上は待機場所に通され、残りは奥の会議室に案内される。
 コナハト要塞の会議室に集まったのはルイス王子たちアイリス軍の将たちと、グレアム王子たちの護衛についてきた数人の騎士たちだ。

「ルイスよ。私たちはこれよりアイリス軍と共にハイドランジアをはじめとする、帝国に与したものたちと戦うつもりである」
「グレアム殿下自らが戦場に立たれるのですか?」
「いや。私には剣の心得があっても実戦で振るった経験がない。戦場での指揮もそうだ。なのでルイスよ。そなたには解放軍の盟主代行を頼みたい」
「私が指揮を執り殿下たちを聖王国に帰すという事ですね。……わかりました。最善を尽くします」

 ここでバーナードたちに軽く目配せするだけで決断をするとか、さすがは原作の主人公だな。俺がルイス王子の立場だったら不満が出そうなもんだ。
 正直いって聖王国の治世は余り宜しくない。あの聖王や貴族たちを見ていれば分かることだが、内部で腐敗が進んでいるのだ。
 まあ、グレアム王子は少し世間知らずなだけみたいだから、このさき色々なものを見て回れば良い王になるかもしれない。
 アントン王子はともかく、フェイス王女が慕っている様子もあることだし悪い人ではなさそうだ。
 あとは慎重すぎる部分を直せればいい気がするけど、これは本人が言っていたように経験不足なだけだろうから、この旅が終わる頃が楽しみだ。

「それと、アントンとフェイスをアイリス城に預けたたい」
「ブリジットたちから連絡を受けた際に迎えの馬車を本国に手配してあります。今日はもう遅いので到着は明日の昼過ぎになるかと思いますので、今夜はご不便もあるでしょうがこの要塞にお泊り下さい」

 あ~、ほんと初代さまブレないな。なんでそんなに捻くれたとこがないんだ。温和な性格が原因か。

「あの、そのことなのですが……兄さま、私も共に参ります」
「フェイス!? 何を言っているのだ! 私たちはこれより戦場へと向かうのだぞ!?」
「そっ、そうだよ! なんでわざわざそんな怖いところへ行かないといけないんだ!」

 俺たちはさっき森の前で聞いていたが、兄王子たちには寝耳に水な話だったようで二人そろってあからさまに狼狽えている。

「フェイス様、差し支えなければ理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「邪竜ロキが復活したという噂は、この地にも届いていることでしょう。父が亡くなられた今、邪竜に対抗できる神器・神光アルヴィトを扱えるものは私しか残っておりません」
「たっ、確かにそうだが……っ!」
「これでも私には神聖魔法の心得がございます。護衛としてついて来てくれたメレディスたちに助けられながらになるかもしれません。それでも、私は逃げるわけにはいかないのです!」

 先ほどのことといい、今のこれといい、フェイス様が覚醒した!
 ミシェルには怒られるかもしれないけど、俺はフェイス様を応援するぞ! 戦うヒロインは美しいのだ!
 兄である王子たちとしては聖王家に伝わる神器が扱えないというのはコンプレックスになりそうではあるが、こればかりは魔法に適性がないと無理な話だ。
 魔力1とか3のやつが使ったところで大した威力は期待できないし、そもそも使用できる武器もその熟練度も兵種に依存する。
 アントン王子は判らないがグレアム王子はどう見ても剣士系だ。たぶんルイス王子と同じ兵種の王子プリンスだろう。

「……護衛の方たちは、どのようにお考えですか?」

 ここで俺たちに話題を振ってくるとは……さすがのルイス王子でも主君たる聖王家の人間は止めにくいという事か。でもルイス王子よ、話題を振る人選を間違えてますよ。

「私はフェイス様の向かう場所についていき、その御身をお護りするだけです」

 メレディスさんよ、ずいぶん男前だな。イケメン、抱いて! ってこういう場面で使えばいいのだろうか?

「俺もメレディスと同じく。結構丈夫なので盾くらいにならなれますよ」

 ロビンお前の守備高かったのか……それともHPか。訓練用の剣だと威力が低いから分からなかったぞ。いや、そういえばさっきもあんまりダメージ受けてなかった気が……。
 と、ここで二人の視線が俺に向く。俺も意気込みを話せばいいのか? よし、いっちょ頑張ろう。

「この聖剣テミスに誓って、フェイス様をお護りする」

 グレアム王子が盛大に溜息を吐いた。そりゃ三人が揃いもそろって参戦許可するなんて思いもしないだろうからな!
 俺だってさっきの話が無ければ、もう少し悩んだところだ。

「……ルイス。こいつは普段は大人しいが、一度言い出すと聞かない」
「そのようです。エリアス殿以外の護衛二人は魔導騎士マギナイトのようですし、フェイス様にはなるべく安全な場所に布陣していただこうかと思います」
「あぁ、世話をかける」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

道化たちの末路

希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...