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第二部
第14話 邪悪の樹・中層4i
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今日の任務地である邪悪の樹の中層【4i.無感動】は闇の司祭アディシェスが支配する領域だ。
ここを含めて残り四層というだけあり敵として登場する英雄の虚構もバラエティ豊かである。
邪悪の樹内部では年代記のようにシリーズごとにつくステータス補正は無いのだが、階層ごとの番人である悪魔を倒すと各シリーズの主人公が配布としてもらえる仕組みとなっている。
今日の任地である4iでは【天空のレギンレイヴ】の主人公である英雄王ラルフが仲間になるのだ。主人公なので当然のごとくレアリティは☆5である。
「ここの奥にラルフが捕らわれているのか……」
険しい表情で進行方向を見据える騎士風の男の名はティル。【月蝕のレギンレイヴ】の主人公にして、前述したラルフの父親にあたる。
彼らの出典元の【月蝕のレギンレイヴ】と【天空のレギンレイヴ】は二部作である。月蝕のラストがバッドエンドだったのを引き継ぎ、その十五年後から物語が始まるのが天空だ。
自分が王族だと知らないラルフは世話役の騎士ボリスや沢山の仲間に支えられながら暗黒教団と戦い、奪われた王位と平和を取り戻すのが大筋である。
バッドエンドという事で原作では死亡することになるティルだが、当然のごとく成長した我が子の顔など想像もつかないようだ。現に話を聞いたばかりの時は『生まれて間もない赤子である我が子が悪魔に連れ去られた』と勘違いしていたほどである。
邪悪の樹は年代記と違い、侵入するまで敵の編成が判らない。しかし階層ごとに大まかにだが、編成の傾向だけは教えて貰える。4iは編成に魔導士系が多い場所だ。なので今回の出撃メンバーは魔法にある程度の耐性のある者と、スキルなどの効果で被ダメージを軽減できる者たちで編成されている。
「今日こそはこの階層を突破するんです!」
タマキの言う通りこの階層の攻略は今日が初めてではない。今までに七回ほど挑んでいるが、ランダム出現する敵が厭らしい性能をしている魔導士率が高くて積んでいたのだ。
ある日はマーリンから嫌がらせのごとくデバフを貰い、またある時はヘルメスから行動をキャンセルされたりと散々な目にあってきた。酷い時は固定であるアディシェスとフードの男以外が全員『公式チート枠』のキャラクターで埋まっていたりもしたので、今回でこそ終わらせたい。そんな雰囲気が漂う中での出撃だった。
苦戦しながらもこの階層を構成する5エリアのうち四つを突破したところで、最終エリアに足を踏み入れる。
打ち捨てられた廃墟のような場所も、かつては豪華なパーティーホールだったのだろう。壁にも柱にも凝った細工が見受けられ、破れたままの真紅のカーテンが申し分程度に陽の光を遮っている。
「右、マーリンは居ないが魔導騎士風の女性を発見。更にその少し奥に斧戦士系っぽい影を確認」
「左、同じくヘルメスも居ないがシスターを発見。ヒールの杖を持っている」
「正面に月蝕・天空の世界の妖女サロメを確認。スキルの効果範囲に男性の姿は無いけれど、合流は阻止しておきたいところだ」
俺、ティル、ドルフの順にタマキへと報告する。ドルフが見つけたサロメという妖女は軍師ではないのだが、闇魔導士なので別の意味で厄介な相手だ。なおティルにとってはサロメの使う闇魔法ナーストレンドが死因である。
「クロウリーさんとかレヴィさんも居ませんね?」
「魔導士系はサロメが一番危険で、残りは魔導騎士のエイダ、司祭のシャーロットか。奥に居るのは山賊のケネスだね。安全策を取るのなら攻撃手段を持たないシャーロットからになるかな」
