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第二部
第04話 ガチャチケットじゃなく召喚の札です
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俺の初任務の成功祝いと歓迎会という名目で、昨夜は遅くまで遊び相手に飢えていたという氷の貴公子と酒盛りをしていた。そのせいなのか酷くだるい。
しかし俺たちは、いつ年代記の攻略に呼ばれるかわからない。場合によっては急を要する案件も起こりうるだろう――なので薬湯でも貰ってこよう。そう思い立ち医務室に向かおうと歩いていると、途中の広場でタマキが片手を高らかに上げているのが見えた。
マスコットキャラクターが走り去っていくのが見えたので、ログインボーナスで何か貰ったのだろう。周囲には歳が近いからだろうか、普段から仲良くしているらしい魔導士の少女も一緒だ。
「召喚の札が手に入ったので、単発ですが儀式を執り行います!」
タマキが掲げている召喚の札というのは、コンビニで買える電子マネーカードのこと……ではなく、所謂ガチャ用チケットのことだ。主な課金箇所なので、ここで公式に貢ぐことができる。
この召喚の札を祭壇に捧げると年代記からランダムに召喚できる。とはいえ、全く同じキャラクターは限界突破くらいしか出来ることは無いし、上限までいけば超過分は強化素材などに変換するしかない。
しかしこのガチャの怖ろしいところは、武器やアイテムまで吐き出すところだ。これは前世で身をもって知っている。
新キャラが実装されると毎回のようにSNSには、十連回して『全て傷薬と青銅の剣や鉄の槍だった』とか『歴代の老騎士たちしか出てこない弊セフィロトは、もはや老人ホームなのでは?』など笑えない事案が多数報告されるのだ。
「星4さん、星5さん。おいで下さいませ」
アナベル隊長のようにフレーバーで所持している鑑定などを除いた場合、各キャラクターたちが持つスキル数は星の数字と同じだけだ。なので☆4以上が欲しいのは無理もない。
俺としては正直いって誰が召喚されてもいいと思っている。儀式が終わるまで適当に掲示板でも眺めていようと目をやったところで、ある一文とイラストに目が留まった。
見出しとして目立つように書かれた『エイプリルフールガチャ開催中!』と『☆5ピックアップ』の文字と共に、ミシェル他三名の名前が添えられたイラストが掲示されていた。何故か四人とも性別が原作と逆の状態でだ。ミシェルに関しては、それはもう見慣れた姿である。
十円玉を動かせそうな呪文で呼び出されるとは思っても居ないであろう英雄が召喚されたようだ。辺りはまばゆい光と冷気に包まれる。今しがた祭壇から湧き出た冷気。これは誰が召喚されたか解ってしまったかもしれない。間違いなくこっちの世界のミシェルだ。
この世界の問題が片付くまでは彼女に会えないかもしれないと思っていたが、この冷気は間違いなく彼女のものだ。石版が光る演出も☆5確定の光りかただったし間違いない。
「私はローレッタ聖王国の魔導兵団長ミシェル。いきなりこのようなところに呼び出すなんて、随分と良い度胸をしておりますわね?」
「星5氷魔きたー!」
目当てのキャラが引けて嬉しいのか、タマキは身体をのけぞらせる勢いでガッツポーズを取り叫んでいる。もう一つのほうの月虹勢は召喚されたミシェルの姿と発言に驚いているようだ。俺はもう見慣れたけど、やっぱり最初は驚くようだ。
そしてやっぱりミシェルの豊満な胸に目が行く奴は一定数いるようで、女好きがナンパ目当てにふらふらと近づいていこうとしていたので首根っこを掴んで後ろへ放り投げる。やっぱりもう少し胸元が隠れる服を着るようお願いするしかない。
「まあ、エリアス。貴方まで居なくなったと思っていたら、このような所に居ましたの」
「うん。ごめん」
「過ぎてしまったことは仕方がありません。それより私の研究ノートが何処かへ行ってしまったみたいですの。探すのを手伝ってくださいまし」
「研究ノートって、いつも待ち歩いているあの手帳か?」
「ええ、そうです。あれには大事なメモが挟まっておりますの」
研究ノートとなると未発表の論文の一部なども混ざっているのだろう。しかしリコレクションズのシステム的に、そういった物品は好感度アイテムになってしまっている可能性が高い。しかし、それであれば本人に所縁あるマップのランダムドロップで手に入るはずだ。
「ほう……こちらの女性がお前のところの俺か。確かに美人だな」
