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第一部おまけ
オニキス03.謎の騎士アゲート
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※24話の少し前
魔法系の神器の使用者候補として目をつけていたミシェルが仲間になり、それなりの日数が経過した。
リリエンソール渓谷ではミシェルを人質に取ることで、モンタギュー殿も生け捕りにすることが出来た。幾ら親子とはいえリリエンソール家の人間がそんな手に乗ってくれるか心配であったが、ミシェル曰く『お父様は娘が可愛くて仕方がありませんの』だそうだ。
彼女たち父子にはその後しばらくの間は窮屈な思いをして貰うこととなったが、色々と根回しをしてくれたオブシディアンのお陰で現在は私の部下ということになっている。
私という人間の原作ゲーム通りの目的の一つは、聖王国の腐敗の断絶だ。そして今回の戦で聖王国腐敗の一因である聖王や、役人たちを処刑に持ち込むことが出来たのは問題なかった。
しかし聖騎士団の長まで殺すことになったのは惜しいことをした。一度だけ刃を交えたがその実力は他の騎士たちとは比べ物にならず、聖王国で燻ぶらせておくには勿体ない逸材だった。だが完全に心を折ってしまった手前、再起不能な騎士をふたたび戦場へ引きずり出すのは不可能といえる。
「あのお方とはその後、如何ですかな?」
「今のところは先方からの返事を待っているばかりです」
ミシェルを捕らえたと聞きつけた派閥の仲間には勿論だが理由を問われた。その際にメテオライト王子の行方の手がかりをつかんだ旨を伝えると、以降はこういったやり取りが増えた。派閥の人間は騎士以外にも司祭や貴族にもいるので、情報を出す相手はさらに厳選している。
それにしてもミシェルが長年探し続けていたメテオライト王子との連絡役になってくれるのは嬉しい誤算であった。だがメテオライト王子は表舞台に立つには、まだ準備不足であることを理由に私たちには会って下さらない。彼女を疑っているわけではないが、いい加減ご本人と直接お話がしたいものだ。
メテオライト王子が国外追放されて今年で十六年になる。あの事件はメテオライト王子を次期国王に据えようとする派閥と、今や帝国に人質として出されているティモシー王子の派閥の政争が原因だった。
私が前世の記憶を取り戻したのは、メテオライト王子がシスル王国から出て行った僅か数か月後だ。
当時まだ十一歳になったばかりの私に出来ることなど些細なことしかない。まず最初はひたすら鍛錬に励み、肉体を鍛え上げた。次に『竜族を倒せるくらい強くなる』と公言し、軍略なども頭に叩き込んだ。
人間関係も従騎士として私を預かってくれた先輩騎士に『有望な見習いが居る』と触れまわってもらうくらいしかなかったので、目をかけてもらうのに必死だったと思う。この先輩騎士こそがオブシディアンなのだが、そのおかげで亡き王妃様の実家であるラナンキュラス侯爵家とのコネクションが手に入ったのだ。
そこからは連鎖するようにメテオライト王子を囲っていた派閥の者たちが集まってきた。この派閥は古きよきシスル王国の風習を良しとする集団である。
シスル王国の初代国王であるカーネリアンの名に倣い鉱石の名を付けた勇敢で逞しい騎士の育成、そして聖王国の守護者であることを目的とする。メテオライト王子は小柄なために剣や槍を取って戦うのは無理だと言われていたそうだが、それを埋めるように魔導の勉強に熱心だったので評判が良かった。少なくとも戦場を怖がり碌に武芸の稽古もしていないティモシー王子に比べれば、その評価は雲泥の差だ。
周囲に密偵の気配がないか警戒しながら派閥の仲間と話を続け、陽が沈みかけてきたころ。リワープの杖が使えるという事で、メテオライト王子への手紙の配達をお願いしているミシェルが帰ってきた。
「ただいま戻りました」
「お疲れ様です」
ミシェルにはこれまでに数度、秘密裏にメテオライト王子への手紙の配達を頼んでいた。快く引き受けてくれた彼女を労う意味も込めて、私はハーブティと茶菓子を差しだす。
このハーブティーはシスル原産のハーブを複数ブレンドしたものだ。少し薬草臭さはあるのだが身体を温める効果があるからか、冷え性らしい彼女には気に入って貰えているようだ。
「オニキス様にお土産です。テオ直筆の手紙と仮面ですわね」
「仮面……ですか?」
「変装用ではなくて? いつ使うのかは存じませんけど」
何かの暗号文かもしれないと、まずは仮面を見聞することにした私が抱いた印象は『仮面舞踏会など華やかな場で使われていそう』というものだ。
シスル王国では武功を褒めたり戦地に向かうものたちへの労いもかねて、それなりに夜会が開かれている。しかし仮面舞踏会が開催されたなどという話は、今までに一度も聞いたことがないので需要はなさそうだ。
ならばメテオライト王子はどのような意図を持ってして、この仮面をミシェルに託したのであろうか?
