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ビンセント王
しおりを挟むデリター王国へ来て一週間が経ちました。結婚式は三週間後に行われます。
それまでは、この国について勉強するように言われました。この国、デリター王国はビンセント様が王位についてからは、小国ながら大国に負けた事がない不思議な国です。
ビンセント様はお忙しい方で、出迎えてくれたあの日からお会いしていません。
ですが、ビモードに居た時とは違い、虐げられる事もなく平穏な日々を過ごしています。
「セリーナ様、贈り物が届いております。」
メイドが運んで来た贈り物は、宝石や絹の織物などの高価な物ばかりでした。
「これは……どなたから?」
「ヒルダン公爵様から、結婚のお祝いとの事です。」
結婚のお祝い? これはどう見ても、賄賂なんじゃ……
この事からも、ビンセント様が他の貴族を信用していないことが分かります。私に賄賂を渡して、ビンセント様に取り入りたいのですね。
どの国の貴族も、民よりも地位や名誉が大切なようです。
「全部、お返ししておいてください。」
「え……でも、こんなに沢山の宝石を返してしまうのですか!?」
こんな高価な物、受け取るわけにはいかない。
私が受け取った事で、ビンセント様に迷惑がかかるかもしれないもの。
ただでさえ、私は何の役にも立たないのだから、せめて迷惑をかけないようにしないと。
「私への贈り物は、全てお断りしてください。結婚のお祝いは、言葉だけで十分ですと伝えておいて。」
私に贅沢な物は必要ない。
こんな事にお金を使うなら、民の為に使ってあげたらいいのに。
贈り物を返した事で、ヒルダン公爵は激怒していたそうですが、怒られる事には慣れているので平気です。
「お待ちください!」
なんだか部屋の外が騒がしい。
そう思っていたら、ノックもなしに突然部屋のドアがバンッと開き、50歳位の割腹のいい男性が入って来た!
「あなたがセリーナ様ですか?」
きっとこの方は、ヒルダン公爵でしょう。
「そうです。」
「私が差し上げた贈り物を送り返すとは、どういう教育を受けてきたのですか!? ビモード王国の王女は、礼儀を知らないとみえる。」
礼儀を知らないのは、どちらでしょうか……
「申し訳ありませんが、私は教育を受けてはいません。一人で学びました。
ですので、教えて頂けますか? 他国の王女で陛下の婚約者である私の部屋にノックもなしに入ってくるのは、礼儀知らずではないのでしょうか?」
「な!? なんだと!?
お前は人質のようなものだ! まだ王妃でもない小娘が偉そうに!!」
人質ですか……それは残念ですね。
私には人質としての価値なんてありません。
むしろ、お父様達は私が死ぬ事を望んでいるかもしれませんね。
ビンセント様なら、私に人質としての価値なんてない事は知っているでしょう。
「まだ王妃ではありませんが、もうすぐ王妃になります。私を利用する為に、たくさんの贈り物をくださったのですよね? 申し訳ありませんが、どんなに贈り物をくださっても、私はあなたのお役に立つつもりはありません。お引き取り下さい。」
笑顔を作って丁寧にお断りしました。
ですが、分かっていただけなかったようで、さらに怒らせてしまいました。
「お前は王妃に相応しくない! この国から出て行け!!」
ヒルダン公爵は右手を振り上げ、
殴られる!!
そう思った瞬間……
「私の婚約者に、何をしている?」
怒りを含んだ声が聞こえた。
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