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第二部
第18話 樽は壊さないでください
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少し冷え込むが今日も修練場では剣士系が集まり、互いの技を磨き合っている。そこに何故かここ暫くラウルスが混ざって訓練に参加していた。
「なあ。なんで弓兵のラウルスが剣の訓練に参加するんだ?」
「稽古をつけてくれると約束しただろう。ほら、もう一本付き合え」
「わかったわかった」
詳しい理由は教えてはもらえないが、ラウルスからは俺の戦いかたを彼自身が剣で戦うときの参考にしたいといわれ手解きをしている。技が伸びやすいラウルスであれば傭兵系より剣士系に教わったほうがステータスとのミスマッチも少なさそうだが、一方的に攻撃が出来なくなる近接戦闘では相手の出方を見て動きたいそうだ。
「踏み込みが浅い!」
何度か打ちあったところでラウルスが振り下ろした剣を弾く。ラウルスは降参のポーズを取りながら、痺れたらしい手を軽く振っている。
「さすがに腕力はどうしようもないな。握力がどうにかなりそうだ」
「力の逃がし方を工夫すればどうにかなる。ラウルスは器用だし目も良いから慣れればすぐに身につくだろう」
俺自身が親父に扱かれたときは一体どこの軍隊だと突っ込みたくなるような訓練もあったが、体格差や腕力は攻撃を受け流す際に方向を間違えなければいくらでも対応できる。俺はこれをある程度は経験で覚えたが、ラウルスは頭も良いし狙撃手は視力に優れとっさの判断が早い者が多いので、学問のように最適解を出せるのではと思っている。
「見えてはいるんだがな。近接戦闘は慣れないせいか動きが追い付かん」
「おっ。それじゃあ走るか? 走りながら俺が適当につつくから、ラウルスはそれを回避か受け流しする訓練でもどうだ?」
俺の親父は兵種としては聖騎士だったが、様々な兵種の戦い方を知っていた。なので傭兵の戦い方もその親父に習ったのだが、時折変わった訓練が織り交ぜられていた。いま挙げた訓練は鬼ごっこのような遊び感覚でできるもので、主に体力と瞬発力を鍛えられる。
親父は穂先が折れてなくなった槍などで突いてきたが、そんなものは持ち合わせていないので剣の鞘で代用する。たぶん持っているものの中で一番殺傷力がないだろう。
そうして訓練をしていると暫くして、訓練場の入口からどよめきが聞こえる。どうやらタマキが新しい仲間を連れてきたようだ。ルイス王子やダリル王女といった歴代の剣士系主人公たちが集まっているのだが、遠巻きでも彼らが嬉しそうにしているのが判る。
「ルイスにダリルじゃないか。二人とも元気そうだな!」
「もしかしてルークかい? 君に会うのはいつ以来だったかな」
「相変わらずのようで安心しました。セシル王子たちにはもう会われましたか?」
時間からしてつい先ほど攻略された邪悪の樹より解放されたのだろう。輪の中心にいるのはルークという戦士だ。彼こそがリコレクションズに先駆けて発売されたお祭りゲーム【閃光のレギンレイヴ】の主人公の一人である。
閃光のレギンレイヴは月蝕のレギンレイヴからグラフィックが3D化したことに伴い、スタイリッシュなアクションをさせたいというコンセプトで制作された。シリーズとしては八作目にあたるのだが、シミュレーションRPGではなくアクションゲームなのでファンの間では賛否が分かれている。
このルークとのやり取りから判るようにルイス王子たち主人公勢は、このセフィロトの大図書館に召喚される前から彼と面識がある。登場人物はルークともう一人の主人公に加えて、シリーズの歴代主人公と一部のヒロインたちだ。世界観は現代寄りで今までのシリーズは遠く離れてはいるが全く同じ世界の異大陸だったが、ルークの生まれ育った閃光の世界は完全な異世界が舞台となっている。
