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セルドア
しおりを挟むデルダン王子が国境を過ぎ、しばらく馬車に揺られていると……
ヒヒーン……
馬車が急に止まった。
「何事だ!? 」
馬車から顔を出し、馭者にたずねるデルダン王子。
「それが……馬車の前に、男が飛び出して来たのです。」
馬車の前に飛び出して来た男は、セルドアだった。
「デルダン王子!! どうか1度だけお許しください!! 私はデイモン王の弟で、王族です! 1度だけお許し下されば、いつかデルダン王子にご恩をお返し致しますので!」
セルドアはデルダン王子が国境を通るのを、ずっと待っていた。デルダン王子が許してくれさえすれば、国へと戻れると思ったのだ。
「……貴様に望んでいたことはただ一つ。ティナだけだ。それが叶わないのに、なぜ助けなければならないのだ?」
「ティナをボーメン男爵の元から連れてまいります!」
「貴様は死にたいのか? なぜ私が、男爵ごときの手のついた娘を妻に迎えなければならないのだ? そこを退け。退かぬなら斬り殺す。」
デルダン王子は護衛を呼び寄せ、
「馬車が動き出した時、あの男が私の行く手を塞ぐようなら斬り捨てろ。」
「はっ!」
セルドアには最初から他に策などなかった。そもそも策が思い浮かぶほど優秀だったら、こんな事にはなっていない。
ヒヒーン
馬車が動き出すと、セルドアは大人しく道をあけ、デルダン王子は国へと帰って行った
「くそ! なんでこんな事になってしまったんだ!? 私は王族だぞ!? ……全てあの2人のせいだ。ロザリアとイライザがティナをボーメン男爵になど嫁がせ、ティナとデルダン王子の縁談を邪魔しなければ、私はブレディント王妃の父になれたというのに……!!」
セルドア自身も賛成していた事は、もうすっかり忘れていた。
「アイツらを絶対に許さない!」
セルドアは酒屋に行き、上着を脱ぎカウンターの上に置いた。
「店主、この服と交換で、この店で一番強い酒をくれ!」
「これはなんと上等な……。わ、わかりました。少しお待ちください。」
店主は店の奥から、一番強い酒を持ってきて、セルドアの着ていた上着と交換した。
「あとマッチを頂きたいのだが。」
「どうぞ。」
店主は店のマッチを、セルドアに渡し、酒とマッチを受け取ったセルドアは店をあとにした。
「こんな上等な服を着ていたんだから、どこかの貴族だろうに、あんなに強い酒をいったいどうするつもりなんだろうか……。」
店主は不思議そうに首を傾げた。
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