ミシェルと話していると割って入るようにして、氷の貴公子がやって来た。昨晩の酒の席では、惚気ついでに彼女の美しさを沢山語らせて貰ってある。そこそこ酔っていたから『ミシェルかわいい』しか喋らないBotと化していたかもしれないが、実際にミシェルはかわいいのだから仕方が無い。
「何を仰っているのかしら? フェイス様のほうが美人に決まっているでしょう?」
「そうだな。フェイス様の次に美しい」
「それで私に何かご用かしら? でしたら先ずはお名前から教えてくださる?」
「おっと、これは失礼。俺はミシェル、君とは異なる世界線のローレッタ大陸から来た……まあ、君が男に生まれた場合だと思ってくれれば良い」
「まあ、そうでしたの。それで私に何か?」
「いや、エリアスが惚れた女だというから見てみたかっただけだ。こちらの世界では、見ているこちらが恥ずかしくなるくらいに何時までも新婚気分だから気になってな」
誰と、とはあえて言わなかったみたいだ。たぶん個人名を出すことで、こちらの人間関係を壊さないよう配慮してくれたのだろう。
氷の貴公子と呼ばれる彼がこのように気を遣ってくれるのは、数少ない友人であるエリアスと幼馴染みのメレディスくらいである。俺と彼の世界のエリアスは盛大に別人なのだが、友として認めてくれているようで嬉しい気分になる。
「なあ、ミシェル」
「なんですの?」「なんだ?」
「あっ、えっと女の子のほうのミシェル」
「紛らわしいですし呼び分けを決めてしまいましょう」
「同感だ。何か案はあるか?」
「私の正式な名称はミシェル・ルーナ・リリエンソールですけど、さすがに貴方もルーナでは無いでしょう?」
「確かにそうだな。俺のほうはミシェル・ラウルス・リリエンソールだから、君のことはルーナと呼ばせて貰うことにしよう」
「では私もラウルスと呼ばせていただきますわね」
ルーナとかラウルスだなんて初めて聞いた。勿論だが設定資料集にも載っていない。
しかし、そうだよな。普通に考えて貴族ならば、なんか長くて覚えにくい名前だったりするものだろう。
「へえ……初めて聞いたよ」
「私のルーナという名前は、お婆さまから頂いたものですのよ」
「うちの一族にはここ百年以内だけでもミシェルという名の者が五、六人は居たからな。分別するのに付ける名が存在する」
そのまま名前の解説を入れてくれる。なんでも王族や貴族が使用しているセカンドネームは、ローレッタの言語でも古いものを使用しているらしい。現代の言葉に直すとルーナは月で、ラウルスは月桂樹だそうだ。
同じ名前を一族で使いまわすことが多いので、なんとか二世とか三世と呼び分けるよりも一族の判別がしやすくなるらしい。確かにリリエンソール公爵家で面識のある人物たちだけでも、三人くらい同じ名前の人がいた筈だ。今までは役職名とかを付けて呼び分けしていたけど、あの人たちもそれぞれ違うセカンドネームを持っているのだろう。
「ミシェルという名前は、お父様に聞いたらちょっと綴りを変えるだけで男女使えるから便利だなんて仰っていたのよ。まあ……フェイス様には可愛らしいお名前って褒められましたけど」
「ああ、俺も同じように褒められた。挨拶が済むまでは女だと勘違いさせてしまったが、髪結い用の紐を賜ったぞ」
「まあ! もしかして白いリボンだったりします?」
「もしかして君も同じものを?」
「ええ! ええ! そうですとも! フェイス様に結っていただきました!」
フェイス様ガチ勢が二人揃っただけあり、共通の話題は多いようだ。いま話題に上がっている『白いリボン』は、リコレクションズにも実装されていた『氷の貴公子ミシェル』専用の好感度アイテムだ。前世では必死こいて関連マップである港町とか王都のマップを周回した記憶がある。なお前世では氷の貴公子の相手はフェイス様一択だったので、完全にコレクション目的だ。
「エリアスも俺のことはラウルスって呼べ」
「ああ、そのつもりだが……どうしたんだ?」
「お前がルーナの話をしているとき、ずっと『ミシェルかわいい』と言っていただろう。そのせいで近くに座っていた別大陸の戦士に、そういう趣味があるのかと勘違いされたんだ」
「えっ、ごめん」
俺にはベーコンがレタスしている趣味は無い。別に苦手というわけではないが、前世でも同人書きをしていた頃はもっぱらノーマルカップリング専門だった。主従モノは良いぞ。
「王子のほうのメテオライトさん、これから連戦に行くのでついてきて下さい!」
「今日はせめて物理壁を用意してくれるかい?」
「うちのセフィロトにシスル騎士は居ません」
「『水の心』で隣接する味方を毎ターン回復できるんだから『黒の睥睨』の効果は置いといてよ」
なんだか聞いたことの無いスキル名が飛び出してきた。これはメテオライトの兵種が別のものになったのだろうか?