「そうですね。エイダさんのスキル『騎士の誓い』はシャーロットさんが対象ですか……合流させたくないですね」
邪悪の樹に登場する敵は固定のキャラクター以外は虚構とはいえ本人の人格以外を完璧に再現している。その主だった部分がスキルだ。
知性も自我も無いはずの虚ろな存在が明確な敵意を以って襲い来るのだが、個を持たない存在である虚構たちも対象が限られたスキルの効果の恩恵を受けるのだ。
このエリアでは相手はこちらが攻撃範囲に侵入するまでは動かないので、タマキとドルフが配分を相談している。
「ここでこそ私の本領発揮だけど、誰の相手をするかはタマキの判断に任せるわ」
アナベル隊長のスキル『悪魔の盾』は魔導士系の敵が多いこの階層だと大活躍する。さらにもう一つのスキル『死神の一撃』の効果で相手の奥義ゲージも減少させるので実質的に奥義も封じることができるのだ。
「まずは全員でエイダさんとシャーロットさんの合流阻止と撃破を目指します。もし残りの敵が集まってきてしまって乱戦になってしまいそうな場合は、闇魔法以外の魔法に強く出られるティルさんはフードの男さんの相手をお願いします。ドルフさんはアディシェスの相手を。アナベル隊長は状況に応じて反射を頼みます。エリアスさんはケネスさんの相手を優先で、余裕が出来たら近いところからお手伝いしてください」
このマップでは敵の誰か一人の攻撃範囲内に侵入するか、こちらから攻撃を加えると敵が一斉に移動を始める。遮蔽物になるのは数本の柱と、部屋の中央に落ちたまま放置されている壊れたシャンデリアくらいしかない。
アナベル隊長は騎馬だから機動力があるが、他は歩行ユニットなのでこの遮蔽物を上手く利用して敵の攻撃をかわす必要も出てくるだろう。
ここでの戦闘中に限り魔防が上昇するアイテムを使い、ステータスの底上げを済ませると4iの攻略へと乗り出した。
まず最初は予定通り司祭の撃破だ。ティルは原作で王子系の兵種だったので、スキル構成はルイス王子と同じく味方支援系のスキルを持っている。なのでこれによる攻撃力上昇などの恩恵も受けながら一気に畳みかける。
一ターン掛からずに倒し切ると、次いで襲来する魔導騎士を迎え撃つために未行動のメンバーで位置調整をする。相手が装備している雷の上級魔法サンダーボルトの追加効果は重装系特攻なので、こちらで影響を受ける者はいない。なのでスキルや武器の効果で遠距離攻撃に対応できる俺とアナベル隊長とティルが攻撃範囲に入り迎え撃つ。
この三人の中で俺が一番魔防が低いので当たり前だが攻撃を受けるが、事前に使用していたアイテムのおかげでそこまで痛くは無い。
「受けてみるがいい!」
俺はそのまま反撃を与える。セフィロトの大図書館に来てから遠距離反撃もできるようになった聖剣だが、水晶の剣よろしく魔法攻撃かと思いきや答えはまさかの物理攻撃だ。やっていることは剣圧を飛ばすようなかんじである。
サポートデッキに入っているのは最早定番と化したラウルスなので、相手のステータスが下がっている奇数ターンは追撃もしやすく、魔導騎士もそのまま撃破した。
「ここまでは順調だな」
「はい。次のターンは山賊のケネスさんを優先して倒しましょう」
そういいながらタマキは俺の怪我の治療をすると接近してきているアディシェスたちを確認する。フードの男は歩行の光魔導士系、アディシェスは飛行の闇魔導士系だ。
今回の出撃メンバーに魔導士や弓兵が一切いないのはアディシェスの持つ『ディアボロスの杖』という武器効果が原因だ。この杖は闇魔法の杖であり、『魔法、弓を装備している敵の攻撃速さをマイナス4する』という効果がある。しかも彼の名前と同じスキル『無感動の悪魔』のせいで更にステータスを下げられるので、魔導士系は連れてきても殆ど活躍できないのだ。