「なるほどね。ここでは三人一組で交代しながらじゃなくて、五人で一緒に戦えるのか」
「樽を壊しても回復アイテムは出てこないから、そこは注意してくれ」
タマキは閃光を未履修なのでシステム面の違いを説明しきれないらしく、主人公たちが説明に回っている。彼らにとっては二度目のお祭りゲームなので、ここはそういう設定の世界だと色々と説明しているようだ。実にメタい。
「紹介しよう。こちらは翠緑の勇者エリアス殿だ。剣士系はレベル上げをするときに引率してもらうことになっている」
「エリアスだ。よろしく頼む」
「俺はルーク。よろしくな!」
ルイス王子に紹介される形でルークと挨拶を交わすと差し出した手を笑顔で掴まれ、ぶんぶんと勢いよく振られる。ルークは歴代主人公たちの中では唯一の平民なので、作法などを気にせず付き合えるのがいいところだ。
しかしルークが装備している剣は名前こそアスカロンと付いているが、作りとしては高周波ブレードである。電脳世界でウイルス相手に戦っていた電子の申し子に、この世界の剣技を基準にした指導で良いのかは不明だ。
「タマキ~、居る? フレンド申請が二件届いているわよ」
「なにさんからですか~?」
「一人目はラビって斧騎士ね。もう一人はショウっていう竜騎士」
「う~ん。ラビさんは多すぎて判別できないレベルなんですよね。ショウさんはレベル幾つの人ですか?」
アナベル隊長が持ってきた手紙を読み上げるとタマキは内容を把握して質問を返す。ラビという名前はプレイヤーのデフォルトネームだ。ゲーム開始時に設定を変更しなければこの名前で遊ぶことになる。判別がつかないという理由からフレンドを整理するときに真っ先に切られる名前だ。
「レベルマックスね。貸し出しは限界まで凸してあるマーリンみたい」
「廃課金者ですか。凄いですね」
しかし本当にここはどういった場所なのだろう。タマキの普段の様子からしてスマホゲームにフルダイブしているのは分かる。しかしリコレクションズはそういうゲームではないので謎しかない。
「ラビさんは残念ですがお断りして、ショウさんとお友達になってイベントに出発です!」
*
ルークのレベル上げは貯めこんでいたボーナス経験値である程度済ませたようで、残りは今回のイベントで育てるらしい。俺は本日のメンバーにはサポートではなく出撃メンバーとして組み込まれた。
イベントの場所に辿り着き、俺は何ともなしにステータスを見る。思わず二度見した。これは酷い――この一言に尽きる。
「うわ、マーリンすごい」
タマキの言い分は分かる。俺も初めてマーリンの支援を貰えた時は勘違いするレベルで強くなったと感じたくらいだ。これで調子に乗ると、いざ別れた時に泣きを見ることになるだろう。
しかし弊セフィロトにマーリンが召喚されたわけではない。つい先ほどフレンドになったショウのセフィロトから貸し出されているマーリンだ。廃課金軍師のもとから来た公式チート枠は極悪ともいえるバフ・デバフのばら撒きを行っている。ここまでくるとナーフしたほうが良いのではないかというレベルだ。
「『陣頭指揮』って本当に便利だよな……」
「『神算鬼謀』と噛み合い過ぎて、発動条件さえ満たせればやりたい放題できるから仕方がないよ。僕もマーリンには沢山助けられたから、彼の凄さはよく解る」
実は今日の出撃メンバーにマーリンが居るだけじゃ飽き足らず、サポートにラウルスが居る。なので奇数ターンは更に酷いことになるだろう。
タマキも兵種は軍師なので『神算鬼謀』を持っている。配置によっては、いま話しているルイス王子からの支援でステータス補正が付く。
「ショウから手伝うように言われて来たのだが、指示は貰えないのか?」
