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小国デリター
しおりを挟む「これは王命だ。」
お父様とお話したのは何年ぶりでしょう……
久しぶりに自室から出る事を許された私は、会議室に呼び出されました。
父と子の会話ではなく、ただ王命を伝えるだけの会話。それだけ伝えると、私の目を見ることなく去って行った。
「あなたには大切な役目があるの。この国は大国ナーガブルクに対抗する為に、新たな味方が必要なのよ。デリターはどこの国とも同盟を結んでいないから、同盟を結ぶのが目的よ。皆も賛成してくれるわよね?」
お父様が去り、残った臣下達に私が嫁ぐ理由を話す王妃様。私ではなく、貴族達を納得させたいようです。最もらしい理由を述べていますが、ジェイソンとエレノアに婚約者が見つからずに焦った王妃様は、私を一刻も早く追い出す事にしたようです。
私の物を燃やすと言っていたのに、それをしなかったのはこの為ですね。
手ぶらで他国の王に嫁がせるわけにはいかない……ただの見栄でしょうけど。
「……そうですか。」
「陛下がお決めになったのなら、仕方がありません。」
臣下達は納得したようです。お父様が決めた事に、私は従う。
「デリター王に嫁ぐのは、セリーナ様でなくてもよろしいのでは?」
ただ一人、お母様の父、クリフォード公爵は異議を唱えた。お祖父様も、私を愛しているわけではありません。クリフォード公爵家のために、私を女王にしたいだけです。
血が繋がった家族でも、誰も私を愛してはくれませんでした。
「確かに、エレノアでもいいのかもしれませんが、あの子は私が甘やかしたせいか、ワガママに育ってしまいました。デリター王は、気難しくて誰も信用しない厳しい方だと聞いておりますので、エレノアでは力不足なのです。分かってください。」
デリター王は変わり者だということは、この国でも有名な話でした。いつも仮面をしていて、国民にも、臣下にも、顔を見せたことがないという噂です。その事からも、誰も信用しないというのは本当の事でしょう。
ですが、最初からデリターと同盟を結ぼうなどとは思っていないはずです。お父様は、ナーガブルクと対抗しようなどとは思っていない。
先程、私が嫁ぐように言われる前に、お父様と王妃様が話していたのを聞いてしまいました。
『この国の大貴族が無理なら、ナーガブルクの王家と婚姻させよう』と言っていた。
ジェイソンかエレノアの事でしょう。ナーガブルクと敵対するつもりなんて全くなかった。
邪魔者の私を、排除する為に皆まで騙すなんて……
全て分かっていて、お父様の命に従うつもりです。そんなに私が邪魔なら、いなくなって差し上げます。
1週間後、私はデリター王国へと出発した。
馬車に揺られながら、初めてこの国をゆっくり見る事が出来ました。ずっと王城に閉じ込められていた私は、この世界がこんなにも広いのだと知った。この国を離れる事になって初めて、この国を見る事が出来るなんて皮肉ですね。
この国で生まれ育ったのに、良い思い出が全くありません。心残りがあるとすれば、民の為に何も出来なくなったことです。
そういえば、なぜデリター王は私を妻に迎える事に同意したのでしょうか? 面識はありませんし、王城から出る事が許されなかった私を知っているとは思えません。デリター王は、本当に同盟を結ぶおつもりなのでしょうか? だとしたら、申し訳ないです。私のような厄介者を押し付けられただけですから。
********************
「セリーナ様、到着致しました。」
デリター城に到着すると、執事やメイド達が出迎えてくれた。そして、デリター王も姿を現した。
やっぱり仮面をしているのですね……
真っ白な仮面をしたデリターの王、ビンセント様。
「セリーナ王女、我が国デリターへ良く来てくれた。」
「お出迎え、ありがとうございます。不束者ですが、よろしくお願いします。」
ビンセント様がどんな方だろうと、私は彼に尽くす事に決めました。
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