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セリーナへの想い
しおりを挟むデリター王国へと戻って来たビンセント王は、すぐにセリーナの元に向かった。
セリーナが横たわるベッドの側にあるイスに座り、まだ目を覚まさないセリーナを見つめながら、そっと仮面を外した。
「まだ死ぬなんて許さない。君に私の素顔を見せていないではないか。
もう私は、君なしでは生きていけない……だから、責任を取ってくれないと困るんだ。」
セリーナの手を握り、涙を流す。
「……………………どうして、泣いているのですか?」
「ッ!!!!」
セリーナは意識を取り戻した。
「セリーナ……セリーナ……セリーナ……っ」
ビンセント王は何度も名を呼ぶ。
「そんなに呼ばなくても、聞こえています。ビンセント様。」
仮面をしていないのに、すぐにビンセント様だと分かりました。
「君こそ、私を名前で呼んでいるではないか。」
「……本当ですね。夢の中で、ずっとビンセント様のお声が聞こえていて、何度もビンセント様のお名前を呼んでいたんです。でも、全然届かなくて……やっと届きました。」
私はどれくらい眠っていたのでしょうか。
ビンセント様が、こんなに心配してくださるなんて……
「君に、謝らなければならない事がある。」
ビンセント様の謝らなければならない事とは、私の父ボーグを処刑した事でした。
私が倒れてから色々な事があったようで、ビンセント様はビモード王国を属国にし、お父様も王妃様もジェイソンもエレノアも処刑された。
「君の意見も聞かず、勝手な真似をしてすまない。」
「どうして謝るのですか? 父はこの国を……ビンセント様の国を乗っ取ろうとしました。
ビンセント様がした事は、当然の事です。」
きっとビンセント様は、お父様の本心を聞いたはず。私を娘だとは思っていないとハッキリ言ったはず。だけど、その事を隠そうとなさっているのが分かります。
「私の家族は、ビンセント様です。
そして、シルビアや臣下達。デリター王国の全ての国民。私には、こんなにたくさんの家族と、私を想って涙を流してくださる優しい夫がいます。」
ずっと誰からも愛される事なんてないと思っていました。ビンセント様が、私の人生を変えてくれた。
「……セリーナ、愛している。」
……今、なんて?
家族として……では、ないですよね……
「あの……ビンセント様? 今、愛していると?」
「そうだ。何度でも言ってやる。私は、セリーナを愛している。こんなにも、誰かを愛おしいと思ったのは初めてだ。
君の髪も肌も、目も鼻も口も……全て愛おしい。」
ビンセント様って、こんな方だったでしょうか!?
頭がついていけません!
「私はまだ、夢の中にいるのでしょうか……?
ビンセント様……いきなり、そんなに溺愛されたら困ります……」
ビンセント様の事は、もちろん好きです。ですが、この感情が愛なのかは経験した事がないので分かりません。
夫婦なのだから、いつかは愛される存在になれるのかもと期待はしていましたが、こんなに溺愛されるとは思ってもみませんでした。
「君を愛する気持ちが変わることはない。君が望むまで、手を出すつもりもない。だからどうか、この気持ちが重荷だとは思わないでくれ。」
重荷だなんて!!
「ビンセント様のお気持ちは、すごく嬉しいです。ただ、私は愛された経験がなく、どうこたえていったらいいのか分からないだけです。」
「君は君のままでいい。変わる必要はないし、むしろ変わらないで欲しい。
私は、ありのままの君が好きだ。」
心がフワフワして、とても幸せな気持ちになりました。私も、ビンセント様を幸せにして差し上げたいと思いました。
そして私は、ビンセント様のお顔にある傷に触れた。
右頬に残る大きな傷あと。
「ビンセント様のお心にある傷を、少しでも癒したい……」
ビンセント様は驚いた顔をしたあと、頬に触れている私の手の上に自分の手を重ねた。
「君にはずっと、癒されている。」
そう言って笑ったビンセント様が、どこか悲しそうに見えました。
傷の事には、触れてほしくないようです。
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