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兄弟
しおりを挟む私が目を覚ました事を、この国の民はもちろん、ビモード王国の国民も皆喜んでくれました。
私が眠っている間に、色々変わっていたようです。
私の前では、仮面を外すようになったビンセント様ですが、臣下や国民の前では仮面をつけたままでした。
仮面を外したお顔は、大きな傷があっても気にならない程とても美しい。
ビンセント様が隠したいのは、顔にある傷とその傷にまつわることなのでしょうか……
「まだ早いのではないか?」
「早くなんてありません。遅いくらいです!」
朝食のパンを一口食べたビンセント様が、私が街に行く事を察したようです。
「君は言っても聞かないのは分かっている。
シルビア、セリーナが無理をしないように見張っててくれ。」
「かしこまりました。」
ビンセント様は過保護過ぎです。
意識を取り戻した時、主治医は何ともないと言っていたのに。
命を狙ったのはお父様達で、もういないのですから、私が狙われる事はないと思いますし。
ビンセント様にご心配をおかけしたのは、本当に申し訳ないと思っております。ですが、私は私のやるべき事があります。
ビンセント様がこの国の為に頑張ってくださっているのですから、妻の私がゆっくりしているわけにはいきません。それに……
「無理はしないので、心配なさらないでください。ワガママを言って、申し訳ありません。
ですが、これが私の幸せなのです。お許しください。」
ビンセント様は仕方ないなと言いながら、パンを頬張っていました。こんな妻で、ごめんなさい。
久しぶりに街に出て来ました。
「王妃様!?」
「お身体は大丈夫なのですか!?」
「王妃様……うぅ……ご無事で本当に良かった……うぅ……」
皆さんにも、ご心配をおかけしてしまいました……
「皆さん、ありがとうございます。私はもう大丈夫です。」
こんなに沢山の人が、私の事を心配してくれてる。もう二度と心配かけないようにしないと。
何事もなくパンを配り終え、帰ろうとした時……
「あなたが、王妃様ですか?」
そう声をかけてきたのは、若い男性でした。どこかビンセント様に似ているような?
「俺はジョシュア。義弟って事になりますね。」
義弟って事は……
「ビンセント様の!?」
ビンセント様の弟君であるジョシュア・ドリクセン公爵は、ビンセント様を嫌っていると聞いた事があります。結婚式には、病気を理由に姿を見せなかった。……すごく元気そうですね。
そのドリクセン公爵が、どうしてここに?
「兄には関わらないと決めていたんだけど、あなたの評判を聞いて、会ってみたくなったんだ。
噂通りの美しさと、国民想いのセリーナ王妃様……いつボロを出すの?」
……え? ボロって、どういう事?
「兄にやらされてるんでしょ? アイツはずる賢いからね。」
国王でお兄様のビンセント様を、アイツって……
嫌っているとは聞いていたけど、どうしてここまで悪く言うの?
「本当にビンセント様の弟君ですか? ビンセント様は、そのような方ではありません。何か誤解しているのではありませんか?」
実の弟だとしても、ビンセント様を悪く言うのは許せません。
「誤解? それは、あなたの方じゃないですか?
アイツは国王の器じゃない。アイツを信じるのは、やめた方がいい。」
ドリクセン公爵は馬車に乗り込み、去っていった。ビンセント様との間に、何があったのでしょう?
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