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街へ
翌日、私は平民の服に着替え、街に出かけることにしました。
服はビモードにいた頃に、こっそりメイドに用意してもらったものです。
いつかこの服を着て、ビモードを出て行くつもりでした。まさか、こんな風に使う事になるとは思ってなかったけど、役にたちました。
「王妃様……その格好はなんなのですか!?」
お茶を運んできたメイドが、私の格好を見て目を丸くしている。
「似合うかな? どっから見ても、平民に見えるでしょう?」
くるりと回って見せた。
「お、お似合いとはいえませんが、どうしてそのような格好をなさっているのですか!?」
結構はっきり言うのね……
「これから街に行こうと思うの。」
「まさか、おひとりで行かれるおつもりだったのですか?」
「そうだけど……ダメ? 陛下が好きにしていいと仰ってくれたから。」
「ダメです! 陛下がなんと仰ろうと、王妃様おひとりで街へ行かれるなんて有り得ません!
セリーナ様は、この国の王妃様だということをお忘れなく!」
メイドに怒られてしまった……
ビモードにいた頃は、街に出ることが許されなかったから、そこまで気が回らなかった。というより、ひとりで出かけたかったからかも。
「護衛の者と私が、ご一緒致します。」
街へは、メイドのシルビアと、護衛5人が同行することになりました。
「シルビア以外は、出来るだけ離れていて欲しい。」
そう言うと、護衛達は少し離れて護衛してくれました。
街を見るのは、馬車でこの国へ来た時以来です。見るもの全てが新鮮です。
「この国はとても賑わっているのね! 街に出たら、こんなにワクワクするなんて思ってなかった!」
色々なお店があって、皆が楽しそうに買ったり売ったりしてる。私がいた世界が、あんなにも狭かったのだと思い知らされました。
「王妃様……」
「それはやめて! 今は、セリーナって呼んで!」
「……セリーナ様、ビモード王国の方が賑わっていますよね? あまり街に出かけた事がなかったのですか?」
「一度も出たことがなかったの。この国に来た時に、城の外に出たのが初めてよ。」
シルビアは、それ以上何も聞かなかった。
きっとこの国でも、ビモードの王妃様が私を嫌っている事は知られていたのでしょう。
「あそこに出来てる行列は何?」
街の中に大きな建物があり、その建物から続いている行列が道にまで続いていた。
「あそこは、仕事を探す為の施設になります。仕事がなくて困っている民に、仕事を世話するところです。」
しばらく街を見回った後、この国は素晴らしいと思いました。
民の為の施設が街には沢山あり、お金がない家の子供達が通える学校もありました。
ビンセント様自身の事はあまり良く知りませんが、この街を見たらビンセント様がどんなに素敵な方なのかが分かりました。
それでも、仕事を探す為の施設にはあんなに行列が出来ている。飢える民が、沢山いるということです。並んでる人達は、順番が来るまで何日も待っているそうです。そこまでして、仕事を見つけなければならないということです。
親が並んでいる間、子供達は近くに座り、順番を待っている。お腹が空いているのか、疲れているのか、目が虚ろで……とても見ていられませんでした。
「シルビア、これを売りたいんだけど……」
焼かれるはずだった宝石を取り出し、シルビアに渡した。
「これをですか!? 売らなくても、セリーナ様用のお金がありますよ?」
「いいえ、そのお金は使わなくていいわ。私には宝石なんて必要ないから。」
宝石や宝飾品は、全てお父様から頂いたものです。といっても、執事が毎年誕生日にお父様からだと言ってくれた物。
執事が選んで執事が買ってきてくれていたのを知っています。お父様は私になんて、関心がありませんでしたから……
執事も私の為に……ではなく、私がお母様の娘だからでした。それでも、唯一誕生日を覚えてくれていたのは執事だけでした。
宝石をお金にかえ、パンや果物を大量に買い、待っている子供達と行列に並んでる人達に配って行った。
「ありがとうございます!」
「子供達だけでなく、私達にまで……感謝します!」
喜んでもらえて良かった。
王女として生まれたのに、ビモードでは民の為に何も出来なかった。
この国で民の為に役に立てる事をしたいと、心の底から思いました。
それから毎日施設や孤児院を周り、食料を配った。だけど、宝石はいつかなくなってしまう。
そこで考えたのは、野菜を育てることでした。
今は温室は使われていないと聞きました。昔は、沢山の花を育てていたそうなのですが、ビンセント様は花がお嫌いなようで、使われなくなったそうです。
「陛下、お願いがあります。」
「……よく頼み事をするな。言ってみなさい。」
「温室を使わせていただきたいのです。」
「温室を? 使っていないのだからかまわないが、いったい何に使う気だ?」
「野菜を育てたいのです!」
ビンセント様は、不思議そうな顔をしている。
「野菜が好きなのか?
まあ、好きに使いなさい。」
「ありがとうございます!」
ビンセント様の許可をもらい、温室で野菜を育て始めました。野菜が育つ頃までは、何とか資金が持ちそうです。
野菜が出来たら、小麦粉と交換してパンを作ろうと思います。その日から、城の厨房でパン作りを習う事にしました。
「王妃様がパンを作るのですか!?」
料理長に、パンの作り方を教えて欲しいと言ったら、かなり驚かれましたが、シルビアが料理長を説得してくれました。
「王妃様は、やると決めたら絶対にやるお方です。教えないと、料理長がいない間に厨房が大変な事になりますよ。大人しく教えて差し上げてください。」
シルビアはなんだかんだ言いながら、あの日からずっと私に付き合ってくれています。そろそろ私の性格が分かって来たようです。
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