リコレクションズでは移動タイプと武器の種類だけの分別だから、ぱっと見ではよく解らない。しかし『水の心』は、いま聞いたぶんからして『水の歌』を『奏でる』無しで使うための変形だと思う。
「壁役が居なくても兵種スキルの『闇より出』と奥義『魂の再来』で置き地雷になれるじゃないですか。『混沌より来たる』発動のためにも半分だけHP減らして立っててくださいよ」
「魔法はそこそこ受けられるけど、物理は本当に低いから! それに『魂の再来』も1マップ一度までだからね?」
しかしこの感じだとメテオライトはスキルが総入れ替えになっているな。聞いたことの無いスキル名ばかりだから、新規の兵種なんだろうか。いやそれより、奥義も含めてスキルが五つあるということはメテオライトは☆5なのか? しかも名前からして汎用奥義ではなく、専用奥義だ。
俺が前世で遊んでいた時期に辛うじて実装されていた吟遊詩人のメテオライトは☆4だったはずだ。まさか俺がまだ読ませてもらっていない漆黒時空のシスル王国ではメテオライトが猛威を振るっているのだろうか?
しかし話の流れからしてこの後はミシェルの育成だろう。リコレクションズだと魔導士系は攻撃の射程が2なので、近接攻撃に対しては反撃できない。なのでミシェル専用物理盾の俺としては、行かないというわけにはいかない。
「ミシェルの育成に向かうのなら俺がついて行った方が良いんじゃないか? 『翠緑の抱擁』でバフをつければ結構ステータス上がるぞ?」
「むむ~。それじゃあエリアスさんに女の子のミシェルさんの壁役をお任せします」
少し不満そうなタマキに首をかしげながら、俺たちは訓練マップを鬼のように周回することとなった。
しかし俺たちは、いつ年代記の攻略に呼ばれるかわからない。場合によっては急を要する案件も起こりうるだろう――なので薬湯でも貰ってこよう。そう思い立ち医務室に向かおうと歩いていると、途中の広場でタマキが片手を高らかに上げているのが見えた。
マスコットキャラクターが走り去っていくのが見えたので、ログインボーナスで何か貰ったのだろう。周囲には歳が近いからだろうか、普段から仲良くしているらしい魔導士の少女も一緒だ。
「召喚の札が手に入ったので、単発ですが儀式を執り行います!」
タマキが掲げている召喚の札というのは、コンビニで買える電子マネーカードのこと……ではなく、所謂ガチャ用チケットのことだ。主な課金箇所なので、ここで公式に貢ぐことができる。
この召喚の札を祭壇に捧げると年代記からランダムに召喚できる。とはいえ、全く同じキャラクターは限界突破くらいしか出来ることは無いし、上限までいけば超過分は強化素材などに変換するしかない。
しかしこのガチャの怖ろしいところは、武器やアイテムまで吐き出すところだ。これは前世で身をもって知っている。
新キャラが実装されると毎回のようにSNSには、十連回して『全て傷薬と青銅の剣や鉄の槍だった』とか『歴代の老騎士たちしか出てこない弊セフィロトは、もはや老人ホームなのでは?』など笑えない事案が多数報告されるのだ。
「星4さん、星5さん。おいで下さいませ」
アナベル隊長のようにフレーバーで所持している鑑定などを除いた場合、各キャラクターたちが持つスキル数は星の数字と同じだけだ。なので☆4以上が欲しいのは無理もない。
俺としては正直いって誰が召喚されてもいいと思っている。儀式が終わるまで適当に掲示板でも眺めていようと目をやったところで、ある一文とイラストに目が留まった。
見出しとして目立つように書かれた『エイプリルフールガチャ開催中!』と『☆5ピックアップ』の文字と共に、ミシェル他三名の名前が添えられたイラストが掲示されていた。何故か四人とも性別が原作と逆の状態でだ。ミシェルに関しては、それはもう見慣れた姿である。
十円玉を動かせそうな呪文で呼び出されるとは思っても居ないであろう英雄が召喚されたようだ。辺りはまばゆい光と冷気に包まれる。今しがた祭壇から湧き出た冷気。これは誰が召喚されたか解ってしまったかもしれない。間違いなくこっちの世界のミシェルだ。
