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第一部
第三十七話 マグノリア王ウォルター
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「なぜこのような場所にあの御仁が……?」
予想だにしていなかった人物の登場にアゲートが首を傾げた。
マグノリア王ウォルターは原作における中盤の強敵にあたる。といっても八章で一度退却したのちに十三章でオニキスと共に登場し、その後は十五章まで立て続けに敵軍の中に混ざっている。
どの章でも形成が不利と理解するや否や部下を引き連れ撤退していくのだが、基本的にはハイエナのような立ち回りが多い。
ゲームでの初登場は妹であるイレーヌを反逆の罪で捕らえ、処刑しようとする章が八章でこれを阻止するのが自軍の目標となる。
この八章では一ターン目の終了時に部下に砦を任せて撤退するだけなのだが、十三章以降は割と積極的に攻撃を繰り広げマグノリア軍の半数を撃破するまで撤退せず、彼を撃破したとしても十五章での決着までは撤退扱いになる。
しかも兵種は竜騎士なので機動力や守備が高く、原作で仲間になる弓兵系はこの時点では狙撃手である氷の貴公子ともう一人――ルイス王子の幼馴染で乳兄弟の弓兵ホープの二人しかいないのだが、氷の貴公子は力のステータスが低くホープは技のステータスが低いので撃破が容易ではない。
弓と同じく風魔法も特攻が付くのだが、それを得意とするものが仲間になるのは最速で十六章なので登場が間に合わない。同じく月虹で一番強い弓兵系である遊牧民も十六章で仲間になる。
「真っすぐとこちらへ向かってくるようだ」
「あぁ。弓兵たちでも落としきれないみたいだし接近されることになるかもな」
そう言いながら俺は水晶の剣を構えウォルターが射程圏内に入ってくるのを待つ。
竜騎士は守備こそ高いが魔防は低いので、水晶の剣での魔法攻撃であればそれなりのダメージが期待できる。
魔法の射程圏内に入ってきたところでメレディスたちも一斉に魔法攻撃を仕掛けるが、ウォルターは巧みに飛竜を操り海上を飛び回り攻撃をかわしていく。
俺も水晶の剣でサンダーを放つが当たったのは隣を飛んでいた竜騎士だった。
そのまま縦横無尽に飛び回り、飛んできた矢も槍で叩き落とすとウォルターは甲板の上空にまで接近してきた。
「ほう……この船は当たりのようだな」
高慢さを感じる声と共に彼が視線をやったのはフェイス様だ。彼女は今、初めての戦場に緊張しているというのもあるのだろう、メレディス達の背後に庇われたままだが真っすぐにウォルターを見据えている。
微かに振るえており、手に持った魔導書を強く握りしめているのか指先が白くなっている。
「しかも面白い奴まで混ざっているときた。これは退屈せずに済みそうだ!」
槍を構えなおしたウォルターはフェイス様から一度視線を外すと、俺とアゲートのほうを見ながら笑い声をあげた。
アゲートのこの変装を見破るやつが居ても可笑しくはないと思ってはいたが、このタイミングでバレるのは拙いのではないだろうか。
原作でのオニキスとウォルターの関係は共闘しているとはいえ割とドライだったし、野心家の彼なら他国の騎士が裏で何かを企んでいると知ればそれに乗じて何かを仕掛けてくる可能性もある。一番心配されるのがシスル王国に対してのものだ。
オニキスの指示が届く範囲の兵の規模がどの程度なのかは正確に把握できていないが、リリエンソール渓谷に布陣している部隊や国境付近に布陣している部隊ともなるとそれなりの規模となる。
もしオニキスが謎の騎士アゲートとしてアイリス軍ひいてはローレッタ王族の護衛をしていると帝国にしれれば、シスル王国の立場は危うくなるだろう。
「寝込んでいるはずの貴様がなぜここに居るかは、あえて聞かずにおいてやろう。武器を構えろ。そして俺を愉しませるがいい!」
槍を持ち直したウォルターの駆る飛竜が勢いよく甲板へ向かい滑空してくる。
アゲートは銀の槍で攻撃を受け流しつつ、フェイス様が攻撃されないよう位置取りをした。
ウォルターはというと愉しそうに嗤いながら飛竜を駆り、檣頭見張台の上あたりまで飛び上がる。