疑問の答えは手紙に書かれているかと思い封を切るも、中に書かれていたのは短い文章ともいえないものであった。
「『アゲートくんの仮面』……アゲートとはいったい誰でしょうか? 我が軍にも派閥にも、そのような名の者は居ないはずですが」
「鉱石の名前ですからシスル騎士かと思ったのですけれど、違いましたのね。……もしかして変装時の偽名にでも使えという事かしら?」
私たちは揃って首を傾げる。派閥の仲間も仮面の装飾などを観察し、なにか秘密の暗号を探しているようだが発見はないらしい。
「メテオライト様は、なにも仰られなかったのですか?」
「訪ねて行ったらお師匠様と二人で魔装具作りに没頭していて、碌に相手にされませんでしたの。この手紙と仮面をオニキス様に渡すようにとしか」
だとしたら本当にただの変装用か。魔装具というと魔導士たちが身に着けている装飾品だ。防具でもあり魔力効率を高める効果があると聞いているので、戻ってくるために新しく作っているのか準備に忙しいのだろう。
ゲームの設定資料集やスマホゲームの吟遊詩人としての立ち絵を見た限りだと、エスニックな雰囲気の腕輪や首飾りがたぶんそうなのだろう。しかし一国の王子という雰囲気ではない、カジュアルなデザインのものだった。
「ふむ……。我が軍はローレッタ攻略の手柄があるぶん、暫く時間が取れます。ミシェル嬢の依頼に関しては私が実行いたしましょう」
「なるほど、オニキス様が謎の騎士アゲートになりますのね。では私はどなたと行動すればよろしいかしら?」
「貴女のことはオブシディアン将軍に預けさせていただきます。私とは鳥を使ってやり取りをすることになるでしょうが、殆どのことは彼の判断に任せますので従ってください」
「解りました。オブシディアンさまの指揮下という事は、お父様も一緒ですわね。安心しました」
今のローレッタ聖王国は王都をはじめとした大半の地域が帝国の支配下にある。その中でもリリエンソール公爵領と王都アヴァロンを陥落させたシスル王国軍の功績は大きい。
だが私のしたことは聖王国の民に恨まれても仕方のないことだ。いずれ誹りを受けることがあれば喜んで受け入れよう。その為にも私はミシェルを利用しているだけの男である必要がある。あまり仲良くしているのを見られるのは好ましくない。この点に関してはオブシディアンにもすでに相談済みだ。対応に関しても彼の判断に任せてある。
「ええ、それで……」
「私はオブシディアン様たちと共に、オニキス様の不在を誤魔化せばよろしいのでしょう?」
「はい。よろしくお願いします」
「こちらこそ、フェイス様を頼みます」
「命に代えてもお守りいたしましょう」
しかし誤魔化しが効くのは、せいぜい数ヶ月が限界だろう。リリエンソール家とオブシディアンが手を組んでいる分だけ、通常より少し長くなる程度とみていい。どのような手を使うかは現場の判断に任せることとなるが、任せてしまっても問題ない相手だ。
「ところで一筆お願いできますか? 身分を隠し接近するという時点で周囲から怪しまれてしまいそうでして」
「それもそうですわね。フェイス様宛にお手紙をしたためますので、少々お待ちになって下さいな」
「ではその間に旅支度を整えてまいります」
変装は仮面があれば素顔が隠せるのでいいとして、問題は持ち物だ。一介の兵として行軍に混ざるには、いろいろと必要なのである。武器と傷薬などは支給されることもあるが、飛び込みで腕を売り込むなら自前が基本だ。食事は軍が確保して供給してくれるが、食器は自前で持ち歩く必要がある。
それから旅人と名乗って合流するつもりであるので、その身分を疑われないような持ち物は必須条件だろう。ならば鍋も一つくらい持っていったほうが良いか。他にも何かと入り用になるかもしれないが、情勢的に手に入り辛いものは優先的に準備しておく。
フェイス王女の護衛として合流するのが目当てだが、グレアム王子が健在なのであれば彼に忠節を示すのも忘れてはならないだろう。ならば騎士の誓いにおいて儀礼的に使うこととなる未使用の銀の剣も必要になるだろう。なかなか値段の張る武器ではあるが、準備して布で包み荷物に入れる。