フードの男のほうは名前と同様にスキルも大半が『????』で埋め尽くされているのでよく解らない。なのでとりあえず守備が低いという理由から『囲んで物理で殴れ』が定番の攻略法である。
「わかった。向こうは俺一人で大丈夫だろうから、こっちは任せる」
「はい! 無茶はしないでくださいね」
「はははっ、そんなセシルじゃあるまいし」
俺は一人離れて斧戦士の相手に向かう。武器相性もだがスキルの相性的にも俺のほうが有利なので、次の敵ターンに向こうから接近して攻撃してきてくれれば問題なく倒せるだろう。
しかし斧戦士はこちらに接近してくる様子はなく、それどころか別方向へと移動を始めた。方角からして妖女の方角を目指している。俺の守備が相手の攻撃力より高いのか、素のステータスだとダメージを与えられないと判断されたのだろう。
合流される前に急ぎ追いかけて倒してしまいたいところだが、元が離れていたせいもあり追いつけそうもない。
「タマキ! 斧戦士が奥へ向かった! あの妖女と合流する気だ!」
俺は叫んだ。あの妖女サロメの個人スキル『ファム・ファタール』は範囲内に居る味方男キャラクターのステータスを大幅に増幅するものだ。合流されるといろいろと面倒なのである。
「わかりました! アナベル隊長と二人で追いかけてください! こっちは三人でどうにかします!」
聞こえるとほぼ同時にアナベル隊長が俺の首根っこを掴み持ち上げ、彼女の駆る馬に乗せられる。そのまま進んでいくも斧戦士が妖女と合流するほうが先だった。
「隊長、ここで降ろしてくれ。流石に闇魔法を何度も食らうのは危険だ」
「そうね。ここからは私が先行するわ」
「俺もすぐに追いつくから、初撃だけは耐えてくれ」
アナベル隊長はそこまで速さのステータスが高くない。俺を担いだ状態でステータスが減少していると危険だと判断して早めに下りたが、あと少し前進すれば俺も敵の攻撃範囲に侵入することになる。このターンだけ耐えてくれれば攻撃の手は分散されるはずだ。
俺の予想では斧戦士はアナベル隊長、妖女は俺に攻撃しに来るだろう。ステータスの成長タイプが俺とアナベル隊長では真逆に近いので、まず間違いない。
敵の姿を認めながら前進する。間違いなく敵の攻撃範囲に侵入したところで相手の動きを確認した。
斧戦士はアナベル隊長と刃を交えているようで、こちらに来る気配はない。しかし妖女――サロメは明らかに、こちらへ向かって進んできている。
相手が魔導書を構えその手をこちらへと向けた瞬間――全身の肉を剥がされ、骨を摺り砕かれるような感覚が俺を襲う。脳を直接齧られているような不快感と吐き気に襲われ膝をつく。
サロメが操る闇魔法ナーストレンドは湧きあがる死者の腕によって攻撃を受けると同時に、移動を制限されるバッドステータスを受ける。生者を妬む死者の腕は仲間に引きずり込もうと、その憎悪を剥き出しにして不気味な青白い手を伸ばしてきた。
奥義の効果が乗っていないだけマシだが、もし奥義までついてきたら恐らく耐えきれないだろう。全身が恐ろしく痛む。しかし倒れている場合ではない。
「まだだっ!」
歯を食いしばりながら立ち上がると聖剣を構え直し、反撃のために剣圧を飛ばす。これで奥義ゲージが溜まった。ならば次で決まる。一息で届く距離を詰めると勢いよく切り上げる。
「我が女神よ!」
そう叫ぶと同時に雷霆の如く切りつけると、妖女の虚構は黒煙のように霧散した。
今の俺はほとんど瀕死と言ってもいい状態だが休んでも居られない。移動しながら傷薬で簡単な治療を済ませると、アナベル隊長も斧戦士を倒したようでこちらへ向かってくる。
そのまま馬に乗せてもらうとタマキたちのもとへ急ぎ戻る。
最初の予定通りドルフが闇の司祭アディシェスの相手をし、ティルがフードの男と交戦している。タマキは少し下がった位置からドルフのサポートをしているようだ。