距離が開いたところですかさずメレディスたちが魔法を放つもひらりとかわされてしまう。
船のマストが邪魔となり攻撃が当たりにくくなっているようで、特に炎魔法を得意とするものたちは引火させてしまう可能性を考慮してか慎重になっているようでもあった。
この距離だと水晶の剣よりも通常の剣で迎え撃ったほうが良いので、俺は武器を銀の剣に持ち替えると飛竜が降下してくるのを待つ。
水晶の剣でのサンダーは通常の雷とは違い避雷針などに吸い寄せられることはないのだが、相手の素早さなどを考慮すると水晶の剣では攻撃を受け流すことができないからだ。
剣と槍ではリーチの長い槍のほうが有利ではあるが、相手から仕掛けてくるというのであれば軌道を読み違えない限り受け流すことはできる。
再び降下してきた飛竜が咆哮をあげる。距離が近いせいもあって耳が割れそうなほどの轟音に思わず怯む。
さすがはマグノリア王の飛竜というだけあってか、迫力が今までに遭遇した飛竜とは比べ物にならない。
相手も俺がみせた僅かな隙を見逃すはずもなく愉悦を浮かべた笑みと共に槍を突き出してきた。
「ぐぅ……っ!?」
直撃こそ避けることはできたが、ウォルターの繰り出してきた槍は俺の脇腹を深く抉った。辺りに鮮血が散る。
竜騎士のような飛行系ユニットは一撃離脱が基本なので、今のように攻撃を受ける際にカウンターを仕掛けるのが近接戦闘では基本なのだが、さきほどの飛竜の咆哮による威嚇や武器の相性などもあってかなかなかうまくいかない。
間近にいた飛竜の羽ばたきで起こった強風で俺はそのまま船の淵まで吹き飛ばされ背中を強く叩き付けられた。
少しふらつきはするが立っていられないという状態ではないので剣を杖がわりにして立ち上がり、相手と味方の位置をそれぞれ確認する。
ウォルターが引き連れてきた竜騎士団は船首船尾のいたるところに獲りつき兵たちを蹂躙している。
縦横無尽に飛び回る竜騎士たちに掻きまわされ陣形も崩れているのか、通常は後衛である魔導士たちが直接対峙しているところも見られた。
「エリアス!?」
吹き飛ばされた俺を心配してかメレディスが叫ぶ。あぁ、そんな悲痛な顔をしないでくれ。
今の俺には君が泣いてしまっても慰めてあげられる余裕もなければ、原作のように君を選ぶことを放棄した俺にそんな資格はないんだ。
俺のことは満身創痍とみなしたのかウォルターは一瞥すら寄こさない。彼が見据えているのはフェイス様を庇うように立っているアゲートのほうだ。
いかな漆黒の聖騎士といえども戦闘経験のない姫君を護りながらでは戦いにくいのだろう。しかも今は船上という事も合わさって彼の愛馬は居ない。
「くっそぉ! さらに増援かよ!」
遠くに敵影を見つけたらしいロビンが叫んだ。少し霞む目でそれを確認する。
何という最悪の状況だろう。他の船もまだ戦闘は終わっていないだろうから味方の増援は期待できない。
せめてフェイス様だけでも逃がさなければと思うが、こちらには飛竜も天馬もいないのだ。船に積んである小型の船で逃がしたところで空を舞う竜騎士たちに狙い撃ちにされるだけ。お手上げ状態である。
「諦めてはなりません!」
そう声を上げながら魔導書を開くとフェイス様の指先から魔法陣が展開され、光り輝く砲弾がウォルターへと撃ち込まれる。目にも留まらぬ速さで放たれた閃光はウォルターの乗る飛竜の顔面に直撃した。
天馬と違い魔法への耐性が低い飛竜はこれに怯み戦線を離れようとしているのか、ウォルターが手綱を引いても操縦が上手くいかない状態のようだ。
「今だ! 打ち取れ!」
竜騎士団の長でもあるマグノリア王ウォルターさえ倒すことができれば、この混戦状態の戦場も終わりが見える。
メレディスの叫びに呼応するように魔導士たちが一斉に攻撃を仕掛けた。
「ちっ……潮時か」
ウォルターは小さく呟くと片手をあげマグノリア軍に合図を出しながら飛竜を上昇させた。
高度を上げられると逃げられてしまう。そう思い俺は水晶の剣に持ち替えようとするが、先ほどのダメージが思ったよりも響いているのか銀の剣に比べればはるかに軽いはずの水晶の剣を掲げることができなかった。