支度が整いミシェルのもとに向かう。丁度彼女も手紙を書き終わったようで、それなりの厚さがある封筒を渡された。宛名と差出人に書かれた文字は、なかなかに個性的だ。
「随分とたくさん書かれたのですね?」
「これでも足りないくらいです」
そのままミシェルはワープの杖を構えた。ワープの杖で転送できる距離は平均して、馬を走らせて三日ほどの距離までだ。魔力の高い彼女であればもう少し距離も伸びる。なので一先ずは海沿いの地域へと飛ぶ。
その後はリワープの杖で追いかけてくるミシェルを待ちながら、距離を調整しつつアイリス島を目指した。現在どこに居るのか判らない相手を下手にローレッタ国内で追いかけるより、目的地であるアイリス王国、ないしは中継地でもあるアイリス島の北部ハイドランジア王国で待つほうが建設的であると判断してだ。
数度の転送を繰り返し最後の転送となった。場所はローレッタ大陸の南西に位置するアイリス島――その北東にあるハイドランジア王国はコナハト港と森の中間地点辺りだ。目的の人物は港で情報収集をしながら探すことができるだろう。彼らが出発してからの時間を考慮すると、辿り着いているかギリギリくらいの時期だ。
なるべく目立たないように港町で情報収集をしていると知った者の名が出てきた。傭兵のベルトラムの名だ。この辺りは傭兵が集まる街が近いのもあり、同業者のあいだでは有名人なのでそれなりに目立つようだ。ミシェルの話によれば彼もフェイス王女が居る一団にいるので間違いないだろう。私は仮面で素顔を隠すと、彼らの向かった方角を目指し馬を走らせた。
魔法系の神器の使用者候補として目をつけていたミシェルが仲間になり、それなりの日数が経過した。
リリエンソール渓谷ではミシェルを人質に取ることで、モンタギュー殿も生け捕りにすることが出来た。幾ら親子とはいえリリエンソール家の人間がそんな手に乗ってくれるか心配であったが、ミシェル曰く『お父様は娘が可愛くて仕方がありませんの』だそうだ。
彼女たち父子にはその後しばらくの間は窮屈な思いをして貰うこととなったが、色々と根回しをしてくれたオブシディアンのお陰で現在は私の部下ということになっている。
私という人間の原作ゲーム通りの目的の一つは、聖王国の腐敗の断絶だ。そして今回の戦で聖王国腐敗の一因である聖王や、役人たちを処刑に持ち込むことが出来たのは問題なかった。
しかし聖騎士団の長まで殺すことになったのは惜しいことをした。一度だけ刃を交えたがその実力は他の騎士たちとは比べ物にならず、聖王国で燻ぶらせておくには勿体ない逸材だった。だが完全に心を折ってしまった手前、再起不能な騎士をふたたび戦場へ引きずり出すのは不可能といえる。
「あのお方とはその後、如何ですかな?」
「今のところは先方からの返事を待っているばかりです」
ミシェルを捕らえたと聞きつけた派閥の仲間には勿論だが理由を問われた。その際にメテオライト王子の行方の手がかりをつかんだ旨を伝えると、以降はこういったやり取りが増えた。派閥の人間は騎士以外にも司祭や貴族にもいるので、情報を出す相手はさらに厳選している。
それにしてもミシェルが長年探し続けていたメテオライト王子との連絡役になってくれるのは嬉しい誤算であった。だがメテオライト王子は表舞台に立つには、まだ準備不足であることを理由に私たちには会って下さらない。彼女を疑っているわけではないが、いい加減ご本人と直接お話がしたいものだ。
メテオライト王子が国外追放されて今年で十六年になる。あの事件はメテオライト王子を次期国王に据えようとする派閥と、今や帝国に人質として出されているティモシー王子の派閥の政争が原因だった。
私が前世の記憶を取り戻したのは、メテオライト王子がシスル王国から出て行った僅か数か月後だ。
当時まだ十一歳になったばかりの私に出来ることなど些細なことしかない。まず最初はひたすら鍛錬に励み、肉体を鍛え上げた。次に『竜族を倒せるくらい強くなる』と公言し、軍略なども頭に叩き込んだ。
