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仮面の男性の正体
しおりを挟む結局私は、あの邸を出る事が出来ませんでした。出て行きたい気持ちよりも、お母様への気持ちの方が勝ったのです。
シリルはお父様達から、援助の事を聞いたようで、今朝『お姉様なんて、追い出す価値もないわ!』と、言われました。ちょっと意味はわかりませんが、シリルは罵倒したつもりのようです。
「センセイ!」
家庭教師の仕事をしに王城を訪れると、プリシア王女は1階で、私が来るのを待ってくださっていました。
「プリシア王女、そんなにお勉強がしたかったのですか?」
「センセイのいじわるー! センセイに会いたかったから、待ってたのに……」
「ふふっ。少し意地悪でしたね。私も、プリシア王女に会いたかったです。」
そう言って、セシディは満面の笑みを浮かべた。
『氷のセシディ』の、満面の笑顔……その場にいた者達は、あまりの美しさに魅入った。
「今日はね、センセイに紹介したいひとがいるの! センセイと同じくらい、大好きな人なの!」
「紹介したい人、ですか? プリシア王女が大好きな方を紹介してくださるなんて、嬉しいです。」
プリシア王女の部屋で待っているからと、手を引かれながら着いていく。そして、部屋の中にいたのは……
「また、お会いしましたね。」
今は仮面をつけていないが、学園ダンスパーティーの時の仮面の男性だった。
「あな……たは……」
仮面がなくても分かります。あの優しい雰囲気、吸い込まれそうな青い瞳……ダンスパーティーの時の仮面の男性。
「ロイドお兄さまです! ……って、あれ? センセイとお兄さまは、お知り合いだったのですか?」
二人の様子を見て、知り合いだったのかと不思議に思うプリシア王女。
「ふっふっふっ。子供の君には分からない、大人の事情があるのだよ。」
「子供扱いしないで! どうせ、お兄さまが勝手にセンセイに会いに行っただけでしょう?」
「うっ……なんて鋭いんだ。その通りだ! プリシアがあまりにも褒めるから、話してみたくなって、会いに行った。」
二人の様子を見ながら、セシディは自然と笑顔になっていた。
本当に仲がいい兄妹なのですね。プリシア王女も私と同じで、お兄様とはお母様が違うはず。
シリルと私の関係とは大違いで、本当に微笑ましいです。
「昨日は自己紹介もせずに失礼しました。私は、プリシアの兄、ロイドです。いつも妹が、お世話になっています。」
「はじめまして……ではないですね。セシディ・ランバートです。お世話になっているのは、私の方かもしれません。プリシア王女には、とても幸せな気持ちを頂いています。」
「センセイって、本当にステキでしょ?」
「ああ、そうだな。本当に素敵だ。勉強の邪魔をしてはいけないので、今日はこれで失礼します。また、近いうちに。」
そう言うと、ロイドは部屋を出て行った。
「センセイ、お兄さまに会った時変なことされなかった?」
「八歳の王女様が言うことではないですね。……大丈夫ですよ。ロイド様は、私を救ってくださいました。」
「よかった! 私ね、お兄さまとセンセイが結婚してくれたらなって……えへへっ。」
「な!? 何を仰るのですか!? お勉強しますよ!」
プリシア王女の言葉で、セシディは顔を真っ赤にしていた。氷のセシディの氷は、プリシア王女によって、徐々に溶かされ始めていた。
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