「ああ。少し待ってやってくれ。タマキはマーリン慣れしていない」
今回のイベントはフレンドと協力して強敵を倒すもの――所謂レイドイベントというやつだ。サービス開始当初はフレンド機能は飾りみたいなものだったのだが、協力型のイベントが欲しいという声を前世ではよく見かけたし要望を送った覚えがある。
このレイドイベントには三種類の敵がいるようだ。現在の俺たちは剣が弱点の敵と交戦中だ。同じように槍が弱点の敵と、斧が弱点の敵も出現するらしい。
剣以外のレイドが来れば俺たちは交代できるのだが、前述のとおり協力イベントなのでフレンドからの貸し出しで出撃枠が一つ埋まる。タマキの様子からしてマーリンは酷使されるだろう。他所のセフィロトから借りたキャラクターを酷使するのは如何なものかと言いたくなるかもしれないが、貸し出しに制限がないようなので仕方がない。
「……はっ! 失礼しました! えっとこのマップは倉庫みたいですので、箱とか樽を上手く使ってマーリンさんが攻撃されないように立ちまわりましょう――」
ようやくマーリンショックから立ち直ったのか、タマキはいつも通り指示を出す。敵は近接戦闘を行うので兵種が炎魔であるマーリンは隣接されると反撃できないので、基本的には前衛職か壁や柱を盾に立ちまわることになる。
「この世界でもネフィリムが現実に侵食してきているのか」
このレイドイベントに登場するのは歴代シリーズの敵キャラだ。その中でも人の形をしていないものたちが登場する。
俺たちがこれから戦う『ネフィリム』はルークたちが戦っていた『電子の悪魔』と呼ばれる現実世界を侵食するウイルスの尖兵だ。閃光のレギンレイヴはSFっぽい用語が多くて覚えるのが大変だったが、このネフィリムたちは簡単にいうなれば魔物だ。身体の大きさは平均的な体格をした成人の二倍から五倍ほど。ゴーレムを更に人間に近づけたような姿かたちをしているので巨人と称すれば分かりやすい。
「あっ、樽!」
その言葉を発するのと殆んど同時にルークが樽を粉砕する。中身は空だ。
「あっ、あれ?」
「ルーク! 樽は敵の進軍を押さえたりできる遮蔽物なんだから壊さないでくれ!」
「あっ、そうか。すまん! 樽を見ると、どうしても壊したくなっちまうんだ!」
もはや病気である。閃光はシステム的にはHPが減っていたほうが奥義が出しやすくなるシステムだったのだが、HPが減っている状態に不慣れなレギンレイヴァーには無茶な話である。そのせいで回復アイテムの回収は頻繁に行われる。しかも特殊技を放つゲージも樽から出てくるアイテムで増やせるので仕方がないのかもしれない。
「そうです忘れてました! ルークさんは壊せる障害物に隣接して待機しないようお願いします」
付け足すようにタマキがルークには障害物の自動破壊スキルがあることを説明してくる。これにより先ほどの樽以外にも『壊せる壁』とか『枯れ木』などをそのターンの行動を消費せずにマップ上から撤去できるらしい。急いで進軍したいときは便利だが、防衛戦なんかだと邪魔になりそうなスキルである。
そうして位置取りが完了したところで本格的に戦闘へ入る。やりたい放題の軍師たちのおかげで負ける気は全くしない。レイドボスらしく耐久力は通常の敵より高いので、討伐にはそれなりの時間がかかるだろう。
基本的には俺たち前衛で殴り掛かる。数字こそ見えないが剣が弱点というのは本当らしく、確かな手応えを感じた。
しかし次の瞬間、目の前に居た筈のネフィリムが消える。倒したわけではないのに急に消えたので驚いていると、全く別の方角から声が聞こえた。背後から援護をしてくれているタマキの悲鳴だ。
マーリンが盾になっている状態だったので、回復役であるタマキが負傷することは無かった。限界まで凸しているにしてもマーリンの耐久力は余り高くないし、再び瞬間移動されてタマキが攻撃されたらまずい。ここは急いで合流したいところだ。
