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ビンセントの過去
しおりを挟む「それは、どういうことですか?」
ビンセント様が、お父上を殺すなんてありえない……でも、こんなに真っ直ぐな目で見てくるドリクセン公爵が、嘘をついているとも思えない。
何か事情があるのでしょうか……
「あの日、俺は父上に呼ばれて執務室に向かった。執務室のドアをノックしても返事がなかったから中に入ったら、兄上は血まみれで……倒れている父上の側に立っていた。」
確かに、その光景だけを見たらビンセント様を疑うのは仕方がない事かもしれない。
でも私には、どうしても信じられない。私がこの国に来る前のビンセント様は、変わり者で誰も信用しない方でしたが、それでも実の父である前国王様を殺すような方ではなかったと思います。
「その後は、どうしたのですか?」
「その後? 目の前でそんな光景を見てしまった俺は、逃げ出したさ! そして、兄上と関わるのをやめた。」
「では、ビンセント様には何も聞いていないのですね?」
「聞く必要なんてあるか!?
あの状況が、全てを物語っていた。」
デリターの前国王様がお亡くなりになったのは、5年前。その時、ビンセント様は18歳。そして、ドリクセン公爵は13歳。
13歳の少年が、そんなものを見てしまったら、逃げ出すのは当然かもしれません。
「ですが、ビンセント様が殺した所を見たわけではないのですよね?」
「だがっ……
見てはいないが、あの時の兄上の顔は覚えている。顔が大きく切れていて、きっと父上が抵抗してつけられた傷だ!」
あの傷は、その時のものなのですね。
傷に触れた時、すごく悲しいお顔をしていました。そんな方が、お父上を手にかけたとは思えません。
「それはきっと違います。私は、ビンセント様を信じます。」
「……アイツを信じる? 君は、洗脳でもされているのか!? 今日はもう話したくない。失礼する。」
機嫌を損ねてしまったようです。
去って行く後ろ姿が、とても小さく見えました。
ドリクセン公爵は、きっと誤解してる。ビンセント様と、分かり合えたらいいのですが……
翌日から、毎日会いに来ていたドリクセン公爵が来なくなりました。
前国王様が亡くなった日、何があったのかビンセント様にお聞きしたいけど、どう聞いたらいいのか分からず、ビンセント様を悲しませてしまいそうで、未だに聞く事が出来ていません。
月日だけが過ぎていき、ナーガブルクの王女が来る日がやって来ました。
「お初にお目にかかります。
ナーガブルクの王女、マギーと申します。」
マギー王女は、美しい金色の髪をなびかせて頭を下げ、エメラルド色の大きな瞳をうるわせながらビンセント様に挨拶をした。
なんて可愛らしい方なのでしょう……
「よく来たな。私がデルターの国王だ。王族との婚姻が望みだそうだが、あいにく王族で紹介出来るのは2人しかいない。2人に会ってみて、気に入らなければ諦めて欲しい。」
ビンセント様は、政略結婚をさせようとは思っていないようです。理由は、愛する人と結婚する方が幸せだからだそうです。
私達は政略結婚みたいなものでしたが、愛を知って考え方が変わったとビンセント様が仰っていました。考え方というよりも、言動がかなり変わりました。
最初は冷たくされていたのが、嘘のように甘い言葉を毎日くださいます。
「陛下、私はその方達と結婚するつもりはありません。陛下の側室になりたいのです。」
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