翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

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第一部

第五十二話 帰還

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 俺たちが王都に戻ると、向こうも丁度帰ってきたところなのかマーリンが先に戻っていたメテオライトと話をしていた。両脇にはヘリオドールとジェイドがいるので、おそらく彼らが同行していたのだろう。聖騎士パラディンのジェイドは真面目で熱血気味、魔導騎士マギナイトであるヘリオドールはシスル騎士ではノリが軽いほうだが根が真面目という二人だ。
 彼らの上官であるオニキスは男爵家の生まれなのだが、この二人のほうが家柄だけであれば上にあたるらしい。シスル王国の四騎士ではオブシディアンが一番家格が高かったはずだ。
 しかし家格で劣るオニキスが騎士団の要職についているという事は、それだけシスル王国軍では実力を重んじているという事なのだろう。

「おっ? もしやこの方が『翠緑の勇者』殿か!」
「ミシェル嬢、是非とも紹介してください!」

 主君であるメテオライトがマーリンと話し込んでいて暇を持て余しているのか、二人は戻って来た俺たちに気が付くとこちらへと近づいてくる。
 少々興奮気味に、つい先日まで行動を共にしていたミシェルに仲立ちを頼む様子を見る限り、彼女はシスル騎士たちと上手くやっていたようだ。

「はいはい。オブシディアン様がいないからって、あまりはしゃがないでくださいまし」
「申し訳ありません」
「え~、俺らもオニキス将軍みたいにエリアス殿と仲良くしたいんですけど」
「こらっ! さすがに失礼だぞ!」

 二人を軽く宥めつつもミシェルは小さく笑う。
 頭を下げたジェイドに対しヘリオドールは相変わらずの佇まいで俺のほうを見てきていたのだが、気付いたジェイドに勢いよく頭を掴まれると首が折れるのではないかと心配になる勢いで最敬礼越えのお辞儀をさせられた。

「……エリアス殿、俺はシスル王国の魔導騎士ヘリオドールです。んで、こっちの口煩いのがジェイド」
「お前は一言余計だ! エリアス殿、こちらのバカが失礼しました。聖騎士のジェイドと申します、以後お見知りおきを」
「よろしく頼む。ただ、堅苦しいのは苦手だからヘリオドール殿もジェイド殿も普通に話してくれないか?」
「俺も堅苦しいのは嫌なんで、そいつは有り難い! それじゃあ今後ともよろしく」
「ありがとうございます。ヘリオドールは最低限の礼儀を忘れるんじゃないぞ!」

 原作でも堅物であるオブシディアンに比べると、この二人は比較的緩めというかドツキ漫才をする程度に仲がいい。しかしいつまでも見ていられるほど面白いやり取りという訳でもないので、適当なところで切り上げてくれるのが一番だ。

「ほらほら。ヘリオドールもジェイドも遊んでないで会議室まで戻るよ?」
「はい」「は~い」
「それでマーリン様。神氷のことなんですけどね」
「神氷……? ああ、ブリュンヒルドのことか」
「そうそう、神氷ブリュンヒルドはミシェルに使わせる方向で話が決まると思うんですよ。でも神雷って神炎と一緒で回収したはいいけど、使用者決まってないじゃないですか。誰になると思います?」

 話がひと段落ついたのか、メテオライトは俺たちのほうにやってくると騎士たちの雑談を止め会議室へと移動を促す。そのまま話の続きなのか俺たちが先程回収してきた神器の話題になる。
 神氷ブリュンヒルドは間違いなくミシェルが使用することになるだろう。しかし神炎フリストと神雷スルーズは使用できるものが定かでない。

「さて……私はまだ、この軍のものたちの実力を把握できていないからな。ラーグは既に別の神器と契約済みであるから神雷を使えぬし、神炎は特に目ぼしいものが居なければ私が使わせてもらうことになるだろう」
「マーリン様って、専攻は炎魔法と氷魔法でしたっけ」
「そういうお前は風魔法と氷魔法だったか?」

 月虹のレギンレイヴが生み出した神器はゲームでは武器熟練度が足りれば誰でも使用可能だったのだが、さすがに現実的に考えてこの世界ではその神器との契約が必要になるらしく、期間が終了するまでは他の者が使用できない仕様となるらしい。
 しかし古の魔女は、なんで自分の弟子たちに管理している神器の属性を必修で学ばせなかったのだろうか?
 原作ゲームではメイン属性が雷だったのに、後継者に選ばれないとかいう目にあっている魔女キルケが哀れでならない。

「僕もフィンブル貰いたかったなぁ……」

 メテオライトはちらちらとミシェルのほうを見ながら、この世界では希少である氷魔法の魔導書フィンブルを物欲しそうにしている。どうやらマーリンが貰っていることを知っているようで、ブリザードよりも威力の高いその魔導書を欲しているようだ。
 俺も魔法が使えたらお揃いの魔導書で出撃とかやってみたいが、残念ながら魔力は増えても魔導の才能がない俺では魔導書など持っていたところで荷物欄を圧迫するだけである。要するに荷物持ち。

「あら、ブリュンヒルドは私が使ってしまってよろしいのかしら?」
「それはリリエンソール公爵家が管理してたんだから問題ないよ。なんでマーリン様が管理を受け継ぐのが解ってた雷魔法に手を出さなかったのか聞きたかっただけだし」

 少し悪戯っぽい笑みを浮かべながらミシェルはメテオライトを揶揄う。良いも何も神氷は間違いなくミシェル専用といってもいいだろう。

「タイミングの問題だな。私が賢者と呼ばれるようになったのがミシェルと出会った頃、フィンブルの開発研究に付き合い始めた辺りだからだ」
「さいですか。……まさか消去法だったなんて」

 俺たちは前世の知識でフィンブルという魔法の存在を知っていたが、完璧にこの世界の存在であるマーリンが術の製作にかかわっていたのか。
 原作だと魔導士メイジから賢者セージへの昇格時に任意の属性から一つを選ぶ形となっていたのだが、研究中に氷魔法の武器熟練度が上がってしまった感じなのだろうか。たぶん他シリーズで登場したフィンブルの情報を加味すると、この世界でも上級魔法扱いなはずだ。
 そういえばミシェルって異名である『氷の魔女』が有名過ぎてもう一つの魔法属性は何なのだろう? ちょうどいい機会だし聞いておこうか。

「そういえばミシェルって氷魔法と、もう一つはどの属性を扱っているんだ?」
「神聖魔法を少々。嗜む程度に」
「神聖魔法って……いや、リリエンソール公爵家ならいけるのか?」
「フェイス様と一緒にお稽古がしたかったから気合で頑張ったわ。中級魔法レイまではギリギリ使えて、上級魔法シャインは使えませんでしたけど」

 雷魔法だったら俺の水晶の剣とお揃いになるかもな~、って思っていたけど流石にそんなことは無かったようで、予想外ともいえる属性が帰ってくる。
 神聖魔法は聖王家の血を引く巫術師シャーマンにしか使用できない。というのが原作ゲームにおける設定だ。もちろん巫術師シャーマンはフェイス様専用の兵種でもある。
 しかしミシェルのリリエンソール公爵家は聖王家の血を引いているので、学べば使えるようになるそうだ。まあ、ミシェルのフェイス様大好き補正もあるんだろう。中級が使えて上級が使えないという事は、武器熟練度の上限が神聖魔法Bになっているんだろうな。

 俺たちはそのまま話をしつつ通路を進んでいき、モンタギュー殿が待つ参謀府の執務室へと足を踏み入れた。
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