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第四章 続・十一月の受難
過ち3
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やっぱり。
冴子さんは頑なに悪い女であろうとする。
そんなの無理だ。
だって、どれだけ私とルナを気にかけてくれた?
そう思うと、鋭い目つきも怖くない。
「冴子さんをどう思おうと人の勝手でしょ」
反撃されると思っていなかったのか。
冴子さんは目を瞬かせた。
「……娘さんのところへ戻ったら、あの時逃げた自分を許すことになる。
だから、冴子さんは何もしなかったのね」
冴子さんが息を飲む気配がする。
意外と分かりやすい人だ。
「別にいいじゃない。
間違えた過去があって誰かに恨まれていたとしても、心から笑う一瞬があったってさ」
生きていたらいろんなことがあるんだ。
きっと、これからだって。
冴子さんの瞳が揺れた。
「ごめん、絵美ちゃん。
キツいこと言ってごめんね……ありがと」
泣き笑い。
仕事用の武装を解いた、いつもの冴子さんだった。
これで冴子さんの辛さが消えるわけじゃない。
どこかで暮らしてる娘さんが楽になるわけでもない。
もどかしくて、祈りたいような気分になる。
パーテーションの向こう側から、微かにルナの声がした。
機嫌が良いらしい。
冴子さんは、まだ涙の残る頰に微笑を浮かべて目を閉じた。
ルナの温もりを追うように。
それとも。
ずっとずっと時を遡って、娘さんの温もりを追っているのかもしれない。
出会ってから今までで、いちばんきれいな顔だと思った。
***
──どうなることかと思ったが。
──思えば、あれも不憫な子だ。
──つい情けが出たのが良くなかったか。
またあの夢だ。
霧の中で、得体の知れない者の声がする。
夢を見ているということは、私はあれから眠ったのか。
この夢はいつも不快だ。
霧の中は、前後左右や上下の感覚が分からないからだ。
繰り返し見る夢。
霧も不快感も、声も全て同じ。
いつも誰かを探している。
この夢が何を意味するのか、謎は深まるばかりであった。
しかし対処のしようはある。
といっても、じっと待つだけだが……。
声を追って無駄に動くと、頭痛が酷くなるのだ。
ああ、意識が薄れてきた。
夢の中で意識が薄れるというのも変な話だが、いつもこういう感じの時に目が覚め──。
「!?」
まだ夢の中か。
それくらい驚愕の事態が、至近距離にあった。
身動きが取れない。
あるものが覆いかぶさっているからだ。
二つの目が、じっと私を見つめている。
佐山が、お互いの息がかかるほどの距離で私を見つめていた。
冴子さんは頑なに悪い女であろうとする。
そんなの無理だ。
だって、どれだけ私とルナを気にかけてくれた?
そう思うと、鋭い目つきも怖くない。
「冴子さんをどう思おうと人の勝手でしょ」
反撃されると思っていなかったのか。
冴子さんは目を瞬かせた。
「……娘さんのところへ戻ったら、あの時逃げた自分を許すことになる。
だから、冴子さんは何もしなかったのね」
冴子さんが息を飲む気配がする。
意外と分かりやすい人だ。
「別にいいじゃない。
間違えた過去があって誰かに恨まれていたとしても、心から笑う一瞬があったってさ」
生きていたらいろんなことがあるんだ。
きっと、これからだって。
冴子さんの瞳が揺れた。
「ごめん、絵美ちゃん。
キツいこと言ってごめんね……ありがと」
泣き笑い。
仕事用の武装を解いた、いつもの冴子さんだった。
これで冴子さんの辛さが消えるわけじゃない。
どこかで暮らしてる娘さんが楽になるわけでもない。
もどかしくて、祈りたいような気分になる。
パーテーションの向こう側から、微かにルナの声がした。
機嫌が良いらしい。
冴子さんは、まだ涙の残る頰に微笑を浮かべて目を閉じた。
ルナの温もりを追うように。
それとも。
ずっとずっと時を遡って、娘さんの温もりを追っているのかもしれない。
出会ってから今までで、いちばんきれいな顔だと思った。
***
──どうなることかと思ったが。
──思えば、あれも不憫な子だ。
──つい情けが出たのが良くなかったか。
またあの夢だ。
霧の中で、得体の知れない者の声がする。
夢を見ているということは、私はあれから眠ったのか。
この夢はいつも不快だ。
霧の中は、前後左右や上下の感覚が分からないからだ。
繰り返し見る夢。
霧も不快感も、声も全て同じ。
いつも誰かを探している。
この夢が何を意味するのか、謎は深まるばかりであった。
しかし対処のしようはある。
といっても、じっと待つだけだが……。
声を追って無駄に動くと、頭痛が酷くなるのだ。
ああ、意識が薄れてきた。
夢の中で意識が薄れるというのも変な話だが、いつもこういう感じの時に目が覚め──。
「!?」
まだ夢の中か。
それくらい驚愕の事態が、至近距離にあった。
身動きが取れない。
あるものが覆いかぶさっているからだ。
二つの目が、じっと私を見つめている。
佐山が、お互いの息がかかるほどの距離で私を見つめていた。
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