人間関係も従騎士として私を預かってくれた先輩騎士に『有望な見習いが居る』と触れまわってもらうくらいしかなかったので、目をかけてもらうのに必死だったと思う。この先輩騎士こそがオブシディアンなのだが、そのおかげで亡き王妃様の実家であるラナンキュラス侯爵家とのコネクションが手に入ったのだ。
そこからは連鎖するようにメテオライト王子を囲っていた派閥の者たちが集まってきた。この派閥は古きよきシスル王国の風習を良しとする集団である。
シスル王国の初代国王であるカーネリアンの名に倣い鉱石の名を付けた勇敢で逞しい騎士の育成、そして聖王国の守護者であることを目的とする。メテオライト王子は小柄なために剣や槍を取って戦うのは無理だと言われていたそうだが、それを埋めるように魔導の勉強に熱心だったので評判が良かった。少なくとも戦場を怖がり碌に武芸の稽古もしていないティモシー王子に比べれば、その評価は雲泥の差だ。
周囲に密偵の気配がないか警戒しながら派閥の仲間と話を続け、陽が沈みかけてきたころ。リワープの杖が使えるという事で、メテオライト王子への手紙の配達をお願いしているミシェルが帰ってきた。
「ただいま戻りました」
「お疲れ様です」
ミシェルにはこれまでに数度、秘密裏にメテオライト王子への手紙の配達を頼んでいた。快く引き受けてくれた彼女を労う意味も込めて、私はハーブティと茶菓子を差しだす。
このハーブティーはシスル原産のハーブを複数ブレンドしたものだ。少し薬草臭さはあるのだが身体を温める効果があるからか、冷え性らしい彼女には気に入って貰えているようだ。
「オニキス様にお土産です。テオ直筆の手紙と仮面ですわね」
「仮面……ですか?」
「変装用ではなくて? いつ使うのかは存じませんけど」
何かの暗号文かもしれないと、まずは仮面を見聞することにした私が抱いた印象は『仮面舞踏会など華やかな場で使われていそう』というものだ。
シスル王国では武功を褒めたり戦地に向かうものたちへの労いもかねて、それなりに夜会が開かれている。しかし仮面舞踏会が開催されたなどという話は、今までに一度も聞いたことがないので需要はなさそうだ。
ならばメテオライト王子はどのような意図を持ってして、この仮面をミシェルに託したのであろうか?
疑問の答えは手紙に書かれているかと思い封を切るも、中に書かれていたのは短い文章ともいえないものであった。
「『アゲートくんの仮面』……アゲートとはいったい誰でしょうか? 我が軍にも派閥にも、そのような名の者は居ないはずですが」
「鉱石の名前ですからシスル騎士かと思ったのですけれど、違いましたのね。……もしかして変装時の偽名にでも使えという事かしら?」
私たちは揃って首を傾げる。派閥の仲間も仮面の装飾などを観察し、なにか秘密の暗号を探しているようだが発見はないらしい。
「メテオライト様は、なにも仰られなかったのですか?」
「訪ねて行ったらお師匠様と二人で魔装具作りに没頭していて、碌に相手にされませんでしたの。この手紙と仮面をオニキス様に渡すようにとしか」
だとしたら本当にただの変装用か。魔装具というと魔導士たちが身に着けている装飾品だ。防具でもあり魔力効率を高める効果があると聞いているので、戻ってくるために新しく作っているのか準備に忙しいのだろう。
ゲームの設定資料集やスマホゲームの吟遊詩人としての立ち絵を見た限りだと、エスニックな雰囲気の腕輪や首飾りがたぶんそうなのだろう。しかし一国の王子という雰囲気ではない、カジュアルなデザインのものだった。
「ふむ……。我が軍はローレッタ攻略の手柄があるぶん、暫く時間が取れます。ミシェル嬢の依頼に関しては私が実行いたしましょう」
「なるほど、オニキス様が謎の騎士アゲートになりますのね。では私はどなたと行動すればよろしいかしら?」
「貴女のことはオブシディアン将軍に預けさせていただきます。私とは鳥を使ってやり取りをすることになるでしょうが、殆どのことは彼の判断に任せますので従ってください」
「解りました。オブシディアンさまの指揮下という事は、お父様も一緒ですわね。安心しました」