この世界の問題が片付くまでは彼女に会えないかもしれないと思っていたが、この冷気は間違いなく彼女のものだ。石版が光る演出も☆5確定の光りかただったし間違いない。
「私はローレッタ聖王国の魔導兵団長ミシェル。いきなりこのようなところに呼び出すなんて、随分と良い度胸をしておりますわね?」
「星5氷魔きたー!」
目当てのキャラが引けて嬉しいのか、タマキは身体をのけぞらせる勢いでガッツポーズを取り叫んでいる。もう一つのほうの月虹勢は召喚されたミシェルの姿と発言に驚いているようだ。俺はもう見慣れたけど、やっぱり最初は驚くようだ。
そしてやっぱりミシェルの豊満な胸に目が行く奴は一定数いるようで、女好きがナンパ目当てにふらふらと近づいていこうとしていたので首根っこを掴んで後ろへ放り投げる。やっぱりもう少し胸元が隠れる服を着るようお願いするしかない。
「まあ、エリアス。貴方まで居なくなったと思っていたら、このような所に居ましたの」
「うん。ごめん」
「過ぎてしまったことは仕方がありません。それより私の研究ノートが何処かへ行ってしまったみたいですの。探すのを手伝ってくださいまし」
「研究ノートって、いつも待ち歩いているあの手帳か?」
「ええ、そうです。あれには大事なメモが挟まっておりますの」
研究ノートとなると未発表の論文の一部なども混ざっているのだろう。しかしリコレクションズのシステム的に、そういった物品は好感度アイテムになってしまっている可能性が高い。しかし、それであれば本人に所縁あるマップのランダムドロップで手に入るはずだ。
「ほう……こちらの女性がお前のところの俺か。確かに美人だな」
ミシェルと話していると割って入るようにして、氷の貴公子がやって来た。昨晩の酒の席では、惚気ついでに彼女の美しさを沢山語らせて貰ってある。そこそこ酔っていたから『ミシェルかわいい』しか喋らないBotと化していたかもしれないが、実際にミシェルはかわいいのだから仕方が無い。
「何を仰っているのかしら? フェイス様のほうが美人に決まっているでしょう?」
「そうだな。フェイス様の次に美しい」
「それで私に何かご用かしら? でしたら先ずはお名前から教えてくださる?」
「おっと、これは失礼。俺はミシェル、君とは異なる世界線のローレッタ大陸から来た……まあ、君が男に生まれた場合だと思ってくれれば良い」
「まあ、そうでしたの。それで私に何か?」
「いや、エリアスが惚れた女だというから見てみたかっただけだ。こちらの世界では、見ているこちらが恥ずかしくなるくらいに何時までも新婚気分だから気になってな」
誰と、とはあえて言わなかったみたいだ。たぶん個人名を出すことで、こちらの人間関係を壊さないよう配慮してくれたのだろう。
氷の貴公子と呼ばれる彼がこのように気を遣ってくれるのは、数少ない友人であるエリアスと幼馴染みのメレディスくらいである。俺と彼の世界のエリアスは盛大に別人なのだが、友として認めてくれているようで嬉しい気分になる。
「なあ、ミシェル」
「なんですの?」「なんだ?」
「あっ、えっと女の子のほうのミシェル」
「紛らわしいですし呼び分けを決めてしまいましょう」
「同感だ。何か案はあるか?」
「私の正式な名称はミシェル・ルーナ・リリエンソールですけど、さすがに貴方もルーナでは無いでしょう?」
「確かにそうだな。俺のほうはミシェル・ラウルス・リリエンソールだから、君のことはルーナと呼ばせて貰うことにしよう」
「では私もラウルスと呼ばせていただきますわね」
ルーナとかラウルスだなんて初めて聞いた。勿論だが設定資料集にも載っていない。
しかし、そうだよな。普通に考えて貴族ならば、なんか長くて覚えにくい名前だったりするものだろう。
「へえ……初めて聞いたよ」
「私のルーナという名前は、お婆さまから頂いたものですのよ」
「うちの一族にはここ百年以内だけでもミシェルという名の者が五、六人は居たからな。分別するのに付ける名が存在する」
そのまま名前の解説を入れてくれる。なんでも王族や貴族が使用しているセカンドネームは、ローレッタの言語でも古いものを使用しているらしい。現代の言葉に直すとルーナは月で、ラウルスは月桂樹だそうだ。