「くそっ! 向こうに転移しやがった!」
ルークが叫んだ通り、ネフィリムは非常に短距離だが稀に瞬間移動をするのだ。前世ではアクションゲームに不慣れで悪戦苦闘していたところで、唐突に消えた敵に背後から殴られたのはいい思い出だ。
「追いかけるぞ!」
叫びながら走り出す。ルークも追従してきてくれているようだ。
「タマキはなるべく壁を背に陣取ってくれ! 支援効果でダメージは殆どないから、こちらの治療は必要ない」
「わ、わかりました!」
タマキは僧侶ベースの軍師なので物理攻撃には滅法弱い。しかし壊せない壁がそれなりに多いマップなので袋小路で仲間と隣接していれば、近接攻撃しかできない敵から攻撃されることは無いだろう。
「ルーク。あの巨人の行動パターンって解るか?」
「あのタイプは攻撃されるとすぐに逃げる奴だな。もしかしたら皆で固まって戦ったほうが良いのか?」
「ああ、そうだな。四方から囲んで殴るのは良く使うパターンだが、殴ると逃げるんなら横一列とかに並んで戦うのが良いかもしれない」
そうと決まれば話は早い。閃光のレギンレイヴ未履修のタマキには予備知識が少ないから、ルークなり歴代主人公たちなりから仕入れた情報を遠慮なく出し惜しみせずに伝えたほうがよさげだ。
陣形に関してはマップのつくりを把握できるタマキに決めてもらったほうが確実だろう。声を張り上げて彼女に伝えると、マーリンも助言をくれたようですぐに答えが返ってきた。
このマップでタマキの安全を確保しつつ俺やルークたちが確実にネフィリムと戦える位置は限られている。そこから更に最低二人がネフィリムに隣接できる場所を探すと一か所だけ、いい感じの場所が存在した。ルイス王子もそれなりにサポート向けの性能をしているので、そちらに徹してもらいネフィリム退治だ。
何ターンか掛けて陣形を整える。しかしここからだというところで電子音声の『規定ターンを過ぎました。戦闘を終了してください。繰り返します――』というアナウンスが聞こえてくる。
「えっ……?」
そうして今立っているのはレイドマップの入り口。扉には『次の出撃可能時間まであと二時間』と書かれている。
「時間制限……あっ、ああぁぁぁっ~!」
イベント概要を確認しなおしてタマキが絶叫する。午前の訓練が終わってすぐに連れてこられたので、俺も内容は知らない。タマキを心配するそぶりを見せながら近づき、さり気なく掲示板を確認すると『このイベントでは一度の出撃につき7ターンの戦闘が行えます』と書かれていた。
「あの。このスイッチって何でしょう?」
「救援ボタンだが……まさか忘れていたのか?」
「えっ? マーリンさんが来ているから、フレンドとの協力は出来ていますよね?」
「別に私を呼ばなくても救援を押せば、ショウを始めとした異界の軍師たちが手勢を連れて来てくれるはずだが」
そう言いながらマーリンは掲示板を指差す。こいつ何で日本語読めるんだと突っ込みたいところだが、マーリンなら読めそうなので気にしない。彼が指示した部分を斜め読みで確認すると『救援を押すと最大五人のフレンドが友軍として戦闘に参加してくれます』や『キャラクターが育っていない初心者の方はフレンドから借りましょう』などといった記述がある。
「タマキ。とりあえず一度休憩にしよう。まだ昼も食べていないだろう?」
「エリアスさん……。はい、そうですね。お腹すいてるからこんなミスしたんです。私は初心者です」
「うん。初心は大事だな」
邪悪の樹と年代記を半分以上攻略している歴戦の軍師でも、初心は大事である。シリーズ歴十年以上の自称・初心者も居たジャンルだから珍しくない。
その後は食堂で作戦会議をしながら食事をとり、次のレイドまで時間を潰すこととなるのだった。
「なあ。なんで弓兵のラウルスが剣の訓練に参加するんだ?」
