〖完結〗陛下、溺愛されたら困ります。

藍川みいな

文字の大きさ
1 / 23

王女セリーナ

しおりを挟む

 「セリーナにそのドレスは似合わないわ。エレノアが着る方が、ドレスも喜ぶわね。脱ぎなさい。」

 モーラはメイド達に、セリーナが着ているドレスを脱がせるように言った。

 「これだけは許してください! これは、お母様の形見です!」

 「形見? 死んだ人の事なんて、どうだっていいじゃない。いつまでもあの女の事を言うのはやめなさい!
 気が変わったわ。そのドレス、燃やしてしまいなさい!」

 セリーナはドレスを無理やり脱がされた。

 「返してください! それだけは返して!!」

 必死にドレスを守ろうとするセリーナに、モーラは冷たい視線を向け、

 「私に逆らう気? そのドレス、この場で切り刻みなさい。」

 そう、メイド達に命令した。

 メイド達は躊躇いながらも、モーラに逆らう事が出来ず、ドレスをハサミでビリビリに引き裂いた。
 セリーナはビリビリになったドレスをかき集めて涙を流している。



 私は、セリーナ。18歳。
 この国、ビモード王国の王女です。私の母ローズは国民に愛されていました。
 18歳でこの国の王妃となり、20歳で私を産んですぐに亡くなった。
 父(ボーグ)は母が亡くなった一年後に新たな王妃、モーラを迎えました。その一年後、モーラは男の子(ジェイソン)と女の子(エレノア)の双子を産んだ。

 「あなたの母親は死んだのよ! いつまでも死んだ人の物なんか大事にしてるんじゃないわよ!!」

 王妃様は母の事になると、激怒します。いつも怒っていますが、母に対しては特別敏感なようです。それも、母が愛されていた王妃だったから。
 現王妃様は、国民に嫌われている。王室の財産を湯水のように使い、国民の事を考えるどころか、自分達さえよければいいお方。お世辞にも王妃に相応しいとは言えません。

 母は誰にでも優しかったそうです。いつも笑顔を絶やさず、民を慈しんでいた。
 私も母のようになりたいと、頑張って来ました。それが、王妃様は気に入らなかった。
 慈善活動をすれば偽善者と言われ、勉強をすれば国を乗っ取る気かと言われ、何もしなければ無能と言われ、自室から出る事も許されなくなりました。

 どうしてお母様は、私を残して死んでしまったの? 

 お母様がいてくれたら……何度、そう思った事でしょう。何度思っても、現実は変わらない。
 ここで生きていくしかありません。

 「いっそ、セリーナの物全部燃やしましょうよ! こんな女にドレスや宝石はもったいないわ。」

 今まで黙っていたエレノアが口を開いた。

 「お前なんて、メイド服でも着ていればいい。母上は王妃なんだぞ? 気を使えよブス。」

 ジェイソンもエレノアに続く。
 この人達は私を家族だなんて思っていないし、お父様も思っていない。
 お母様の形見はあのドレスだけでした。他は全部、お父様が処分してしまったから。
 着飾るつもりもないので、私の物を燃やしてしまっても構いません。
 今はもう慣れましたが、子供の時は本当に辛かった。お父様からも王妃様からも私だけ愛されない。
 ジェイソンやエレノアには笑いかけるのに、私とは目を合わせようともしないお父様に、いつしか期待する事をやめていました。

 「そろそろ支度しないと、遅れちゃうわ。」

 「暇なセリーナなんか構っていたせいだわ! お母様、急ぎましょう!」

 今日は、月一度の王国主催の舞踏会。
 私は一度も、出席を許された事はありません。

 「今日は大切な日だ! 俺達の婚約者を選ぶ日だからな!」

 舞踏会で、ジェイソンとエレノアの婚約者を決めるようです。いつもは私が着ているドレスなんて気にもしないのに、お母様のドレスを欲しがったのはこの為だったようです。
 愛する人を見つける為……ではなく、二人には大貴族の後ろだてを見つける事が目的。
 ジェイソンの王位継承権を守る為です。
 貴族達は、国民に愛されたローズの娘でクリフォード公爵家の血を引く私に、王位を継いで欲しいようです。
   
 「あなた達に相応しい婚約者を見つけなければ! セリーナはここで大人しくしていなさい。あなたにも相応しい相手を、私が見つけてあげるわ。」

 私に相応しい相手……早く結婚させて追い出したいだけなのは分かっています。
 

 王子と王女の婚約者を選ぶと知らせたのにも関わらず、この舞踏会でジェイソンにもエレノアにも婚約者は見つからなかった。
 理由は、大貴族であるどの公爵家も出席していなかったからです。
 

 そして翌日、私はデリターの国王の元へ嫁ぐように言われました。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

拾った指輪で公爵様の妻になりました

奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。 とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。 この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……? 「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」 公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。

【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました

綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ! 完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。 崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド 元婚家の自業自得ざまぁ有りです。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位 2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位 2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位 2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位 2022/09/28……連載開始

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...