【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

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第六章 最終章の、その先

エミィ。1

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 「これはまた不思議な」


 「ポトフに一手間加えてみたのよ」


 クリスマスイブの食卓に、一風変わった料理が並んでいる。


 「で、でもカワイイよ。ピンク色で。食べよ」


 少女は、向かい側の席についているパパとママを取りなすように言った。

 白い肌に薔薇色の頬。
 くるりとした瞳が利発そうに輝いている。


 「わぁ!」


 ピンク色の料理を口に運んだ少女は目を丸くした。


 「おいしいよ、エミィ!」


 「フフフ。今日は特別よ。明日はルナの誕生日だからね」


 一足遅れて、パパとママもスプーンを口へ運ぶ。


 「初めての味。でも美味しいわ」


 「いつも斬新だなぁ、エミィさんは」


 エミィは、ルナの家のハウスキーパーだ。

 ルナのママは、ちょっとだけ身体が弱い。
 だから、ママの負担が少しでも減るようにとエミィを雇っているのだ。
 エミィは、ルナが生まれる前からずっと、この家に通っている。

 エミィは滅多に料理をしない。
 今日はママがケーキを焼いてくれたので、夕飯はエミィの担当になったのだ。


 こんな時、エミィは決まって不思議なものを作る──。


 ルナは、料理が原因でエミィがクビにならないか、いつもハラハラしている。

 大好きなエミィ。
 ずっと傍にいてほしい。

 ルナの心配をよそに、エミィはころころと笑っている。



 ルナは、パパとママと同じくらい、エミィのことが大好きだ。

 もう一人のママみたいな、お姉ちゃんみたいな、仲良しのお友達みたいな。
 九歳のルナが知っている言葉には、どれも当てはまりそうで当てはまらない。

 ただルナは、エミィが傍にいてくれることが嬉しくてたまらないのだった。

 大好きなパパとママが、にこにこしながら「エミィさん」を頼っている。
 そんなところを見るだけで、嬉しくて笑いが込み上げる。


 空を飛んじゃうくらい。
 大声を上げて踊り回りたくなるくらい。


 ──ねえ! あたし、ものすごく幸せなの!


 世界中の人に、そう言って回りたいくらい。

 気がつくと、胸がきゅうっとして泣きそうになっている。
 悲しくないのにどうして泣きたくなるんだろう。ルナにはよく分からない。


 「エミィさん。ご主人は相変わらずお忙しいの?」


 ぼんやりしていたルナは、ママの声で現実に戻った。
 ピンク色の不思議な料理を口に運びながら、大人たちの会話に聞き耳を立てる。

 エミィのだんなさんは移動動物園というのをやっていて、色んなところを回っているのだ。
 ルナも、エミィに連れられて何回か行ったことがある。
 かわいい動物たちと触れ合えて、とっても楽しかった。


 「ええ。年末年始はお休みにするようだけど」


 「おじちゃんに会いたいよぅ」


 おヒゲの、優しいおじちゃん。
 ルナは、この人のことも大好きだ。


 「それ聞いたら、あの人も喜ぶわ」


 エミィは、にっこり笑ってルナの頭を撫でた。



 「見て見て、エミィ!
 ここのクリーム、あたしが塗ったんだよ!」


 みんな、ソファのあるリビングに移った。
 いよいよ、ママが焼いてくれたケーキを食べるのだ。
 飾り付けはルナもお手伝いした。

 エミィはにこにことルナの話を聞いてくれる。


 こうしてみんなが集まると、必ず話題に上がることがあった。
 ルナが生まれる前の、何度聞いても飽きないお話──。


 エミィが初めてここへ来た時、ルナはまだママのお腹の中にいた。

 その頃、パパとママは悩んでいた。
 赤ちゃんの名前が、なかなか決まらなかったのだ。


 「ルナ、とか」


 エミィの口からポロッと声が出た。


 「響きがかわいいなぁと思って、何となく言ってみただけだったのよ」


 でも、パパとママは、その名前をとても気に入った。


 「ビックリしたわ。本当にそのまま決まってしまうんだもの」


 「きゃははっ!」


 ルナは声を上げて笑った。
 この話の最後は、いつもみんなが笑って終わる。


 ルナの名付け親は、エミィだったのだ。


 嬉しいような恥ずかしいような気分。



 ルナ。
 大好きで、大切な名前──。
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