「稽古をつけてくれると約束しただろう。ほら、もう一本付き合え」
「わかったわかった」
詳しい理由は教えてはもらえないが、ラウルスからは俺の戦いかたを彼自身が剣で戦うときの参考にしたいといわれ手解きをしている。技が伸びやすいラウルスであれば傭兵系より剣士系に教わったほうがステータスとのミスマッチも少なさそうだが、一方的に攻撃が出来なくなる近接戦闘では相手の出方を見て動きたいそうだ。
「踏み込みが浅い!」
何度か打ちあったところでラウルスが振り下ろした剣を弾く。ラウルスは降参のポーズを取りながら、痺れたらしい手を軽く振っている。
「さすがに腕力はどうしようもないな。握力がどうにかなりそうだ」
「力の逃がし方を工夫すればどうにかなる。ラウルスは器用だし目も良いから慣れればすぐに身につくだろう」
俺自身が親父に扱かれたときは一体どこの軍隊だと突っ込みたくなるような訓練もあったが、体格差や腕力は攻撃を受け流す際に方向を間違えなければいくらでも対応できる。俺はこれをある程度は経験で覚えたが、ラウルスは頭も良いし狙撃手は視力に優れとっさの判断が早い者が多いので、学問のように最適解を出せるのではと思っている。
「見えてはいるんだがな。近接戦闘は慣れないせいか動きが追い付かん」
「おっ。それじゃあ走るか? 走りながら俺が適当につつくから、ラウルスはそれを回避か受け流しする訓練でもどうだ?」
俺の親父は兵種としては聖騎士だったが、様々な兵種の戦い方を知っていた。なので傭兵の戦い方もその親父に習ったのだが、時折変わった訓練が織り交ぜられていた。いま挙げた訓練は鬼ごっこのような遊び感覚でできるもので、主に体力と瞬発力を鍛えられる。
親父は穂先が折れてなくなった槍などで突いてきたが、そんなものは持ち合わせていないので剣の鞘で代用する。たぶん持っているものの中で一番殺傷力がないだろう。
そうして訓練をしていると暫くして、訓練場の入口からどよめきが聞こえる。どうやらタマキが新しい仲間を連れてきたようだ。ルイス王子やダリル王女といった歴代の剣士系主人公たちが集まっているのだが、遠巻きでも彼らが嬉しそうにしているのが判る。
「ルイスにダリルじゃないか。二人とも元気そうだな!」
「もしかしてルークかい? 君に会うのはいつ以来だったかな」
「相変わらずのようで安心しました。セシル王子たちにはもう会われましたか?」
時間からしてつい先ほど攻略された邪悪の樹より解放されたのだろう。輪の中心にいるのはルークという戦士だ。彼こそがリコレクションズに先駆けて発売されたお祭りゲーム【閃光のレギンレイヴ】の主人公の一人である。
閃光のレギンレイヴは月蝕のレギンレイヴからグラフィックが3D化したことに伴い、スタイリッシュなアクションをさせたいというコンセプトで制作された。シリーズとしては八作目にあたるのだが、シミュレーションRPGではなくアクションゲームなのでファンの間では賛否が分かれている。
このルークとのやり取りから判るようにルイス王子たち主人公勢は、このセフィロトの大図書館に召喚される前から彼と面識がある。登場人物はルークともう一人の主人公に加えて、シリーズの歴代主人公と一部のヒロインたちだ。世界観は現代寄りで今までのシリーズは遠く離れてはいるが全く同じ世界の異大陸だったが、ルークの生まれ育った閃光の世界は完全な異世界が舞台となっている。
「なるほどね。ここでは三人一組で交代しながらじゃなくて、五人で一緒に戦えるのか」
「樽を壊しても回復アイテムは出てこないから、そこは注意してくれ」
タマキは閃光を未履修なのでシステム面の違いを説明しきれないらしく、主人公たちが説明に回っている。彼らにとっては二度目のお祭りゲームなので、ここはそういう設定の世界だと色々と説明しているようだ。実にメタい。
