【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

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第一章 九月の嵐

前途多難1

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 「もっと力を入れなきゃ持ち上がらないってば」

 「ひーっ!
 そんなことしたら、つぶれるじゃないの。グシャッと!」

 「お豆腐じゃないんだから。怖がってると逆に危ないよ」

 冷静に指示を出すのは、友人・酒井麻由子である。
 交番のおっさんなんかじゃなく、始めから麻由子に連絡すれば良かった。
 麻由子が玄関先に現れた時には、大袈裟でなく本当に後光が差しているように見えたものだ。

 「かーわーいーいー」

 余裕の笑みをこぼす彼女は二児の母である。
 出産を期に一回りたくましくなった身体は貫禄充分だ。
 
 先ほど、麻由子の指導でオムツ替えを行った。
 ルナは布のオムツを当てられていたが、麻由子は紙の方が楽だと言う。

 ところで。ルナは女の子であった。
 分かってたけど。

 今は、抱き上げてミルクをあげようとしている。
 ミルクの作り方が微妙に面倒くさい。哺乳瓶の消毒も。
 麻由子に言ったら、「もっと責任感を持て」と怒られた。

 麻由子に手伝ってもらい、ルナを引き寄せる。

 「離すわよ。ちゃんと支えてね」

 何とか自力でルナを抱っこした。
 軽いけど重い。
 ルナの身体は、ほわんと温かい。


 麻由子が哺乳瓶を差し出すと、ルナはそれをむんずとつかんだ。
 ごくり、ごくりとやり始める。
 よほど腹が減っていたらしい。

 「そういえば子供たちは?」

 麻由子の方を向く余裕もないまま、私は訊いた。

 「おばあちゃんち。って言うか肩の力抜きなよ。
 後で疲れちゃうよ」

 「う、うん……」

 年子の男の子と女の子。
 来年、下の子も幼稚園に行くんじゃないかな。
 麻由子の子供たちとは、何度か遊んでやったことがある。
 意思疎通ができる年頃になったからだ。

 ちなみに。
 とっくの昔にベビーではなくなった弟との関係は現在、大変良好である。
 生意気だが可愛い弟だ。
 また、麻由子の子供たちがベビーの頃、彼女と没交渉になっていたことは言うまでもない。

 意思疎通が可能か否かは、ベビー・アレルギーの発症に大きく関わるのだ。



 「ぐげぇ」

 ルナが盛大にゲップした。
 ゲップさせるのは麻由子に代わってもらった。
 ルナを抱き上げて背中を軽く叩く。手慣れてる。
 ルナを離した後も、ほんわりした感覚が腕に残るのが不思議だった。
 
 「まだ家にあって良かったわ」

 麻由子は、子供たちがベビーだった頃の品々を持ってきてくれた。
 ベビー布団や服、哺乳瓶など。
 粉ミルクや紙オムツは、ここに来る途中で購入してくれたらしい。

 ベビー布団に寝かせると、ルナは特に喋ることもなく眠ってしまった。

 「さてと」

 ソファに移って一息つくと、麻由子が怖い顔で迫ってくる。

 「で。本気なの? 赤ちゃん預かるなんて」

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