フードの男は光魔法の三回攻撃を仕掛けてくるのだが、魔槍グングニルの効果でティルが受けるダメージは少なく済んでいるようで危なげない。
対するドルフたちのほうは遠距離攻撃に反撃できないせいもあってか、ギリギリの戦いをしているようだ。アディシェスのスキル『屍毒の吐息』による固定ダメージや、『闇の祈り』による追撃封じに苦しめられている様子である。
「エリアスはそっちから回り込んでちょうだい!」
俺を降ろすや否やアナベル隊長はアディシェスを追い込むように反対側に回り込もうと移動する。
言われた通りに俺もドルフが立っている位置を確認しながら、途中タマキに回復してもらいつつ徐々にアディシェスの逃げ場を奪っていく。
邪悪の樹が生み出した悪魔たちは全員総じて『属性:悪』を持っている。なので俺も持つ聖剣の特攻が良く刺さる。
ドルフが持つ光剣にも特攻はあるのだが、成長過程にある光剣では威力が中途半端なようだ。
「人間風情があっ!」
徐々に徐々にと追い詰めていき、その化けの皮が剥がれる。態と崩されていた美しい外見は醜悪に腐り果て、道化師のような化粧をしていたせいもあってかその形相は恐ろしいものとなっている。冷静さを失いつつあるのか乱暴に杖を振り回し闇を振りまく。
恐らくあと少しで倒せるところまで来ているのだろう。俺たちは一気に畳みかけるように攻撃を仕掛けると、この階層を支配する悪魔は消滅した。
「ふむ。アディシェス殿が死んだのなら私は撤収することにしよう」
逃げようとしたフードの男が以前と同じく光弾を打ち込んでくるが、それを反射しながら突撃したアナベル隊長の斧槍が振り下ろされる。それと同時に周囲を確認できないほどの強烈な光が包む。
光がはれた頃にはアナベル隊長は落馬していて、フードの男が倒れこむ彼女へと何かを耳打ちしている。それに対しアナベル隊長が驚いたようなそぶりを見せると、フードの男は満足そうに去っていったのだった。
ここを含めて残り四層というだけあり敵として登場する英雄の虚構もバラエティ豊かである。
邪悪の樹内部では年代記のようにシリーズごとにつくステータス補正は無いのだが、階層ごとの番人である悪魔を倒すと各シリーズの主人公が配布としてもらえる仕組みとなっている。
今日の任地である4iでは【天空のレギンレイヴ】の主人公である英雄王ラルフが仲間になるのだ。主人公なので当然のごとくレアリティは☆5である。
「ここの奥にラルフが捕らわれているのか……」
険しい表情で進行方向を見据える騎士風の男の名はティル。【月蝕のレギンレイヴ】の主人公にして、前述したラルフの父親にあたる。
彼らの出典元の【月蝕のレギンレイヴ】と【天空のレギンレイヴ】は二部作である。月蝕のラストがバッドエンドだったのを引き継ぎ、その十五年後から物語が始まるのが天空だ。
自分が王族だと知らないラルフは世話役の騎士ボリスや沢山の仲間に支えられながら暗黒教団と戦い、奪われた王位と平和を取り戻すのが大筋である。
バッドエンドという事で原作では死亡することになるティルだが、当然のごとく成長した我が子の顔など想像もつかないようだ。現に話を聞いたばかりの時は『生まれて間もない赤子である我が子が悪魔に連れ去られた』と勘違いしていたほどである。
邪悪の樹は年代記と違い、侵入するまで敵の編成が判らない。しかし階層ごとに大まかにだが、編成の傾向だけは教えて貰える。4iは編成に魔導士系が多い場所だ。なので今回の出撃メンバーは魔法にある程度の耐性のある者と、スキルなどの効果で被ダメージを軽減できる者たちで編成されている。
「今日こそはこの階層を突破するんです!」
タマキの言う通りこの階層の攻略は今日が初めてではない。今までに七回ほど挑んでいるが、ランダム出現する敵が厭らしい性能をしている魔導士率が高くて積んでいたのだ。
