翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

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第三部

第08話 謎の剣士

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 マグノリア軍とウィステリアの部族たちが睨み合いを続ける草原の片隅、両方の勢力に使いを出し聖王グレアムの来訪を知らせると両勢力の代表者数名同士の会談の場が設けられた。
 見晴らしの良い草原の真ん中。両勢力が伏兵などを仕掛けられないような場所だ。生憎の曇天だが、嵐の前のような嫌な雰囲気があった。

「双方とも会談に応じてくれたこと、感謝する」

 グレアム陛下の挨拶を終えると、聖王国が聞き及んでいた両勢力が戦闘行為を始めたきっかけなどに関する確認の後にそれぞれの勢力の指揮官クラスの者たちにも聞き取りを行う。
 それぞれが街やキャンプ地を襲撃され壊滅させられた。犯人を見たものは一人も居ないが、場所柄から双方以外にはありえないというのがそれぞれの言い分である。

「そういえばこちらには竜、あるいは竜族の目撃情報が届いていたが、見掛けたものは居るか? 他にも気になっていることがあれば遠慮なくいってほしい」

 竜ないしは竜族が居たという目撃情報だが、これはどうやら誤報だったようで彼らは一様に首を横に振った。

「気になる点といえば一つだけ――」

 今まで静かに佇んでいたラーグが口を開く。ブルネットの髪の隙間から覗く視線が妙に痛い。

「エリアス殿、あなたの神は今、どこで、何をされていますか?」

 予想外の質問に俺は面食らう。正直いって女神の話題が上がるなど微塵も思っていなかったのだ。

「僕たち草原の民を束ねる老師ケイロンによれば、女神アストレアはチャネリングによって介入を行っているそうですが、その所在を知りたいのです」
「なぜ女神アストレアに?」
「少々、気になる点があったので確認したいだけです」

 ケイロンといえば草原の民たちに知恵を貸す亜人種の賢者だ。原作ゲームにも少しだけ登場するので、どういった人柄なのかも知っている。

「俺は今から約三年前、古の魔女エリウによって女神アストレアに引き合わされた。だが女神とはそれ以来なんの音沙汰もないし、こちらからコンタクトをとるのは手段がない」

 俺が女神と実際に話をしたのは本当にただの一度だけ。それも夢の中のような不思議な空間での邂逅だった。おそらくトランス状態に近かったと思う。
 しかしラーグは俺の返事に納得のいかない場所があるのか、まだ何か言いたげだ。だがその何かを言葉にして伝えるつもりはないようで、短く礼を言うと下がってしまう。

「双方の言い分はわかった。だが我々は邪竜と共に戦い助け合った仲間だ。私は皆が傷つけあう場所など見たくない」

 グレアム陛下が双方の代表者一人一人の目を順に見ながら言う。戦い足りないといった雰囲気も多々あるが、それでも草原の勇者と名高いフェオや、マグノリア伯爵であるイレーヌに宥められると戦意をいったん治める。
 真犯人が見つかるまでは休戦するという協定を結び、調査の結果が出次第、聖王国のほうのもと相応の処罰を与える。そう話を詰めようとしたところで離れた場所から悲鳴と怒号が上がる。
 発生源は俺たちがいる会談場所を中心とした南北それぞれ――マグノリアとウィステリアの兵たちから上がったのだ。

「なんだ!? 何が起こった?」

 周囲が色めき立つ。俺たちは混乱が広がる前にグレアム陛下の周囲を固める。今回の護衛隊にはオニキスも居るので心強いが、それでも油断は禁物だ。

 そうして少しすると状況が見えてくる。双方の軍が何者かに攻撃を受けている。それに応戦しようと双方が武器をとり、戦闘が開始されていた。

「バカなっ! 和平の場でこのようなこと――っ」

 近くにいた士官の叫びはすぐさま断末魔へと変わる。振り返るとそこには居なかったはずの『敵』が立っていた。それも一人二人だなんて可愛いものではなく、一個小隊程度の数だ。
 よく見ると地面が盛り上がり人の姿を形成していた。土から生まれたそれは一切の個性がなく、全て同じ外見をしている。

 異様な光景に対応できないものが大半の中、どうにかこの場を離脱しようと敵の陣形が薄い場所を探す。一か所だけ不自然に土の人形が生まれない場所があった。方角は俺たちが通ってきた道。そのまま戻れば帰れる方角だが、罠の気配しかしない道だ。

「エリアス殿、背後は任せます!」

 先陣を切るオニキスが槍を振るい敵を薙ぎ払う。しかし吹き飛ぶだけでダメージは入っていない様子だ。だがこの謎の軍勢の包囲を突破するのが目的なので、俺はグレアム陛下を誘導しながら走り抜けようと足を動かす。
 進行方向の空間がぐにゃりと歪む。霧のように集まった粒子が収束すると、そこには一人の男が立っていた。
 古めかしいデザインの鎧は実用性だけを追求したかのように飾り気がなく、その所属すら予測できる要素がない。だが明らかに、これまでの謎の兵たちと別の個体だ。

「何者だ?」

 霧のように現れた男は俺の問いかけに対して不敵に笑うと剣を構える。オニキスはこの男を挟んで向こう側だ。

「なに。名乗るほどのものではない」

 その刹那。目にも留まらぬ速さで剣が振るわれた。間一髪、陛下を背後に庇うと攻撃を剣で受け流す。だが相手の表情から、その一撃は態と受け止められるよう加減していたことが窺えた。

「う~む。しかし最近の若者は力が弱いな。それでよく竜族と渡り合えたものだ」

 背後からの攻撃にも動じる様子もなく男は一瞥もくれないまま、攻撃をして来たオニキスを軽々吹き飛ばす。背後からの攻撃などオニキスらしからぬ行為だが、今はそれどころではない。この男の存在が異様であることは誰が見ても明らかなのだ。

 地面に男の持つ剣が突き刺さる。その剣は聖剣テミスによく似ているが、身の丈ほどはある大剣であった。突き刺さった衝撃だけでも身体が恐怖し、手足が動かしにくくなる。

「ところで君に一つ提案があるのだが、良いかな?」
「ここから全員無事に逃がしてくれるってなら喜んで聞くよ」
「残念だがそれは無理だ。でもそれじゃあ君は『あの方』から見て用済みかな」

 どこか見覚えのある翠と視線がかち合う。男の持つ大剣が振り上げられたのだと理解すると、反射的に防御態勢に入る。
 聖剣テミスはサーベル状の真白く美しい細身の剣だ。あんな大剣を受け止めるのは不可能かもしれないが、それでも伝説の武器だ。信じるしかない。

「近いうちに掟と秩序の世界が始まる。完全なる秩序のもと管理された世界。そこに生物は必要ない」

 男のその声とともに聖剣が音を立て真っ二つに折れる。それ以上、男が剣を振り下ろすことは無い。

 目的は達したと言わんばかりの男が去っていくのを呆然と見つめる。そして何かが勢いよく頬を掠めた。誰かが短く呻くような悲鳴をあげたのを耳が拾う。振り向き確認すると一本の矢がグレアム陛下の胸を貫いていた。

 シャフトの部分には見覚えのある『剣と秤のモチーフ』が描かれていた。
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