他の者たちの魔法攻撃も、落ち着きを取り戻し始めたウォルターの飛竜と、マグノリア兵たちが盾となり王を護ったことにより、俺たちはウォルターの撤退をみすみす認めることとなってしまった。
予想だにしていなかった人物の登場にアゲートが首を傾げた。
マグノリア王ウォルターは原作における中盤の強敵にあたる。といっても八章で一度退却したのちに十三章でオニキスと共に登場し、その後は十五章まで立て続けに敵軍の中に混ざっている。
どの章でも形成が不利と理解するや否や部下を引き連れ撤退していくのだが、基本的にはハイエナのような立ち回りが多い。
ゲームでの初登場は妹であるイレーヌを反逆の罪で捕らえ、処刑しようとする章が八章でこれを阻止するのが自軍の目標となる。
この八章では一ターン目の終了時に部下に砦を任せて撤退するだけなのだが、十三章以降は割と積極的に攻撃を繰り広げマグノリア軍の半数を撃破するまで撤退せず、彼を撃破したとしても十五章での決着までは撤退扱いになる。
しかも兵種は竜騎士なので機動力や守備が高く、原作で仲間になる弓兵系はこの時点では狙撃手である氷の貴公子ともう一人――ルイス王子の幼馴染で乳兄弟の弓兵ホープの二人しかいないのだが、氷の貴公子は力のステータスが低くホープは技のステータスが低いので撃破が容易ではない。
弓と同じく風魔法も特攻が付くのだが、それを得意とするものが仲間になるのは最速で十六章なので登場が間に合わない。同じく月虹で一番強い弓兵系である遊牧民も十六章で仲間になる。
「真っすぐとこちらへ向かってくるようだ」
「あぁ。弓兵たちでも落としきれないみたいだし接近されることになるかもな」
そう言いながら俺は水晶の剣を構えウォルターが射程圏内に入ってくるのを待つ。
竜騎士は守備こそ高いが魔防は低いので、水晶の剣での魔法攻撃であればそれなりのダメージが期待できる。
魔法の射程圏内に入ってきたところでメレディスたちも一斉に魔法攻撃を仕掛けるが、ウォルターは巧みに飛竜を操り海上を飛び回り攻撃をかわしていく。
俺も水晶の剣でサンダーを放つが当たったのは隣を飛んでいた竜騎士だった。
そのまま縦横無尽に飛び回り、飛んできた矢も槍で叩き落とすとウォルターは甲板の上空にまで接近してきた。
「ほう……この船は当たりのようだな」
高慢さを感じる声と共に彼が視線をやったのはフェイス様だ。彼女は今、初めての戦場に緊張しているというのもあるのだろう、メレディス達の背後に庇われたままだが真っすぐにウォルターを見据えている。
微かに振るえており、手に持った魔導書を強く握りしめているのか指先が白くなっている。
「しかも面白い奴まで混ざっているときた。これは退屈せずに済みそうだ!」
槍を構えなおしたウォルターはフェイス様から一度視線を外すと、俺とアゲートのほうを見ながら笑い声をあげた。
アゲートのこの変装を見破るやつが居ても可笑しくはないと思ってはいたが、このタイミングでバレるのは拙いのではないだろうか。
原作でのオニキスとウォルターの関係は共闘しているとはいえ割とドライだったし、野心家の彼なら他国の騎士が裏で何かを企んでいると知ればそれに乗じて何かを仕掛けてくる可能性もある。一番心配されるのがシスル王国に対してのものだ。
オニキスの指示が届く範囲の兵の規模がどの程度なのかは正確に把握できていないが、リリエンソール渓谷に布陣している部隊や国境付近に布陣している部隊ともなるとそれなりの規模となる。
もしオニキスが謎の騎士アゲートとしてアイリス軍ひいてはローレッタ王族の護衛をしていると帝国にしれれば、シスル王国の立場は危うくなるだろう。
「寝込んでいるはずの貴様がなぜここに居るかは、あえて聞かずにおいてやろう。武器を構えろ。そして俺を愉しませるがいい!」
槍を持ち直したウォルターの駆る飛竜が勢いよく甲板へ向かい滑空してくる。
アゲートは銀の槍で攻撃を受け流しつつ、フェイス様が攻撃されないよう位置取りをした。
ウォルターはというと愉しそうに嗤いながら飛竜を駆り、檣頭見張台の上あたりまで飛び上がる。
距離が開いたところですかさずメレディスたちが魔法を放つもひらりとかわされてしまう。
船のマストが邪魔となり攻撃が当たりにくくなっているようで、特に炎魔法を得意とするものたちは引火させてしまう可能性を考慮してか慎重になっているようでもあった。
