8 / 23
認められる存在
しおりを挟む「パン作りの腕を上げすぎではないか?」
朝食をとりながら、ビンセント様が驚いています。
「愛情たっぷり込めているから、美味しくなってくれるのだと思います。」
「……ん?」
あ! この言い方だと、ビンセント様に愛情たっぷりみたいですね……
「このパンは国民の為に作っているので、皆さんが笑顔で美味しいと言ってくださる顔を思い出しながら愛情たっぷり込めているのです。」
「……私にはついでか。」
あー!!
これでは、ビンセント様のパンがついでになってしまいましたね……
「もちろん、ビンセント様の顔も思い浮かべています!」
「……この仮面の顔をか?」
話せば話すほど、ビンセント様を不快にさせてしまっているようです。
「確かに、仮面でお顔は見えませんが、目は見えますし口も見えます。
陛下がパンを食べてくださる時、幸せそうな目をしてくださいます。私はその目が、大好きです。」
あれ?
これって、告白みたいになってる?
「あの……陛下は、私にとって唯一の家族だと思っています。だからあの……」
「いいわけぜずともよい。家族……か。いいものだな。」
ビンセント様は、どこか寂しげな目をしていました。もしかしたら、ビンセント様も家族と何かあったのでしょうか……
「この先ずっと、私は陛下の家族です。もしも辛いことがあったとしても、ずっとおそばに居ます。」
妻として、家族としてビンセント様をお支え出来るようになりたいと思っております。
ビンセント様が私をお飾りだと思っていても、私はあなたとこの国の為に全力を尽くしたい。
これまでの18年間、私は何もしてこなかった。何かしてはいけないと言い訳して、逃げていただけなのだと気付きました。それを気付かせてくれたのはビンセント様です。
貴族達に嫌われようと、民の事を想っていらっしゃるビンセント様を尊敬致します。
「……ありがとう。」
「ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「陛下は誰も信用出来ないから、仮面をつけて素顔を隠していると今までは思っていたのですが、国民を信用していないとはとても思えません。どうして仮面をしていらっしゃるのですか?」
ビンセント様はしばらく考えた後、口を開いた。
「私の顔には、幼い頃に父に付けられた大きな傷がある。その傷を、見せたくないのだ。」
お父様にって……虐待!?
きっとビンセント様は、顔の傷よりも心の傷の方が大きいのでしょう……
「辛い事を聞いてしまい、申し訳ありません。
一つだけ言わせてください。陛下にどんな傷があろうと、私は陛下の味方です。
それだけは、忘れないでください。」
人を傷付けても、何とも思わない人がいる事を知っています。ビンセント様がどんなに傷付いてきたのかは、私には分かりませんが、ビンセント様の心を軽くして差し上げることは私にも出来るはずです。
「君は本当に変わっているな。
この仮面をつけた私を、不気味だとは思わないのか?」
「不気味だとは思いませんが……悲しい感じがしました。」
真っ白な仮面のはずなのに、たまに涙が流れてるように見える時があります。
「前に、この国の貴族から妻を迎えるよりはマシだと言った事を覚えているか?」
「はい。」
「あれは撤回する。
この国の王妃が、君で良かった。」
私で良かったなんて、生まれて初めて言われました。いつだって、ローズの娘としてしか見られたことがなかった。
これからも、そう思っていただけるような存在でいたいと思いました。
67
あなたにおすすめの小説
婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました
Blue
恋愛
幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
拾った指輪で公爵様の妻になりました
奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。
とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。
この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……?
「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」
公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。
【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました
綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ!
完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。
崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド
元婚家の自業自得ざまぁ有りです。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位
2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位
2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位
2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位
2022/09/28……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる