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認められる存在
「パン作りの腕を上げすぎではないか?」
朝食をとりながら、ビンセント様が驚いています。
「愛情たっぷり込めているから、美味しくなってくれるのだと思います。」
「……ん?」
あ! この言い方だと、ビンセント様に愛情たっぷりみたいですね……
「このパンは国民の為に作っているので、皆さんが笑顔で美味しいと言ってくださる顔を思い出しながら愛情たっぷり込めているのです。」
「……私にはついでか。」
あー!!
これでは、ビンセント様のパンがついでになってしまいましたね……
「もちろん、ビンセント様の顔も思い浮かべています!」
「……この仮面の顔をか?」
話せば話すほど、ビンセント様を不快にさせてしまっているようです。
「確かに、仮面でお顔は見えませんが、目は見えますし口も見えます。
陛下がパンを食べてくださる時、幸せそうな目をしてくださいます。私はその目が、大好きです。」
あれ?
これって、告白みたいになってる?
「あの……陛下は、私にとって唯一の家族だと思っています。だからあの……」
「いいわけぜずともよい。家族……か。いいものだな。」
ビンセント様は、どこか寂しげな目をしていました。もしかしたら、ビンセント様も家族と何かあったのでしょうか……
「この先ずっと、私は陛下の家族です。もしも辛いことがあったとしても、ずっとおそばに居ます。」
妻として、家族としてビンセント様をお支え出来るようになりたいと思っております。
ビンセント様が私をお飾りだと思っていても、私はあなたとこの国の為に全力を尽くしたい。
これまでの18年間、私は何もしてこなかった。何かしてはいけないと言い訳して、逃げていただけなのだと気付きました。それを気付かせてくれたのはビンセント様です。
貴族達に嫌われようと、民の事を想っていらっしゃるビンセント様を尊敬致します。
「……ありがとう。」
「ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「陛下は誰も信用出来ないから、仮面をつけて素顔を隠していると今までは思っていたのですが、国民を信用していないとはとても思えません。どうして仮面をしていらっしゃるのですか?」
ビンセント様はしばらく考えた後、口を開いた。
「私の顔には、幼い頃に父に付けられた大きな傷がある。その傷を、見せたくないのだ。」
お父様にって……虐待!?
きっとビンセント様は、顔の傷よりも心の傷の方が大きいのでしょう……
「辛い事を聞いてしまい、申し訳ありません。
一つだけ言わせてください。陛下にどんな傷があろうと、私は陛下の味方です。
それだけは、忘れないでください。」
人を傷付けても、何とも思わない人がいる事を知っています。ビンセント様がどんなに傷付いてきたのかは、私には分かりませんが、ビンセント様の心を軽くして差し上げることは私にも出来るはずです。
「君は本当に変わっているな。
この仮面をつけた私を、不気味だとは思わないのか?」
「不気味だとは思いませんが……悲しい感じがしました。」
真っ白な仮面のはずなのに、たまに涙が流れてるように見える時があります。
「前に、この国の貴族から妻を迎えるよりはマシだと言った事を覚えているか?」
「はい。」
「あれは撤回する。
この国の王妃が、君で良かった。」
私で良かったなんて、生まれて初めて言われました。いつだって、ローズの娘としてしか見られたことがなかった。
これからも、そう思っていただけるような存在でいたいと思いました。
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