この距離だと水晶の剣よりも通常の剣で迎え撃ったほうが良いので、俺は武器を銀の剣に持ち替えると飛竜が降下してくるのを待つ。
水晶の剣でのサンダーは通常の雷とは違い避雷針などに吸い寄せられることはないのだが、相手の素早さなどを考慮すると水晶の剣では攻撃を受け流すことができないからだ。
剣と槍ではリーチの長い槍のほうが有利ではあるが、相手から仕掛けてくるというのであれば軌道を読み違えない限り受け流すことはできる。
再び降下してきた飛竜が咆哮をあげる。距離が近いせいもあって耳が割れそうなほどの轟音に思わず怯む。
さすがはマグノリア王の飛竜というだけあってか、迫力が今までに遭遇した飛竜とは比べ物にならない。
相手も俺がみせた僅かな隙を見逃すはずもなく愉悦を浮かべた笑みと共に槍を突き出してきた。
「ぐぅ……っ!?」
直撃こそ避けることはできたが、ウォルターの繰り出してきた槍は俺の脇腹を深く抉った。辺りに鮮血が散る。
竜騎士のような飛行系ユニットは一撃離脱が基本なので、今のように攻撃を受ける際にカウンターを仕掛けるのが近接戦闘では基本なのだが、さきほどの飛竜の咆哮による威嚇や武器の相性などもあってかなかなかうまくいかない。
間近にいた飛竜の羽ばたきで起こった強風で俺はそのまま船の淵まで吹き飛ばされ背中を強く叩き付けられた。
少しふらつきはするが立っていられないという状態ではないので剣を杖がわりにして立ち上がり、相手と味方の位置をそれぞれ確認する。
ウォルターが引き連れてきた竜騎士団は船首船尾のいたるところに獲りつき兵たちを蹂躙している。
縦横無尽に飛び回る竜騎士たちに掻きまわされ陣形も崩れているのか、通常は後衛である魔導士たちが直接対峙しているところも見られた。
「エリアス!?」
吹き飛ばされた俺を心配してかメレディスが叫ぶ。あぁ、そんな悲痛な顔をしないでくれ。
今の俺には君が泣いてしまっても慰めてあげられる余裕もなければ、原作のように君を選ぶことを放棄した俺にそんな資格はないんだ。
俺のことは満身創痍とみなしたのかウォルターは一瞥すら寄こさない。彼が見据えているのはフェイス様を庇うように立っているアゲートのほうだ。
いかな漆黒の聖騎士といえども戦闘経験のない姫君を護りながらでは戦いにくいのだろう。しかも今は船上という事も合わさって彼の愛馬は居ない。
「くっそぉ! さらに増援かよ!」
遠くに敵影を見つけたらしいロビンが叫んだ。少し霞む目でそれを確認する。
何という最悪の状況だろう。他の船もまだ戦闘は終わっていないだろうから味方の増援は期待できない。
せめてフェイス様だけでも逃がさなければと思うが、こちらには飛竜も天馬もいないのだ。船に積んである小型の船で逃がしたところで空を舞う竜騎士たちに狙い撃ちにされるだけ。お手上げ状態である。
「諦めてはなりません!」
そう声を上げながら魔導書を開くとフェイス様の指先から魔法陣が展開され、光り輝く砲弾がウォルターへと撃ち込まれる。目にも留まらぬ速さで放たれた閃光はウォルターの乗る飛竜の顔面に直撃した。
天馬と違い魔法への耐性が低い飛竜はこれに怯み戦線を離れようとしているのか、ウォルターが手綱を引いても操縦が上手くいかない状態のようだ。
「今だ! 打ち取れ!」
竜騎士団の長でもあるマグノリア王ウォルターさえ倒すことができれば、この混戦状態の戦場も終わりが見える。
メレディスの叫びに呼応するように魔導士たちが一斉に攻撃を仕掛けた。
「ちっ……潮時か」
ウォルターは小さく呟くと片手をあげマグノリア軍に合図を出しながら飛竜を上昇させた。
高度を上げられると逃げられてしまう。そう思い俺は水晶の剣に持ち替えようとするが、先ほどのダメージが思ったよりも響いているのか銀の剣に比べればはるかに軽いはずの水晶の剣を掲げることができなかった。
他の者たちの魔法攻撃も、落ち着きを取り戻し始めたウォルターの飛竜と、マグノリア兵たちが盾となり王を護ったことにより、俺たちはウォルターの撤退をみすみす認めることとなってしまった。
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