同じ名前を一族で使いまわすことが多いので、なんとか二世とか三世と呼び分けるよりも一族の判別がしやすくなるらしい。確かにリリエンソール公爵家で面識のある人物たちだけでも、三人くらい同じ名前の人がいた筈だ。今までは役職名とかを付けて呼び分けしていたけど、あの人たちもそれぞれ違うセカンドネームを持っているのだろう。
「ミシェルという名前は、お父様に聞いたらちょっと綴りを変えるだけで男女使えるから便利だなんて仰っていたのよ。まあ……フェイス様には可愛らしいお名前って褒められましたけど」
「ああ、俺も同じように褒められた。挨拶が済むまでは女だと勘違いさせてしまったが、髪結い用の紐を賜ったぞ」
「まあ! もしかして白いリボンだったりします?」
「もしかして君も同じものを?」
「ええ! ええ! そうですとも! フェイス様に結っていただきました!」
フェイス様ガチ勢が二人揃っただけあり、共通の話題は多いようだ。いま話題に上がっている『白いリボン』は、リコレクションズにも実装されていた『氷の貴公子ミシェル』専用の好感度アイテムだ。前世では必死こいて関連マップである港町とか王都のマップを周回した記憶がある。なお前世では氷の貴公子の相手はフェイス様一択だったので、完全にコレクション目的だ。
「エリアスも俺のことはラウルスって呼べ」
「ああ、そのつもりだが……どうしたんだ?」
「お前がルーナの話をしているとき、ずっと『ミシェルかわいい』と言っていただろう。そのせいで近くに座っていた別大陸の戦士に、そういう趣味があるのかと勘違いされたんだ」
「えっ、ごめん」
俺にはベーコンがレタスしている趣味は無い。別に苦手というわけではないが、前世でも同人書きをしていた頃はもっぱらノーマルカップリング専門だった。主従モノは良いぞ。
「王子のほうのメテオライトさん、これから連戦に行くのでついてきて下さい!」
「今日はせめて物理壁を用意してくれるかい?」
「うちのセフィロトにシスル騎士は居ません」
「『水の心』で隣接する味方を毎ターン回復できるんだから『黒の睥睨』の効果は置いといてよ」
なんだか聞いたことの無いスキル名が飛び出してきた。これはメテオライトの兵種が別のものになったのだろうか?
リコレクションズでは移動タイプと武器の種類だけの分別だから、ぱっと見ではよく解らない。しかし『水の心』は、いま聞いたぶんからして『水の歌』を『奏でる』無しで使うための変形だと思う。
「壁役が居なくても兵種スキルの『闇より出』と奥義『魂の再来』で置き地雷になれるじゃないですか。『混沌より来たる』発動のためにも半分だけHP減らして立っててくださいよ」
「魔法はそこそこ受けられるけど、物理は本当に低いから! それに『魂の再来』も1マップ一度までだからね?」
しかしこの感じだとメテオライトはスキルが総入れ替えになっているな。聞いたことの無いスキル名ばかりだから、新規の兵種なんだろうか。いやそれより、奥義も含めてスキルが五つあるということはメテオライトは☆5なのか? しかも名前からして汎用奥義ではなく、専用奥義だ。
俺が前世で遊んでいた時期に辛うじて実装されていた吟遊詩人のメテオライトは☆4だったはずだ。まさか俺がまだ読ませてもらっていない漆黒時空のシスル王国ではメテオライトが猛威を振るっているのだろうか?
しかし話の流れからしてこの後はミシェルの育成だろう。リコレクションズだと魔導士系は攻撃の射程が2なので、近接攻撃に対しては反撃できない。なのでミシェル専用物理盾の俺としては、行かないというわけにはいかない。
「ミシェルの育成に向かうのなら俺がついて行った方が良いんじゃないか? 『翠緑の抱擁』でバフをつければ結構ステータス上がるぞ?」
「むむ~。それじゃあエリアスさんに女の子のミシェルさんの壁役をお任せします」
少し不満そうなタマキに首をかしげながら、俺たちは訓練マップを鬼のように周回することとなった。
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