上 下
127 / 130
第六章 最終章の、その先

エミィ。2

しおりを挟む

 「小さかったルナが、明日には十歳か。早いなぁ」


 パパが、しみじみと腕組みする。


 「来年からプレゼントは二つがいいわ。誕生日と、クリスマス」


 ルナが調子の良いことを言うと、パパはルナの頭をわしゃわしゃとかき回した。


 「まとめて豪華にしてるだろう?」


 「そうよ。それに、おばあちゃんにも何か買ってもらうんでしょ?」


 きれいに切り分けたケーキをルナに差し出しながらママが言った。

 ルナは肩をすくめる。
 バレてたか。ママは鋭い。

 ルナのおばあちゃんは、駅前でかわいい喫茶店をやっている。

 ルナが生まれるずっと前は、お酒を出すお店だったらしい。
 ある時思い立って、喫茶店に改装したのだそうだ。

 おばあちゃんのお店のコーヒーは絶品なんだとか。
 まだ小学生のルナは、コーヒーの味なんて分からないけど。

 将来カレシができたら、いちばんにお店に連れて行くと約束している。
 
 明るくて、キレイでオシャレ。
 とてもおばあちゃんには見えないおばあちゃん。
 ルナの自慢だ。

 たくさんの、大好きな人たちに囲まれている。
 ルナは、今の生活が楽しくてたまらなかった。



 ***


 「子どもは夜更かししない! プレゼントが逃げちゃうよ」


 エミィが子供部屋までついて来て、パンパンと手を叩いた。

 でも、ルナには分かっている。
 大人は、絶対にプレゼントをくれる。

 これくらいでビビるほど子どもじゃない。
 まったく。みんな、いつまでも小さい子扱いするんだから。


 「はぁい」


 気のない返事と一緒にあくびが出た。


 「ほらぁ。ずっとはしゃいでたから疲れたのよ。さあ」


 確かにそうかも。
 ルナは、大人しく寝ることにした。

 ベッドへ潜り込むと、ごそごそとサルを探す。

 小さなぬいぐるみ。
 ふざけたような顔だけど優しそうにも見える。

 元の持ち主はエミィだ。
 いつも借りて遊んでいたのが、いつの間にかルナのものになっていた。

 たくさん遊んだからもうボロボロだけど、この子がいるとよく眠れる。
 大切な相棒だ。


 「おやすみ、ルナ。また明日ね」


 「うん……明日、ね」


 エミィの、少しカサカサした手がルナの頭をそっと撫でてくれる。
 心地良くて、既にトロンとしてきた。


 エミィは、いつからエミィなんだろう。

 
 ルナはもう大きいから、エミィの本当の名前を知っている。
 それを教えてもらったのは、ちょうど一年前のクリスマスだ。


 えーっと……。


 そのまま、ルナは深い眠りに手繰り寄せられていった。
しおりを挟む

処理中です...