ある日はマーリンから嫌がらせのごとくデバフを貰い、またある時はヘルメスから行動をキャンセルされたりと散々な目にあってきた。酷い時は固定であるアディシェスとフードの男以外が全員『公式チート枠』のキャラクターで埋まっていたりもしたので、今回でこそ終わらせたい。そんな雰囲気が漂う中での出撃だった。
苦戦しながらもこの階層を構成する5エリアのうち四つを突破したところで、最終エリアに足を踏み入れる。
打ち捨てられた廃墟のような場所も、かつては豪華なパーティーホールだったのだろう。壁にも柱にも凝った細工が見受けられ、破れたままの真紅のカーテンが申し分程度に陽の光を遮っている。
「右、マーリンは居ないが魔導騎士風の女性を発見。更にその少し奥に斧戦士系っぽい影を確認」
「左、同じくヘルメスも居ないがシスターを発見。ヒールの杖を持っている」
「正面に月蝕・天空の世界の妖女サロメを確認。スキルの効果範囲に男性の姿は無いけれど、合流は阻止しておきたいところだ」
俺、ティル、ドルフの順にタマキへと報告する。ドルフが見つけたサロメという妖女は軍師ではないのだが、闇魔導士なので別の意味で厄介な相手だ。なおティルにとってはサロメの使う闇魔法ナーストレンドが死因である。
「クロウリーさんとかレヴィさんも居ませんね?」
「魔導士系はサロメが一番危険で、残りは魔導騎士のエイダ、司祭のシャーロットか。奥に居るのは山賊のケネスだね。安全策を取るのなら攻撃手段を持たないシャーロットからになるかな」
「そうですね。エイダさんのスキル『騎士の誓い』はシャーロットさんが対象ですか……合流させたくないですね」
邪悪の樹に登場する敵は固定のキャラクター以外は虚構とはいえ本人の人格以外を完璧に再現している。その主だった部分がスキルだ。
知性も自我も無いはずの虚ろな存在が明確な敵意を以って襲い来るのだが、個を持たない存在である虚構たちも対象が限られたスキルの効果の恩恵を受けるのだ。
このエリアでは相手はこちらが攻撃範囲に侵入するまでは動かないので、タマキとドルフが配分を相談している。
「ここでこそ私の本領発揮だけど、誰の相手をするかはタマキの判断に任せるわ」
アナベル隊長のスキル『悪魔の盾』は魔導士系の敵が多いこの階層だと大活躍する。さらにもう一つのスキル『死神の一撃』の効果で相手の奥義ゲージも減少させるので実質的に奥義も封じることができるのだ。
「まずは全員でエイダさんとシャーロットさんの合流阻止と撃破を目指します。もし残りの敵が集まってきてしまって乱戦になってしまいそうな場合は、闇魔法以外の魔法に強く出られるティルさんはフードの男さんの相手をお願いします。ドルフさんはアディシェスの相手を。アナベル隊長は状況に応じて反射を頼みます。エリアスさんはケネスさんの相手を優先で、余裕が出来たら近いところからお手伝いしてください」
このマップでは敵の誰か一人の攻撃範囲内に侵入するか、こちらから攻撃を加えると敵が一斉に移動を始める。遮蔽物になるのは数本の柱と、部屋の中央に落ちたまま放置されている壊れたシャンデリアくらいしかない。
アナベル隊長は騎馬だから機動力があるが、他は歩行ユニットなのでこの遮蔽物を上手く利用して敵の攻撃をかわす必要も出てくるだろう。
ここでの戦闘中に限り魔防が上昇するアイテムを使い、ステータスの底上げを済ませると4iの攻略へと乗り出した。
まず最初は予定通り司祭の撃破だ。ティルは原作で王子系の兵種だったので、スキル構成はルイス王子と同じく味方支援系のスキルを持っている。なのでこれによる攻撃力上昇などの恩恵も受けながら一気に畳みかける。
一ターン掛からずに倒し切ると、次いで襲来する魔導騎士を迎え撃つために未行動のメンバーで位置調整をする。相手が装備している雷の上級魔法サンダーボルトの追加効果は重装系特攻なので、こちらで影響を受ける者はいない。なのでスキルや武器の効果で遠距離攻撃に対応できる俺とアナベル隊長とティルが攻撃範囲に入り迎え撃つ。
