〖完結〗陛下、溺愛されたら困ります。

藍川みいな

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変わり行く気持ち―ビンセント視点―

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 妻として、ビモード王国の王女を迎える事になった。妻など私には必要ないが、王妃の座を空けとくわけにはいかない。
 この国の貴族の娘を王妃にしてしまうと、権力をその貴族に与えてしまうことになりかねない。
 そう思った私は、ビモード王国の王女セリーナと婚姻する事にした。
 だが、セリーナの情報がほとんどない。セリーナを産んですぐに亡くなった前王妃ローズは、国民から愛されていたと聞く。その娘のセリーナは、血の繋がらない現王妃が自室から出る事を禁じ、限られた人間しかセリーナを見たものがいない為、どのような人物なのか全く検討もつかなかった。もしも、セリーナが貴族達と同じ考えを持っていたらと思うと頭が痛い。
 
 婚姻の承諾をして直ぐに、セリーナはデリターへとやって来た。

 「陛下! 大変です!! セリーナ様のお部屋に、激怒なされたヒルダン公爵が……」

 ヒルダンが激怒?
 元々気が短いやつだが、いきなりセリーナに激怒するとはどういうことだ?

 「なぜそのような事になったのだ!?」

 「実は……」



 メイドの話を聞いて、すぐにセリーナの部屋へと向かう。贈り物を全て返してしまうとは……彼女の度胸には驚かされる。
 全く知らない他国で味方も誰もいないのに、いきなり公爵家を敵に回すとはやってくれる。
 だが、彼女を王妃にしたのは間違っていなかったと確信した。

 セリーナの部屋に着くとドアが開け放たれていて、中から声が聞こえて来た。

 「まだ王妃ではありませんが、もうすぐ王妃になります。私を利用する為に、たくさんの贈り物をくださったのですよね? 申し訳ありませんが、どんなに贈り物をくださっても、私はあなたのお役に立つつもりはありません。お引き取り下さい。」

 笑顔で断る姿が、なんだか可愛らしい……

 「お前は王妃に相応しくない! この国から出て行け!!」

 ヒルダンは右手を振り上げた!
 まさか、殴る気か!?

 「私の婚約者に、何をしている?」

 私は思いのほか怒っていたようだ。

 「陛下! お越しでしたか! 
 私は王妃様に挨拶をしに来たんです!」

 右手を素早く下げれば見えていなかったとでも?
 白々しい嘘をつくこんなやつが公爵だとは……

 「嘘をつくくらいなら、最初からやるな。国の恥晒しが。今すぐ出て行け。」
 
 「し、失礼しました!」

 すごい勢いで逃げて行くヒルダン。そのまま二度とセリーナに近付くな。

 「ありがとうございました。」

 「言っておくが、君を庇ったわけではない。だが、君のとった行動は評価している。ヒルダンはどうしようもないクズだからな。」 

 どの国の貴族も王族も変わらないと思っていたが、彼女は少し違うようだ。



******************


 
 結婚式が終わり、セリーナの部屋に訪れた私に、セリーナがお願いがあると言ってきた。
 どんな願いかと思えば、街へ行きたいとの事だった。セリーナがビモードにいた時は、自室から出る事さえ出来なかったのだから、街へ行きたいと思うのは当然の事かもしれないと思い、許可したのだが……理由はそれだけではなかったようだ。
 自分の宝石を金にかえ、施設に並ぶ民の為に食料を配っているそうだ。
 この国の財産を使わぬように、彼女は温室で野菜を育て始めた。私には思いもつかなかった事を、彼女はいとも簡単にやる。
 


 ある日、朝食のパンの味が変わった。
 不思議と優しい味がして、心が癒される。
 このパンは、セリーナが焼いたものだった。まさか、パンまで焼いていたとは。
 理由は何となくわかる。野菜を育て、その野菜を小麦粉にかえ、自分でパンを焼き、民に配るためだろう。彼女のやる事がわかるようになって来た。
 国民に愛されていくセリーナ。そして私も、例外ではなくなっていた。

 初めて会った時は、こんな気持ちになるとは思いもしなかった。いつだって前向きで、民の為に毎日忙しくしている姿を見ていると、こんなに素敵な人はいないと思えた。
 あんなに忙しい毎日を、彼女は幸せだと言った。自分はずっと虐げられていたのに、他人を思いやれる彼女を尊敬している。

 私はセリーナを、愛している。


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