〖完結〗陛下、溺愛されたら困ります。

藍川みいな

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ビンセント王帰還

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 ビモードの国王、王妃、王子、王女が逃げた事で、臣下達はすぐに降伏し、ビンセント王に城をあけ渡した。
 今まで、国王らしいこともしてこなかった王に、国の財産を使いまくった王妃達。
 真っ先に自分達だけ逃げたのだから、ボーグに忠誠を誓うものなど誰もいなかった。

 「ビンセント王、私はデイブ・クリフォード、セリーナの祖父です。」

 クリフォード公爵は、ビンセント王に媚びる気のようだ。

 「存じています。セリーナを利用しようとして、利用価値がなくなったら見捨てた方ですよね。」

 「それは……ッ!!」

 結婚式に姿を現さなかったのだから、言い訳のしようもない。

 「私はあなたも罰したいくらいですが、我慢しているのが分かりませんか? 
 さっさと私の前から消えろ。」

 地の底から聞こえてくるような、怒りのこもった声に、ビンセント王の怖さをあまり知らなかったクリフォード公爵でも、あまりの恐怖に絶句し、そそくさと逃げて行った。

 「この国は、我がデリターの属国になる。次の国王は、セルビン公爵に任せる。」

 セルビン公爵は、前国王の甥にあたる。
 公爵とは名ばかりで、田舎の小さな邸に軟禁されていた。理由は、神童と呼ばれていたからだった。
 ジェイソンを王位につかせる為には、セルビンは邪魔だった。こうして、邪魔なものを排除してきた。もう、そんな事は出来ない。
 逃げられはしたが、すぐに見つかるだろう。何故なら、前国王達を国民は皆嫌っているからだ。誰も助けようとはしないはず。それどころか、見つけたら捕らえてくれるだろう。
 そしてそれは、すぐに現実になった。

 「陛下! 王都より西の街で、ボーグ、モーラ、ジェイソン、エレノアの4名を捕らえたとの事です!」




 ―1日前―

 「お母様……お腹空いた……」
 
 「どうして俺達がこんな目に……
 全部あのブスのせいだ!!」

 「セリーナは、この国にいる間に殺しておくべきだったのよ! 陛下が、デリターになんて嫁がせたからこんな事になったのよ!!」

 「いい加減にしろ! どれだけお前達のワガママを聞いてきたと思っているんだ!?
 お前達さえいなければ、こんな事にならなかった!!」

 城から逃げ出して1週間。馬車が壊れ、食べるものもなく、ケンカばかりしていた。
 馬車が壊れた時、唯一着いてきた臣下からも見捨てられ、途方に暮れていた。

 「ねえ、あれ……逃げた国王達じゃない!?」
 「絶対そうよ! 最後まで、自分達の事しか考えなかったクソな連中よ!!」
 「捕まえろ! セリーナ様を暗殺しようとした奴らだ! 」

 国民達は、4人を袋叩きにした。

 ガッ! ドガッ!! バシッ!!! ボガッ!!!

 「痛い……やめて……」
 「お前達、俺はこの国の王子だぞ……ッ……」
 「汚い手で触らないで!! 私は王妃よ! ……ッ……」
 「…………グッ…………貴様ら! 私を誰だと……」

 ガッ!! ドガッ!!!

 「もうやめろ。死んでしまったら、セリーナ様に償えないだろ。」
 「そうね。殴ったくらいで死んでもらったら困るわ。デリターの王様に知らせましょう!」

 こうして4人はビモード国民の手により、ビンセント王へと引き渡された。





 「酷くやられたな。まあ、自業自得だがな。」

 4人の腫れ上がった血まみれの顔を見て、ビンセント王はこれが報いなのだというように鼻で笑った。
 国民を蔑ろにし、実の娘まで手にかけようとしたボーグ。
 セリーナを18年間虐げ、命まで奪おうとしたモーラ。
 無能なくせに王になろうとし、セリーナを苦しめ、殺そうとしたジェイソン。
 貴族や国民に愛されるセリーナを心底嫌い、何もかも奪おうと考え、一番に殺す事を考えたエレノア。
 見下していたセリーナに執着し続けた結果が、今の状況を生んだ。

 「貴様ッ!! 私を誰だと思っているんだ!?
 この手枷を外せ!! 私はビモードの国王だぞ!!」

 ボーグはまだ歯向かう元気があるようだ。
 国民を捨てて真っ先に逃げておいて、どの口が言っているのだろうか……

 「無礼者!! 罪人が陛下にそのような口を聞くな!!」

 手枷をグイッと引っ張られながらも、ビンセント王を睨みつける。

 「お前が本当に、セリーナの父親なのか? お前のような者から、なぜあんなにも純真な娘が生まれたのか……」

 「セリーナは純真などではない!! あの子は悪魔だ!! 私の愛するローズを殺した悪魔だっ!!」

 ボーグはローズ以外、どうでもよかった。ローズさえいてくれたら、それだけで幸せだった。そのローズを奪ったセリーナを、自分の子だなどと思っていなかった。

 「……お前達には、何を言ってもムダだったな。反省する事もないのだから、それ相応の刑に処す!!」

 ボーグ、モーラ、ジェイソン、エレノアは、この場での公開処刑を言い渡された。
  
 「嫌よ! 死にたくない! 私は何もしていないわ! お母様が、セリーナを殺そうと言い出したのよ!!」

 最初に殺そうと言い出したのはエレノアだが、自分だけは助かりたくて必死だ。
 
 「私を裏切る気!? 生んで育てた恩を忘れるなんて、あんたなんて生まなきゃ良かった!!」

 娘や息子を庇う気のないモーラ。

 「そもそも、母上がセリーナを嫌っていたんじゃないか! 俺は母上に合わせていただけだ!!」

 セリーナの名前を呼ぶ事よりも、ブスと呼ぶことの方が多かったジェイソン。

 「私は間違っていない!! セリーナさえ、生まれなければこんな事には……」
 
 最後まで、娘を愛することのなかったボーグ。

 「刑を執行する!!」

 「助けてーーーッ!!!!」

 シュバッッッッッ!!!!

 「「「ギャーッッッ!!!」」」

 執行人の合図で、順番に首が切り落とされていく……

 まずはエレノア、そしてジェイソン……
 死の恐怖が襲ってくる。
 その後は王妃、最後にボーグ。

 4人の首が斬り落とされ、ビンセント王の復讐は終わった。

 悲惨な最後だったが、誰一人として同情するものなどいなかった。それどころか、これでこの国が平和になると皆が思っていた。
 デリター王国の属国にはなったが、ビンセント王は王都に進軍していた時、民を手にかけることはなかった。民達も、セリーナが王妃になったデリターに抵抗しなかった。
 ビモード国民は、ビンセント王とセリーナ王妃を信じたのだ。
 
 デリターに進軍していたビモードの兵士達は何もせずに帰還し、新たな王に忠誠を誓った。


 そして刑の執行を見届けたビンセント王は、愛するセリーナの待つデリター王国へと帰還した。

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