この三人の中で俺が一番魔防が低いので当たり前だが攻撃を受けるが、事前に使用していたアイテムのおかげでそこまで痛くは無い。
「受けてみるがいい!」
俺はそのまま反撃を与える。セフィロトの大図書館に来てから遠距離反撃もできるようになった聖剣だが、水晶の剣よろしく魔法攻撃かと思いきや答えはまさかの物理攻撃だ。やっていることは剣圧を飛ばすようなかんじである。
サポートデッキに入っているのは最早定番と化したラウルスなので、相手のステータスが下がっている奇数ターンは追撃もしやすく、魔導騎士もそのまま撃破した。
「ここまでは順調だな」
「はい。次のターンは山賊のケネスさんを優先して倒しましょう」
そういいながらタマキは俺の怪我の治療をすると接近してきているアディシェスたちを確認する。フードの男は歩行の光魔導士系、アディシェスは飛行の闇魔導士系だ。
今回の出撃メンバーに魔導士や弓兵が一切いないのはアディシェスの持つ『ディアボロスの杖』という武器効果が原因だ。この杖は闇魔法の杖であり、『魔法、弓を装備している敵の攻撃速さをマイナス4する』という効果がある。しかも彼の名前と同じスキル『無感動の悪魔』のせいで更にステータスを下げられるので、魔導士系は連れてきても殆ど活躍できないのだ。
フードの男のほうは名前と同様にスキルも大半が『????』で埋め尽くされているのでよく解らない。なのでとりあえず守備が低いという理由から『囲んで物理で殴れ』が定番の攻略法である。
「わかった。向こうは俺一人で大丈夫だろうから、こっちは任せる」
「はい! 無茶はしないでくださいね」
「はははっ、そんなセシルじゃあるまいし」
俺は一人離れて斧戦士の相手に向かう。武器相性もだがスキルの相性的にも俺のほうが有利なので、次の敵ターンに向こうから接近して攻撃してきてくれれば問題なく倒せるだろう。
しかし斧戦士はこちらに接近してくる様子はなく、それどころか別方向へと移動を始めた。方角からして妖女の方角を目指している。俺の守備が相手の攻撃力より高いのか、素のステータスだとダメージを与えられないと判断されたのだろう。
合流される前に急ぎ追いかけて倒してしまいたいところだが、元が離れていたせいもあり追いつけそうもない。
「タマキ! 斧戦士が奥へ向かった! あの妖女と合流する気だ!」
俺は叫んだ。あの妖女サロメの個人スキル『ファム・ファタール』は範囲内に居る味方男キャラクターのステータスを大幅に増幅するものだ。合流されるといろいろと面倒なのである。
「わかりました! アナベル隊長と二人で追いかけてください! こっちは三人でどうにかします!」
聞こえるとほぼ同時にアナベル隊長が俺の首根っこを掴み持ち上げ、彼女の駆る馬に乗せられる。そのまま進んでいくも斧戦士が妖女と合流するほうが先だった。
「隊長、ここで降ろしてくれ。流石に闇魔法を何度も食らうのは危険だ」
「そうね。ここからは私が先行するわ」
「俺もすぐに追いつくから、初撃だけは耐えてくれ」
アナベル隊長はそこまで速さのステータスが高くない。俺を担いだ状態でステータスが減少していると危険だと判断して早めに下りたが、あと少し前進すれば俺も敵の攻撃範囲に侵入することになる。このターンだけ耐えてくれれば攻撃の手は分散されるはずだ。
俺の予想では斧戦士はアナベル隊長、妖女は俺に攻撃しに来るだろう。ステータスの成長タイプが俺とアナベル隊長では真逆に近いので、まず間違いない。
敵の姿を認めながら前進する。間違いなく敵の攻撃範囲に侵入したところで相手の動きを確認した。