「紹介しよう。こちらは翠緑の勇者エリアス殿だ。剣士系はレベル上げをするときに引率してもらうことになっている」
「エリアスだ。よろしく頼む」
「俺はルーク。よろしくな!」
ルイス王子に紹介される形でルークと挨拶を交わすと差し出した手を笑顔で掴まれ、ぶんぶんと勢いよく振られる。ルークは歴代主人公たちの中では唯一の平民なので、作法などを気にせず付き合えるのがいいところだ。
しかしルークが装備している剣は名前こそアスカロンと付いているが、作りとしては高周波ブレードである。電脳世界でウイルス相手に戦っていた電子の申し子に、この世界の剣技を基準にした指導で良いのかは不明だ。
「タマキ~、居る? フレンド申請が二件届いているわよ」
「なにさんからですか~?」
「一人目はラビって斧騎士ね。もう一人はショウっていう竜騎士」
「う~ん。ラビさんは多すぎて判別できないレベルなんですよね。ショウさんはレベル幾つの人ですか?」
アナベル隊長が持ってきた手紙を読み上げるとタマキは内容を把握して質問を返す。ラビという名前はプレイヤーのデフォルトネームだ。ゲーム開始時に設定を変更しなければこの名前で遊ぶことになる。判別がつかないという理由からフレンドを整理するときに真っ先に切られる名前だ。
「レベルマックスね。貸し出しは限界まで凸してあるマーリンみたい」
「廃課金者ですか。凄いですね」
しかし本当にここはどういった場所なのだろう。タマキの普段の様子からしてスマホゲームにフルダイブしているのは分かる。しかしリコレクションズはそういうゲームではないので謎しかない。
「ラビさんは残念ですがお断りして、ショウさんとお友達になってイベントに出発です!」
*
ルークのレベル上げは貯めこんでいたボーナス経験値である程度済ませたようで、残りは今回のイベントで育てるらしい。俺は本日のメンバーにはサポートではなく出撃メンバーとして組み込まれた。
イベントの場所に辿り着き、俺は何ともなしにステータスを見る。思わず二度見した。これは酷い――この一言に尽きる。
「うわ、マーリンすごい」
タマキの言い分は分かる。俺も初めてマーリンの支援を貰えた時は勘違いするレベルで強くなったと感じたくらいだ。これで調子に乗ると、いざ別れた時に泣きを見ることになるだろう。
しかし弊セフィロトにマーリンが召喚されたわけではない。つい先ほどフレンドになったショウのセフィロトから貸し出されているマーリンだ。廃課金軍師のもとから来た公式チート枠は極悪ともいえるバフ・デバフのばら撒きを行っている。ここまでくるとナーフしたほうが良いのではないかというレベルだ。
「『陣頭指揮』って本当に便利だよな……」
「『神算鬼謀』と噛み合い過ぎて、発動条件さえ満たせればやりたい放題できるから仕方がないよ。僕もマーリンには沢山助けられたから、彼の凄さはよく解る」
実は今日の出撃メンバーにマーリンが居るだけじゃ飽き足らず、サポートにラウルスが居る。なので奇数ターンは更に酷いことになるだろう。
タマキも兵種は軍師なので『神算鬼謀』を持っている。配置によっては、いま話しているルイス王子からの支援でステータス補正が付く。
「ショウから手伝うように言われて来たのだが、指示は貰えないのか?」
「ああ。少し待ってやってくれ。タマキはマーリン慣れしていない」
今回のイベントはフレンドと協力して強敵を倒すもの――所謂レイドイベントというやつだ。サービス開始当初はフレンド機能は飾りみたいなものだったのだが、協力型のイベントが欲しいという声を前世ではよく見かけたし要望を送った覚えがある。
このレイドイベントには三種類の敵がいるようだ。現在の俺たちは剣が弱点の敵と交戦中だ。同じように槍が弱点の敵と、斧が弱点の敵も出現するらしい。