今のローレッタ聖王国は王都をはじめとした大半の地域が帝国の支配下にある。その中でもリリエンソール公爵領と王都アヴァロンを陥落させたシスル王国軍の功績は大きい。
だが私のしたことは聖王国の民に恨まれても仕方のないことだ。いずれ誹りを受けることがあれば喜んで受け入れよう。その為にも私はミシェルを利用しているだけの男である必要がある。あまり仲良くしているのを見られるのは好ましくない。この点に関してはオブシディアンにもすでに相談済みだ。対応に関しても彼の判断に任せてある。
「ええ、それで……」
「私はオブシディアン様たちと共に、オニキス様の不在を誤魔化せばよろしいのでしょう?」
「はい。よろしくお願いします」
「こちらこそ、フェイス様を頼みます」
「命に代えてもお守りいたしましょう」
しかし誤魔化しが効くのは、せいぜい数ヶ月が限界だろう。リリエンソール家とオブシディアンが手を組んでいる分だけ、通常より少し長くなる程度とみていい。どのような手を使うかは現場の判断に任せることとなるが、任せてしまっても問題ない相手だ。
「ところで一筆お願いできますか? 身分を隠し接近するという時点で周囲から怪しまれてしまいそうでして」
「それもそうですわね。フェイス様宛にお手紙をしたためますので、少々お待ちになって下さいな」
「ではその間に旅支度を整えてまいります」
変装は仮面があれば素顔が隠せるのでいいとして、問題は持ち物だ。一介の兵として行軍に混ざるには、いろいろと必要なのである。武器と傷薬などは支給されることもあるが、飛び込みで腕を売り込むなら自前が基本だ。食事は軍が確保して供給してくれるが、食器は自前で持ち歩く必要がある。
それから旅人と名乗って合流するつもりであるので、その身分を疑われないような持ち物は必須条件だろう。ならば鍋も一つくらい持っていったほうが良いか。他にも何かと入り用になるかもしれないが、情勢的に手に入り辛いものは優先的に準備しておく。
フェイス王女の護衛として合流するのが目当てだが、グレアム王子が健在なのであれば彼に忠節を示すのも忘れてはならないだろう。ならば騎士の誓いにおいて儀礼的に使うこととなる未使用の銀の剣も必要になるだろう。なかなか値段の張る武器ではあるが、準備して布で包み荷物に入れる。
支度が整いミシェルのもとに向かう。丁度彼女も手紙を書き終わったようで、それなりの厚さがある封筒を渡された。宛名と差出人に書かれた文字は、なかなかに個性的だ。
「随分とたくさん書かれたのですね?」
「これでも足りないくらいです」
そのままミシェルはワープの杖を構えた。ワープの杖で転送できる距離は平均して、馬を走らせて三日ほどの距離までだ。魔力の高い彼女であればもう少し距離も伸びる。なので一先ずは海沿いの地域へと飛ぶ。
その後はリワープの杖で追いかけてくるミシェルを待ちながら、距離を調整しつつアイリス島を目指した。現在どこに居るのか判らない相手を下手にローレッタ国内で追いかけるより、目的地であるアイリス王国、ないしは中継地でもあるアイリス島の北部ハイドランジア王国で待つほうが建設的であると判断してだ。
数度の転送を繰り返し最後の転送となった。場所はローレッタ大陸の南西に位置するアイリス島――その北東にあるハイドランジア王国はコナハト港と森の中間地点辺りだ。目的の人物は港で情報収集をしながら探すことができるだろう。彼らが出発してからの時間を考慮すると、辿り着いているかギリギリくらいの時期だ。
なるべく目立たないように港町で情報収集をしていると知った者の名が出てきた。傭兵のベルトラムの名だ。この辺りは傭兵が集まる街が近いのもあり、同業者のあいだでは有名人なのでそれなりに目立つようだ。ミシェルの話によれば彼もフェイス王女が居る一団にいるので間違いないだろう。私は仮面で素顔を隠すと、彼らの向かった方角を目指し馬を走らせた。
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