斧戦士はアナベル隊長と刃を交えているようで、こちらに来る気配はない。しかし妖女――サロメは明らかに、こちらへ向かって進んできている。
相手が魔導書を構えその手をこちらへと向けた瞬間――全身の肉を剥がされ、骨を摺り砕かれるような感覚が俺を襲う。脳を直接齧られているような不快感と吐き気に襲われ膝をつく。
サロメが操る闇魔法ナーストレンドは湧きあがる死者の腕によって攻撃を受けると同時に、移動を制限されるバッドステータスを受ける。生者を妬む死者の腕は仲間に引きずり込もうと、その憎悪を剥き出しにして不気味な青白い手を伸ばしてきた。
奥義の効果が乗っていないだけマシだが、もし奥義までついてきたら恐らく耐えきれないだろう。全身が恐ろしく痛む。しかし倒れている場合ではない。
「まだだっ!」
歯を食いしばりながら立ち上がると聖剣を構え直し、反撃のために剣圧を飛ばす。これで奥義ゲージが溜まった。ならば次で決まる。一息で届く距離を詰めると勢いよく切り上げる。
「我が女神よ!」
そう叫ぶと同時に雷霆の如く切りつけると、妖女の虚構は黒煙のように霧散した。
今の俺はほとんど瀕死と言ってもいい状態だが休んでも居られない。移動しながら傷薬で簡単な治療を済ませると、アナベル隊長も斧戦士を倒したようでこちらへ向かってくる。
そのまま馬に乗せてもらうとタマキたちのもとへ急ぎ戻る。
最初の予定通りドルフが闇の司祭アディシェスの相手をし、ティルがフードの男と交戦している。タマキは少し下がった位置からドルフのサポートをしているようだ。
フードの男は光魔法の三回攻撃を仕掛けてくるのだが、魔槍グングニルの効果でティルが受けるダメージは少なく済んでいるようで危なげない。
対するドルフたちのほうは遠距離攻撃に反撃できないせいもあってか、ギリギリの戦いをしているようだ。アディシェスのスキル『屍毒の吐息』による固定ダメージや、『闇の祈り』による追撃封じに苦しめられている様子である。
「エリアスはそっちから回り込んでちょうだい!」
俺を降ろすや否やアナベル隊長はアディシェスを追い込むように反対側に回り込もうと移動する。
言われた通りに俺もドルフが立っている位置を確認しながら、途中タマキに回復してもらいつつ徐々にアディシェスの逃げ場を奪っていく。
邪悪の樹が生み出した悪魔たちは全員総じて『属性:悪』を持っている。なので俺も持つ聖剣の特攻が良く刺さる。
ドルフが持つ光剣にも特攻はあるのだが、成長過程にある光剣では威力が中途半端なようだ。
「人間風情があっ!」
徐々に徐々にと追い詰めていき、その化けの皮が剥がれる。態と崩されていた美しい外見は醜悪に腐り果て、道化師のような化粧をしていたせいもあってかその形相は恐ろしいものとなっている。冷静さを失いつつあるのか乱暴に杖を振り回し闇を振りまく。
恐らくあと少しで倒せるところまで来ているのだろう。俺たちは一気に畳みかけるように攻撃を仕掛けると、この階層を支配する悪魔は消滅した。
「ふむ。アディシェス殿が死んだのなら私は撤収することにしよう」
逃げようとしたフードの男が以前と同じく光弾を打ち込んでくるが、それを反射しながら突撃したアナベル隊長の斧槍が振り下ろされる。それと同時に周囲を確認できないほどの強烈な光が包む。
光がはれた頃にはアナベル隊長は落馬していて、フードの男が倒れこむ彼女へと何かを耳打ちしている。それに対しアナベル隊長が驚いたようなそぶりを見せると、フードの男は満足そうに去っていったのだった。
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余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
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