剣以外のレイドが来れば俺たちは交代できるのだが、前述のとおり協力イベントなのでフレンドからの貸し出しで出撃枠が一つ埋まる。タマキの様子からしてマーリンは酷使されるだろう。他所のセフィロトから借りたキャラクターを酷使するのは如何なものかと言いたくなるかもしれないが、貸し出しに制限がないようなので仕方がない。
「……はっ! 失礼しました! えっとこのマップは倉庫みたいですので、箱とか樽を上手く使ってマーリンさんが攻撃されないように立ちまわりましょう――」
ようやくマーリンショックから立ち直ったのか、タマキはいつも通り指示を出す。敵は近接戦闘を行うので兵種が炎魔であるマーリンは隣接されると反撃できないので、基本的には前衛職か壁や柱を盾に立ちまわることになる。
「この世界でもネフィリムが現実に侵食してきているのか」
このレイドイベントに登場するのは歴代シリーズの敵キャラだ。その中でも人の形をしていないものたちが登場する。
俺たちがこれから戦う『ネフィリム』はルークたちが戦っていた『電子の悪魔』と呼ばれる現実世界を侵食するウイルスの尖兵だ。閃光のレギンレイヴはSFっぽい用語が多くて覚えるのが大変だったが、このネフィリムたちは簡単にいうなれば魔物だ。身体の大きさは平均的な体格をした成人の二倍から五倍ほど。ゴーレムを更に人間に近づけたような姿かたちをしているので巨人と称すれば分かりやすい。
「あっ、樽!」
その言葉を発するのと殆んど同時にルークが樽を粉砕する。中身は空だ。
「あっ、あれ?」
「ルーク! 樽は敵の進軍を押さえたりできる遮蔽物なんだから壊さないでくれ!」
「あっ、そうか。すまん! 樽を見ると、どうしても壊したくなっちまうんだ!」
もはや病気である。閃光はシステム的にはHPが減っていたほうが奥義が出しやすくなるシステムだったのだが、HPが減っている状態に不慣れなレギンレイヴァーには無茶な話である。そのせいで回復アイテムの回収は頻繁に行われる。しかも特殊技を放つゲージも樽から出てくるアイテムで増やせるので仕方がないのかもしれない。
「そうです忘れてました! ルークさんは壊せる障害物に隣接して待機しないようお願いします」
付け足すようにタマキがルークには障害物の自動破壊スキルがあることを説明してくる。これにより先ほどの樽以外にも『壊せる壁』とか『枯れ木』などをそのターンの行動を消費せずにマップ上から撤去できるらしい。急いで進軍したいときは便利だが、防衛戦なんかだと邪魔になりそうなスキルである。
そうして位置取りが完了したところで本格的に戦闘へ入る。やりたい放題の軍師たちのおかげで負ける気は全くしない。レイドボスらしく耐久力は通常の敵より高いので、討伐にはそれなりの時間がかかるだろう。
基本的には俺たち前衛で殴り掛かる。数字こそ見えないが剣が弱点というのは本当らしく、確かな手応えを感じた。
しかし次の瞬間、目の前に居た筈のネフィリムが消える。倒したわけではないのに急に消えたので驚いていると、全く別の方角から声が聞こえた。背後から援護をしてくれているタマキの悲鳴だ。
マーリンが盾になっている状態だったので、回復役であるタマキが負傷することは無かった。限界まで凸しているにしてもマーリンの耐久力は余り高くないし、再び瞬間移動されてタマキが攻撃されたらまずい。ここは急いで合流したいところだ。
「くそっ! 向こうに転移しやがった!」
ルークが叫んだ通り、ネフィリムは非常に短距離だが稀に瞬間移動をするのだ。前世ではアクションゲームに不慣れで悪戦苦闘していたところで、唐突に消えた敵に背後から殴られたのはいい思い出だ。
「追いかけるぞ!」
叫びながら走り出す。ルークも追従してきてくれているようだ。
「タマキはなるべく壁を背に陣取ってくれ! 支援効果でダメージは殆どないから、こちらの治療は必要ない」
