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結婚式
しおりを挟む声の主はビンセント様でした。
メイドが呼んできてくれたみたいです。
ビンセント様の声に、ヒルダン公爵は振り上げた右手を素早く下げて、何もなかったような顔をした。
「陛下! お越しでしたか!
私は王妃様に挨拶をしに来たんです!」
すごい演技力ですね!
さっきまで激怒していたヒルダン公爵は、ものすごい笑顔を浮かべています。
「嘘をつくくらいなら、最初からやるな。国の恥晒しが。今すぐ出て行け。」
「し、失礼しました!」
あんなに怒っていたヒルダン公爵が、一瞬で大人しくなり、一目散に逃げていった。
ビンセント様が相当怖いのでしょうか……
「ありがとうございました。」
「言っておくが、君を庇ったわけではない。だが、君のとった行動は評価している。ヒルダンはどうしようもないクズだからな。」
それだけ言うと、すぐに部屋を出て行ってしまいました。
庇ってくれたのではなくても、結果的に庇っていただきました。それで十分です。
結婚式が翌日に迫っても、あれ以来ビンセント様にはお会いしていません。
きっと結婚してからも、必要以上に会うことは出来ないのだと思いました。
ビンセント様に尽くすと決めたのに、肝心のビンセント様に会えないなんて……
結婚式当日
盛大な結婚式を挙げると思っていたのですが、教会で質素に式を挙げただけでした。
列席者は臣下数人で、あっという間に終わった。
その後は、国民達に王妃のお披露目を数分しただけで、私はこの国の王妃になりました。
お父様が来てくれるなんて期待はしていませんでしたが、ビモードからは誰一人来ていなかった。
お祖父様にも、見捨てられたようです。
ビモードの貴族が誰一人出席しなかったという事は、同盟の話がなかった事を知ったようです。
今更、結婚式を取りやめるなんて出来ないと思った貴族達は私を捨てた。
正直、これで楽になりました。政治の為に、私を利用したかったのは分かっていました。
私はきっと、誰からも愛される事はないと、思い知らされたような気がします。
結婚式が終わると、ビンセント様が部屋にいらっしゃいました。
「期待外れの結婚式ですまなかった。」
「いいえ、盛大な結婚式じゃなくてホッとしました。ですが、私なんかで良かったのでしょうか?」
ビモードに捨てられた私が王妃になっても、何の役にも立たない。私には何の価値もないと思い知らされました。
「何を気にしているのかは知らないが、ビモードとの同盟の事を言っているなら、最初からそんな気はない。
ビモードの王から、君を妻に迎えて欲しいと言われ、この国の貴族から妻を迎えるよりはマシだと思っただけだ。」
それはつまり、私はただのお飾りということですね。
「それなら安心しました。」
私はビンセント様に笑顔を向けた。
「安心?」
「どうして私との婚姻を受け入れたのか、ずっと考えていたんです。そのような理由でしたら、私でも良かったのだと安心したのです。」
「……君は、変わってるな。」
呆れられたでしょうか……
必要とされていないのなんて慣れています。それなら、必要とされるように頑張ればいいだけの事です。
「陛下、お願いがあるのですが……」
私はビンセント様に、街へ行きたいとお話ししました。ビンセント様の答えは、『私に迷惑かけないなら、君が何をしようとかまわない。好きにしろ。』との事でした。
これでも王妃です。私は私なりに、民に寄り添いたいと思います。
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