【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

文字の大きさ
15 / 130
第一章 九月の嵐

前途多難2

しおりを挟む
 私の体質を知る麻由子からすれば当然の疑問だが、さすがに真実は伝えられない。

  「て、手が空いてるの私だけなの。
 遠い親戚の子で、母親が病気なんだけどね」

 後ろ暗さから目線をさまよわすと、ソファの下に例の紙を見つけた。
 “三ヶ月後の審判”について書かれているやつである。

 こんな物を見せたら怪しまれてしまう……!

 足でそれを引き寄せ、手の中でグシャリとつぶす。
 
 「他に誰かいなかったわけ? 近い親戚とかさ。
 大体、あんた仕事探さなきゃならないでしょ」

 麻由子は、まだ難しそうな顔ののままだ。

 「ずっとって訳じゃないから。
 仕事も今、見つからないしさ」

 後ろ手で、ソファの座面と背もたれの間に紙をじ込む。
 とりあえず、ここに隠しとこう。

 「それにしても、着替えもオムツもなく赤ちゃんだけ寄越してくるなんて。
 非常識な親戚ね」

 麻由子は、眠ったルナを見やって腕組みする。
 痛いところを突かれた。
 ルナは肌着を一枚まとっていたのみ。
 預かったと言うには不自然だった。

 ちな因みに、私の親戚は非常識ではない。

 「なんか、絵美の親戚って感じ」

 友よ。どんな目で私を見てきた?
 ごめんなさい、親戚の人たち。私のせいです。

 「ま、まぁね。あははは」

 しかし、ここは話を合わせるしかない。
 顔を見られないように立ち上がり、冷蔵庫を開ける。

 窓から差す光が少し傾いてきた。
 部屋に一脚だけあるスツールが、影を伸ばし始めている。

 「こうなった以上、やるしかないわね」

 烏龍茶の入ったグラスを私から受け取り、麻由子は言った。

 「私も、できる限り協力するから」

 友よ……!
 やはり、持つべきものは育児経験のある親友である。
 ガバッと彼女に抱きついた。

 「ありがとう、麻由子! 頼りにしてる!」

 「ぅおっと……調子に乗らない!」

 麻由子は慌ててグラスを持ち直す。
 中身の烏龍茶は、かろうじてこぼれずに済んだ。

 ルナが「ひん」と短い声を上げる。
 いつもの調子で大きな声を出しすぎたか。
 二人して身構えたが、ルナはむにゃむにゃと手を動かして再び寝入ってしまった。
 
 「三ヶ月くらい?」

 麻由子は烏龍茶に少し口をつけ、今度は声を落とした。

 「へ? 私、その話したんだっけ?」

 「見りゃ分かるわよ。生後三ヶ月くらいかなぁって」

 「ああ、そっち? そうなんだ?」

 「そっちって何よ」

 しまった。
 “後の審判”が頭の中を占めすぎていた。
 案の定、麻由子は眉間を狭めて私をうかがっている。

 「な、何でもない! 三ヶ月……って聞いてる」

 麻由子に何か言われる前にそう言い、烏龍茶を一気に喉へ流し込んだ。
 ベビーには詳しくない。
 でも彼女が言うなら、ルナは生後三ヶ月なのだろう。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい

葉方萌生
ライト文芸
淡路島で暮らす28歳の城島朝香は、友人からの情報で元恋人で俳優の天ヶ瀬翔が島に戻ってきたことを知る。 絶妙にすれ違いながら、再び近づいていく二人だったが、翔はとある秘密を抱えていた。 過去の後悔を拭いたい。 誰しもが抱える悩みにそっと寄り添える恋愛ファンタジーです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
 ☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...