「わ、わかりました!」
タマキは僧侶ベースの軍師なので物理攻撃には滅法弱い。しかし壊せない壁がそれなりに多いマップなので袋小路で仲間と隣接していれば、近接攻撃しかできない敵から攻撃されることは無いだろう。
「ルーク。あの巨人の行動パターンって解るか?」
「あのタイプは攻撃されるとすぐに逃げる奴だな。もしかしたら皆で固まって戦ったほうが良いのか?」
「ああ、そうだな。四方から囲んで殴るのは良く使うパターンだが、殴ると逃げるんなら横一列とかに並んで戦うのが良いかもしれない」
そうと決まれば話は早い。閃光のレギンレイヴ未履修のタマキには予備知識が少ないから、ルークなり歴代主人公たちなりから仕入れた情報を遠慮なく出し惜しみせずに伝えたほうがよさげだ。
陣形に関してはマップのつくりを把握できるタマキに決めてもらったほうが確実だろう。声を張り上げて彼女に伝えると、マーリンも助言をくれたようですぐに答えが返ってきた。
このマップでタマキの安全を確保しつつ俺やルークたちが確実にネフィリムと戦える位置は限られている。そこから更に最低二人がネフィリムに隣接できる場所を探すと一か所だけ、いい感じの場所が存在した。ルイス王子もそれなりにサポート向けの性能をしているので、そちらに徹してもらいネフィリム退治だ。
何ターンか掛けて陣形を整える。しかしここからだというところで電子音声の『規定ターンを過ぎました。戦闘を終了してください。繰り返します――』というアナウンスが聞こえてくる。
「えっ……?」
そうして今立っているのはレイドマップの入り口。扉には『次の出撃可能時間まであと二時間』と書かれている。
「時間制限……あっ、ああぁぁぁっ~!」
イベント概要を確認しなおしてタマキが絶叫する。午前の訓練が終わってすぐに連れてこられたので、俺も内容は知らない。タマキを心配するそぶりを見せながら近づき、さり気なく掲示板を確認すると『このイベントでは一度の出撃につき7ターンの戦闘が行えます』と書かれていた。
「あの。このスイッチって何でしょう?」
「救援ボタンだが……まさか忘れていたのか?」
「えっ? マーリンさんが来ているから、フレンドとの協力は出来ていますよね?」
「別に私を呼ばなくても救援を押せば、ショウを始めとした異界の軍師たちが手勢を連れて来てくれるはずだが」
そう言いながらマーリンは掲示板を指差す。こいつ何で日本語読めるんだと突っ込みたいところだが、マーリンなら読めそうなので気にしない。彼が指示した部分を斜め読みで確認すると『救援を押すと最大五人のフレンドが友軍として戦闘に参加してくれます』や『キャラクターが育っていない初心者の方はフレンドから借りましょう』などといった記述がある。
「タマキ。とりあえず一度休憩にしよう。まだ昼も食べていないだろう?」
「エリアスさん……。はい、そうですね。お腹すいてるからこんなミスしたんです。私は初心者です」
「うん。初心は大事だな」
邪悪の樹と年代記を半分以上攻略している歴戦の軍師でも、初心は大事である。シリーズ歴十年以上の自称・初心者も居たジャンルだから珍しくない。
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アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
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以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
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